後日に向けて
ヒナの召喚した大剣は依然深々と地面に突き刺さっている。
大剣の周囲はひび割れ、一部抉れている。それがこの大剣の異常さを何よりも証明している。
頭を抱えていたテナスも、今は立ち直り大剣を眺めている。表情はいいとは言えないが。
「これ、どうしような…。」
取り敢えず抜いてみるかと、諦めた顔でテナスが柄に手をかける。
普通に引き抜くのは無理と目星をつけているのか、腰を落とし、両手で柄をしっかりと握っている。
米袋を持ち上げるときのような体勢だ。
掛け声一つ、テナスが全力で剣を引き上げる。
しかし、大剣はというとピクリとしか動いていない。ピクリと動いた!、というべきか。
取り敢えず、引き抜くには程遠い。
「―――重すぎん?」
「私もそう思う。」
私の同意にテナスの顔は余計に困惑一色に染まる。
「いる?これ。」
「いるいる。いざというときに使える。」
「じゃあ、ヒナはこれ抜けるのか!?」
大の大人の男であるテナスで持ち上げることもできないものを、見た目は幼女よりの少女が使うといえば驚くのも当然だろう。
「無理」
持ち上げるぐらいなら可能だが、引き上げるところ
までは無理だ。まずまず、この大剣私と背丈変わらないし。
テナスの顔が困惑を超え、諦観に達しようとしている。
「ガマニ!こっち来て、これ抜いてくれ。」
焚き火周りでユエと一緒にスライムをいじっていたガマニが小走りでこちらに来る。
「どうなってんの?」
ガマニも困惑顔か。
「ヒナの大剣らしいけど、召喚した瞬間に突き刺さってな、見たとおりだ。」
「いやいや、おかしくね?」
「気にするな。俺も何回もおかしくね、とは思ったから。今更無駄だ。」
テナスの諦めろと言うような顔がなんとも癇に障る。
それを聞き、ガマニの顔が微笑みでいっぱいになる。その悟った笑顔のまま、やってみるけどよと、テナスと同じような体勢で大剣に手をかける。
気合一声、ガマニが一気に力をかける。
大地の割れる音が響き、少し大剣が浮き上がる。そのまま少し、少しと大剣が上がっていく。それに比例して、ガマニの顔が真っ赤に染まり、血管がはち切れそうな程膨らむ。
ヒナとテナスから歓声が上がりだした辺りで、ガマニが力尽きた。大剣が再び重力に従い、急降下する。大地が爆ぜ、先程より深く大剣が刺さる。鍔の部分でなんとか埋没するのは免れている。
「スマン。」
ヒナとテナスの落胆のため息に謝罪するガマニだが、ここでガマニが謝るのはお門違いだ。
持ち上げられただけ、拍手喝采だ。
「じゃあ、私がなんとかしないとね。」
というわけでヒナの出番だ。出したからにはきちんと、後始末もしなければならない。
空間魔法術式を展開し、座標を指定する。
大剣を中心に魔法陣が出現し、"門"が開く。一瞬のうちに空間ごと大剣が消える。空間を飲み込みきった"門"は消滅した。
後にあるのは、ポッカリと空いた地面の穴と、呆然とした顔のガマニとテナスだ。
「俺、なんのために大剣引き抜こうと頑張ってたの?」
「力自慢?」
「抜けなかったら、結局意味ねーよ。」
ガマニは少し、意気消沈しているので放置しておくことにする。
もう一度"門"を開き、大剣を出現させる。今回は向きにも気をつけた。なんとか大剣を引っ張り出し、大地に寝かす。横においても変わらず地面は大きく抉れてしまった。
異空間に放り込んだにも関わらず、まだ少し土塊がこびりついている。土塊を蹴り飛ばし、軽く磨く。
漆黒の刀身が今回ははっきりとあらわになる。
なんかこう見ると私、黒ばっかだな。
髪は黒。目隠しも黒。服も黒。靴も黒。武器も黒。
もう少し別の色も取り入れねば。黒でない部分といえば、深紅の目だけだ。
「これもまた、すごいな。自作か?」
「うん。」
片手剣よりは作りやすかった。軽くなるよう薄くする必要がなかったので、結構適当に作ってしまった。もともと、切るより叩き潰すがメインになるようにしていたものだし。
「本当に使えるのか?」
「一応使える。」
そんなに疑うか。使えないものをわざわざ作るほど暇では…なくないな。確かに、こんなデカブツを少女が振り回すのは想像したくないかもしれない。私はしたくない。
「ヒナは異空間収納ができるんだよな?なら、そこに全部入れてしまえば、バレずに通れる。」
うん。私達って完全に密入国者だよね。いかに怪しくなく、入国するか。ここだけ聞いてたら超怪しいね!
たとえそうでも、私はやるけどね!
「無理。大剣一個が精一杯。」
私の異空間は無限に広がっているが、管理できる空間はほんの少ししかない。大剣一つ分がぎりぎりのラインで、それ以上の物を収納すれば、永遠に異空間を彷徨うことになる。
「そうか…。じゃあ、大剣は異空間収納するとして、残り2つだな。もしかして、ナイフも特殊だったりするのか?」
ナイフはそこまで特殊ではない。片方は切れ味を良くしているが、もう一方は丈夫なだけで、一般的なナイフとほとんど変わらないはずだ。
「特殊な仕掛けはないよ。片方は少し切れ味がいいぐらい。」
「なら、大丈夫だな。普通にヒナが護身用に持っていた、でいける。ただの好奇心だが、そのナイフどれぐらい切れるんだ?」
どれぐらい。実は普通のナイフがどれぐらい切れるかは前世の知識しかない。それを基準にすれば、石を切ればいいかな?
