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デガニモナス

 良質だった睡眠は唐突に終わりをむかえた。


 タオルケットも蹴飛ばし布団で大胆に寝ていたヒナの耳に、どこまでも耳障りな笛音が響く。

 爆睡していた心地よさも一瞬で吹き飛び、跳ね起きる。ヒナよりひと足先に飛び起きたユキが不愉快さから必死に耳をいじっている。人間のヒナでもこの不愉快さなのだ。耳の良いユキにはひどい苦痛だろう。

 だがそうのんびりもしていられない。緊急事態だ。

 これはヒナ自作の笛の音だ。わざわざこういうえげつない音が出るようにし、テナスたちに渡した。


 再び耳をえぐり、脳を貫くような警笛が辺に響き渡る。


 「何回も吹くな!聞こえとるわ!」


 暴言一言、ユキを抱え即座に転移術式を展開する。ものの1秒のうちにヒナの体は光の粒子状にまで分解され消えた。



 だだっ広い草原上空にヒナとユキの体が突如現れる。瞬時にユキが巨大化し、ヒナを乗せて平野を疾走する。

 敢えてテントからは少し離れた位置に座標を設置した。テナス達が手こずるような相手の側に出るのは避けたい。


 数秒後にはテントを視野に捉えた。テントからは結構離れた位置で戦闘は行われていた。魔物から放たれる爆風の余波がヒナにまで届く。遠視で戦闘を確認する。


 デカブツと戦っているのはユエとガマニだ。ガマニが注意を引き、ユエが撹乱。デカブツの意識を何とかテントから引き離している感じだ。見た感じ決定打がないらしい。

 テントの方を見て気づいたが、小物が取り囲むように集まっている。

 テナスが何とか牽制しているが目に見えて押し込まれてきている。


 再び耳をつんざく笛の音が鳴り響く。

 巨体の動きが鈍くなり、耳を塞ぐよう器用に手を頭に合わせている。

 テナス周りの小物に至っては一部が気絶し、テナスに少しばかり猶予ができている。


 ユキにはテナスの方の救援に向かうよう指示し、ヒナは笛を吹きつつも器用に攻撃をいなしているガマニの元に向かう。


 抜刀し大木のような後ろ足を横薙ぎに斬りつける。

 去り際に逆足も遠慮なく斬りつける。巨体の後方のから時計回りに一周し、いかつい顔面の前で踏ん張るガマニの元に向かう。


 「お困りかな?」

 「こいつのくさい息が染み付かないか絶賛心配中だよ!」


 振り下ろされた前足を弾き飛ばし、盾を構え直したガマニは次の攻撃に備える。


 「にしても、この笛ちゃんと鳴ってたんだな。吹いても吹いても、音でないからよ、不良品押し付けられたかと冷や冷やしたぜ。」

 「私達には超不愉快な音がえげつなく鳴り響いてるよ。だからもう吹かないでね。絶対だからね!」


 お、オウ、とヒナの剣幕にたじろぎながらもガマニはブレスを盾で方向をずらし、あっさりと難を逃れる。


 「随分と余裕じゃん。私いらないんじゃない?」


 ヒナを狙った一撃は腕を縦に切り裂かれるという代償を伴い、すぐに引っ込められた。


 「冗談はよしてくれよ。俺たちじゃこいつ止められないんだよ。うちの火力はリースだよりだからな!」


 学習しない前足が再びガマニに弾かれ態勢が大きく後ろに傾く。そこを待ってましたというようにユエが滑り込み、腹に横一文字のナイフ傷をつけた。


 「そうだよ。ヒナちゃん。私達じゃジリ貧なんだから、リースを行動不能にした責任は取ってよ!」


 腹を抜け、背中を切り裂きながら進むユエがちゃちゃをいれる。


 「やっぱ帰ろっかな。」

 

 長剣を背にしまい、ガマニの後ろに隠れる。


 「嘘嘘!ほんと冗談だから、助けてください!もう体力的に無理なんです。なんとかしてくださいー!」

 「随分余裕そうだね、あいつ。」

 「体力テストじゃ、あいつが一番成績いいからな。」

 「ガマニじゃないんだ?一番がっしりしてるのに。」

 「筋肉だけさ。スピードと体力でボロ負け。握力ぐらいだぞ。俺が一番なの。」

 「なんかわかるわ。」


 ガマニと談笑しつつ、魔物の確認をする。

 このデカブツは"デガニモナス"。全長5メートルほどの哺乳類系の魔物。熊のような体格で、頭には角が生え充血した目は常に真っ赤。尾は長く、先端フサフサの毛で覆われている。

 ガーゴイルを筋肉だるまにしたような見た目が一番しっくりくるかもしれない。

 はっきり言って、でかいだけの雑魚だ。皮もたいして固くなく、普通のナイフでもがんがん刺さる。

 攻撃も単調。厄介なのは体がでかい。それだけだ。そのせいで今回みたいに余裕だけど決定打がない、みたいなことは起こりかねない。

 

 「人間的にはこれ、どれぐらいの脅威なの?」

 

 ヒナの基準はほぼ全てがユーリン基準となっているため、恐らく普通とは少しズレてる。その自覚もあるため、一度聞いておきたかった。


 「そうだな、だいたい、上から7番目の階級ぐらいの危険度。」

 「何階級あるの?」

 「11!」

 「結構下だね。」


 真ん中ぐらいと思っていただけに予想よりは大分下だ。


 「そうでもないぞ!上から7番目より上位のやつは超危険。俺らの社会じゃ、それが基本だからな。上の方の階級わけが多すぎるんだよ。上から4番目より上位のは俺たちじゃまずどうにもできないしな!」


 ブレスを弾き、ガマニが一段距離を取る。


 「もう、いいぐらいだろ?」

 「いいよ。後はなんとかしてあげる。」


 ガマニは戦闘中も周りが見えてる。ユエが攻撃しやすいよう敵の態勢をコントロールし、着実にダメージを重ねていた。それにヒナの方の確認も怠っていなかった。優秀!

 心のなかで称賛し、ヒナも戦闘に加わる。


 ガマニの後方からすり抜け、デガニモナスの腹の下をナイフで切りつけながらすり抜ける。横腹にナイフを突き刺し、勢いそのまま背中へと躍り出る。


 振り落とそうと必死にもがいているが、その程度の揺れでは落ちない。ご自慢の巨腕も背中まではギリギリ届かない。しかしのんびりもしていられないためナイフを突き立て頭まで一気に駆け抜ける。


 頭に近づくに連れて腕が掠めそうになる。動きは遅いため避けるのは簡単だ。

 首に跨り、握りつぶそうと伸びてくる腕を突風で吹き飛ばす。この一瞬で十分だ。

 体に似合わない小さい頭に照準を合わせ、極細の熱線を放つ。


 「第21階位 熱光線(レーザー)


 デガニモナスの頭部が熱に溶け、肉の焼ける異臭漂う。脳を一撃で貫いた。脳機能は完全に停止している。固まり動かなくなった巨体が重力に従い崩れ落ちる。


 首から離れ、死体の前に立つガマニの元に華麗に着地する。


 青々としていた草原ははデガニモナスの血液で赤黒く染まり、血なまぐさい。


 勝利のVサインを決め、ガマニに勝利を告げる。

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