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ユーリン参上

 日も少し傾き始めた。だからと言って涼しくなるわけでもなく依然として日は熱気を放っている。

 中央の焚き火は弱々しくなってきた。


 「なあ、ヒナを保護児として扱うなら口裏合わせしといた方が良くないか?」

 「確かにそれもそうだな。密入国者扱いになるのは困る。それにヒナの本名もまだ知らなかったしな。」

 

 そういえば言っていない。名前しか伝えていなかった。だが、本名といっても私自身養子みたいなところがあるから、それでいいのかという疑問はある。

 まあ、気にしても仕方がない。


 「私の本名は、"ヒナ・ボルニシカ"。」

 「ボルニシカ姓か。なら、なおさらラッキーだな。うちの国はボルニシカ姓がそこそこにいるし、未登録児童という扱いにもできる。」

 「ボルニシカ姓って有名なの?」

 

 ボルニシカはユーリンの姓だが、王国にも同じ姓があるならユーリンと何かしら関係があるかもしれない。


 「有名だぞ。まず、本家ボルニシカ家っていう大貴族がいてな、そこからの分家の中流貴族が結構な数いる。そこから更に平民層との家系ができて、今では大貴族から平民までがボルニシカ姓を名乗るという、とんでも姓の一つだ。」


 大貴族。そこを調べたらユーリンとの関係や妖精の秘密も何か知れそうな気がする。


 「本名以外で何知りたい?」


 実際私は9年間人間と関わったことがない。どんな制度でどういう歴史なのかとかは詳しくは知らない。テナスかガマニの判断をあおるしかない。


 「そうだな。入都時に保護児について聞かれることは意外と少ない。だが後のお役所では結構聞かれる。まあ一つずつ挙げていくとだな…。」


 テナスの話をまとめるとこうだ。

入都時に聞かれることは、

1種族

2名前 

3年齢

4国籍

5住所

6職業

7保護した時刻

8保護した場所

9保護した経緯

10保護対象は何をしていたか


 特別怪しいことがなければそれだけで入都はさせてもらえるそうだ。あと、入都時に写真も撮られるそうだ。写真があることに驚きだ。ファンタジーな世界のくせして結構発達しているのかもしれない。

 入都後は役所に行くことが義務化されているらしい。当日中に行かなければ即指名手配。保護児、保護者共に豚箱に送り込まれる。


 で、役所ではまた同じことを聞かれ、それに加えてまた色々聞かれるそうだ。その後は役所で保護される。

 他国籍なら強制送還。保護者が見つかれば引き渡し。見つからなければ孤児院行き。15以上なら基本放置。

 もっぱらそんな感じだそうだ。

 つまり、私なら放置される。国籍もないから追い出されることはないけど、保護もしてもらえない。


 その後は自分で国民票を取得し、働く…しか選択肢がない。


 「まあ、そんな感じであってるぞ。さっきあげた質問事項については少なくとも無理ないようにしないとな。」

 「じゃあ、一つずつ。

 種族 妖人 

 名前 ヒナ・ボルニシカ 

 年齢 16

 国籍 なし

 住所 なし

 職業 無職

 他の質問はどう答える?」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ。ヒナって16なのか⁉」


 柄にも無さそうにテナスが仰天している。


 「16だよ。言ってなかったっけ?」

 「そういや、俺は聞いてたけどテナスには言ってなかったな。」

 「10くらいと思っていたんだが…。」

 「ガマニと同じことを言ってる。」

 「マジか…。16か。」

 

 大袈裟に驚かれても嬉しくない。

 本当に揃いも揃って失礼な奴らだ。そんな驚くべきことなのか。


 「で、他のはどう答えるの?」

 「そうだな。時間は今日の正午前後。場所は少しズラすが、平野南東部アリオネの森西部、にしようと思う。理由と何をしていたかはふらついていたから、以上。」


 最後のはすごい雑な気もするが何も気にしないで突き通せる。


 「待って。何をしていたのか私に聞かれたら何て答える?」

 「さっきのは…使えないな。」

 

 さっきまで一切話に入ってこなかった癖にここぞというようにユエがしゃしゃり出る。


 「ハンティング!」

 「却下だ。」

 「早い!早いよ!もう少し考えてほしいぐらいだよ。いいじゃんハンティング!」

 「目が覚めたら森にいた。シンプルだがこれでいいんじゃないか?」


 ユエをサラリと流すテナスには尊敬を示さねばならない。私もうまくスルーするようにしなければ。真面目に相手をしていたら間違いなく潰れてしまう。


 「いいと思う。何も考えなくていいし。」

 「お、じゃあそれで決まりか?」

 「ああ。入都時のはそれでいいだろう。役所の方はヘリウスに任せた方がいいだろう。」

 「よし!じゃあこれで相談は本当に終わりだな。」


 ガマニが終了にかかるがそれはまだできない。ガマニには申し訳ないがストップをかける。


 「待って。服、どうする?森にいたにしては綺麗すぎる。」

 「確かに…。切ったり泥を着けてもわざとらしくなるしな。それにヒナの服は少し高級感がありすぎる。」

 「高級感あるとだめなの?」

 「ああ。そんな服をおいそれと買って捨て子に着せられるのは貴族だけだ。貴族となると特定の捜査が急速に進む。それに貴族への疑惑が上がるのは避けたいところだからな。できれば平民からの、という設定でいきたい。」


 ここだけ聞くとまさしく密入国者のようだ。だが、目立たないに越したことはないし、詮索されないようにできるならそうしたい。

 

 「服持ってる?」

 「大人用ならあるぞ。」

 「着れないし!」

 「そうなんだよな。どうしたもんか…。作るなんて不可能だし、買いに行くも無理だからなー。」

 

 「そうそう。作るなんて無理無理。街に行くのは諦めましょう!」


 服について真剣に考えなければならないとは…。諦めるという選択肢はない。行きたいものは行きたい。


ん?