近くにある大きめの石を運び、テナス達の前に立てる。
「デカくね?」
「そう?これぐらいで丁度いいかなと思ったんだけど。」
「ガマニこれ運べるか?」
「頑張ってなんとか運べるって感じだな。こんな安安とは絶対に無理。」
私を化け物見るような目で見るな!これでもか弱い女のコなのだから。優しく扱ってほしいものだ。決して化け物扱いされたいわけじゃない。
「じゃ、やるよ。」
ナイフを順手で持ち、素早く横に振るう。大振りにはせず、小振りで、より速く振る。
スパッという、いい音が聞こえることはなく。石と金属がぶつかるような音が響く。
音に遅れて、擦れる音と共に石がずれ始め、地面に落ちる。
「もう少し硬いものでも切れる。」
「俺はもう、驚かないぞ。大丈夫、大丈夫だ。」
あれは大丈夫じゃないな。テナスの好奇心には答えた。ナイフはヒナが持っていていいようなので、元の隠し持っていた部分にしまう。
「片手剣、どうする?」
「拾った、は?」
拾ったは流石にきついだろう。児童を保護し、剣も拾った。偶然がすごいな。でも、冒険者なら案外あるのかもしれない。それは、テナスの判断次第だけど。
あ、でも拾い物は困る気がする。拾い物って回収されそうな気がする。持ち主探しとか。しないのかな?日本だけ?
「拾い物はありといえばありだが、問題はどこでどう拾ったかだよな。それに、できたらヒナの所有物になんとかしてできるのが一番いいんだけどな…。」
「じゃあ、私の父の遺物は?」
テナス達の顔が一瞬ギョッとしたものに変わるが、そんなにおかしなことを言っただろうか。親族の遺物なら持ってても取られなさそうな気がする。多分だけど。
「えっと、その、な。家族の死をそう安安と使用するのは、そのどうかと思うぞ…。」
なるほど、そういうことね!テナス達が心配したのは倫理的なことか。
「それなら問題ない。私、父母兄妹どれもいないから。最初の方に不明って言ったじゃん。」
「あれ、本当だったの?てっきり嘘かなと思ってた。」
「そんなことで嘘はつかないよー。」
そんなことなのか?とテナスは少々困惑顔だったが、私にとってはそんなことだ。
「ん?じゃあ、ユーリンさんは…?」
「義母?かな。私が養子みたいな感じだし。ユーリンに配偶者もいないから、父が死んだは全く問題ないよ。」
「そうか…。あ、だめだ。それをしたら前提条件の捨て子設定が使えない。」
ホントだ…!設定を作るのはなんとも難しい。矛盾がないよう常に気を配らねばならない。
「じゃあ、兄の遺物。」
「今度は兄か…。」
また、テナスがなんとも言えない顔をしている。
テナスには家族に当たる人物を軽々しく扱うことに何か思うところがあるのだろう。そこは尊重すべきところだが、私にとってはそこまでのことではないし、私のことなのだからそこまで気にしないでほしいと思う。
「兄なら、捨て子設定も遺物設定も両方使える!矛盾なし。」
「確かにそれならいけそうだな。」
ガマニはヒナの提案に賛成路線のようだ。あとはテナスだけだ。気持ちの面の説得はなんとも難しい。気持ちとはなんとも気まぐれで、自己中で。だからこそ気持ちなのだが、こういうときは少し困ったものでもある。テナス自身が自分でなんとかしてもらうしかない。
でも正直なところめんどくさい。
「テナスが何か思うところがあるのはわかった。でも正直めんどくさい。気にしても仕方がないものは仕方がない。」
「おい、ヒナ!言い方には気をつけろ。」
何故かガマニがお怒りだ。確かに言い方は良くなかったかもしれない。テナスのことをほとんど考えていなかった。
「ガマニ、いいんだ。俺のことはそこまで心配しなくていい。思うところはあるけど、それを押し付けるほど無粋にはなりたくないしな。」
「テナス…。いいのか?」
大丈夫だからとガマニに言うテナスは少し吹っ切れたようにも見える。私がそう思いたいだけかもしれないが。
「私も不躾だった。ごめん。」
「いや、本当に気にしなくて良いから。変に気にしているアピールしてしまった俺も悪かった。」
「ヒナ。俺も言い方がきつかった。スマン。」
全員が揃って頭を下げる形になってしまった。その雰囲気を察してか、ユキも隅で大人しくしている。
それでも、空気を読めない奴はいる。本当に頭が沸いているんじゃないだろうか。余りに浮いた声が響いた。全員が頭を下げたまま、冷たい目で声の出どころを見る。
「で、で?もう終わった?頭なんか下げあって?もう飽きたんだけど。」
先程までユキとゴロゴロとくつろいでいたくせに今は、そのうるさい顔がヒナ達の目の前で頭をかしげている。
「これ、人間?」
「もちろん、人間だとも。」
人間であると答えるガマニの目には諦めの色が浮かんでいた。