 サラリと流してしまったがさっきの場違いなほどに明るい声は誰だ?ユエのとは明らかに違う。


 「警戒がガバガバだよー。そんなんじゃ悪い狼にパックンチョされちゃうよ。ね、ヒナ。」


 ……しまった。

 戦略的至急撤退だ。

 転移陣を構築し、一瞬で退避する。テナスたちには悪いが一時撤退させてもらう。


 川沿いの森林地帯に出る。


 「ノンノン。そんなんじゃすぐに追いつかれちゃうよ。」


 出た瞬間前にいるのは先の明るい声の主だ。

 転移陣を再構築しすぐに転移する。今回は更に転移陣を二重に加え、転移した瞬間転移するよう調整した。

 目まぐるしく視界が変化し、気持ち悪さがこみ上げる。


 「ダメダメ。行き先がバレバレ。もう少し抑え込むようにしないとね。波長に行き先の情報が全部載っちゃってるよ。」


 勘弁してほしい。再び再構築だ。

 またも視界が変化し、草原地帯に出る。どうせ今回もそこにいるのはわかっている。転移陣を再び二重に組み一瞬で転移する。

 テント前方に出た。話しかけられる前に、即座に構築する。しかし転移はしない。転移する瞬間に取りやめ、全力で走ることで逃走を図る。


 『止まれ!』


 一際凛とした声が響き、体が完全に停止する。

視界を横になんとか逸らせば、固まっているテナス達が見える。

 やられた。

 言霊のことを完全に忘れていた。


 「フフン。惜しかっわねー。転移すると見せかけての全力逃走。もし私が転移につられてたら、0.2秒ぐらいは時間稼げてたよ。」


 それでもたった0.2秒ということに完敗でしかない。0.2秒なら逃げれても数十メートルだ。はっきり言って誤差の範疇だ。


 「モゴモゴ、モゴ!」

 『話せ』


 再び凛とした声が響き、口の自由が戻る。


 「お、おはようございます。……ユーリン。」

 「おはよう、ヒナ。正しくはこんばんはだけどね。」


 顔が怖い。ニコニコしているのが逆に不気味だ。

しかし、そんな恐れ多いお顔を堪能する間もなく、焦りが混じった声が響く。


 「おい!ヒナ。これはどういうことなんだ?あと、どちら様だ?」


 こちらを唯一見ることができているガマニが代表して尋ねてくる。いかにも慌てているという様子だ。

 私も初めて使われた時は相当慌てたものだ。まあ、あの時は随分とうるさい奴がいたものでそれどころでもなかったが。


 「身内!後で説明するからちょっと待ってて。」

 

 逃走に諦めをつけ、正面のオコな人物に対面する。体制があれなだけになんともしんどいが今は我慢する。

 取り敢えずユーリンの御立腹さをなんとかしなければならない。


 「えーと、ユーリンさん。この拘束をなんとかしてもらえないでしょうか?」

 「やだ。」

 

 ですよねー。

どうしようか。このままで経緯を話すか。ユーリンが御立腹なのは恐らく昨日私が帰らなかったことだ。なら先にそこの弁明だけは済ませなければ。


 「昨日は帰らなくて申し訳ございません。」

 「うんうん。で?」


 で?とはいかに…。


 「以後気を付けます。」

 「だから?」


 だから?とは…。


 「次からは連絡するようにしますので許してください。」

 「うんうん。連絡は大事だね。まあ、今回はそれでいいとして、次があるの?」

 「もしかして…全部聞いておられました?」

 

 ひらひらと漂う様は小馬鹿にしているようにしか見えない。


 「さあ〜?どこからかな?初めからかもしれないし、ついさっきかもしれない。」


 これは最初から聞いていたな。顔を見ればわかる。


 「許可してもらえますか?」

 「だーめ。と言いたいところだけど、そうも言えない。」


 おお!これは、これはいけるかもしれない!


 「そんな嬉しそうな顔をしても何も出ないよー。でも、行くことは特別に許可してあげる。」


 渋々な表情をしているが、内心そうでもないのが見て取れる。


 「ただし、一週間後には一度帰って来ること。あと、私も後で合流するからそのつもりでねー。」


 内容自体は別に大したことはない。一週間後に帰るだけ。


 「ユーリン、入都できるの?」

 「フッフッフー。甘く見てもらっては困るよ。こう見えてもレニオス国籍と国民票は持っているんだよ!」

 

 何年前のだ。私の知る限りユーリンがそう遠くにでかけたのは見たことがない。ここからレルーンまでは少なくとも200㌔以上はある。


 「いつのだよ!と言いたそうな顔をしているね、ヒナ。安心したまえ、4年前のだよ。」

 「内緒で行ったの?」


 私が行きたいのを知ってての横暴なのだから許すまじ。これは抗議を申さねばならない。


 「私が行きたいの知ってたでしょ。」

 「まあまあ。そう怒らないで、ね。これには深ーい事情があったわけで、忘れろ。うん。忘れて。」

  

 なんと横暴な!と叫ぶ前に口がシャットアウトされる。


 「モゴモゴ、モゴ!」


 私の必死の叫びは虚しくもモゴモゴという音にしかならない。その間にもユーリンは話を終わらせテナス達の方へ行く。

 

 後で絶対に文句言ってやる!それだけを決心しもがくのは諦めた。


 固まったままの口と体でテナスとユーリンの会話に耳を傾ける。

 


 



 

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