夕方のミーティング
暑い!
こんな昼間に土作業なんてするものではなかった。
少し涼しくなったからと言って油断してはいけないな。
始めてしまった分、ある程度までは終わらせたい。
どうせ明日も暑いのだ。それに、明日にはここを出るかもしれないしな。
余計なことでも考えてなければ途中で気がおかしくなりそうだ。
途中またもレイミナミールが出てきた。あれほどに掘り返された場所にもすぐ現れる。平野の下にはミールしかいないのではないかと言いたくもなる。
平野中央に適当に放棄し、空いた穴をわざわざ埋め直す。
本当に鬱陶しい。
結局最後の方は余計なことを考える余裕もなく、ただただ無心に土をどけ続けた。
最後に教会にかかった砂埃を箒片手に払い落とす。
屋根や窓がほとんどない分これは大分楽に終わった。
「おーい!ヒナちゃん。これからの詳細決まったから来てって。」
なんともタイミングがいい。ちょうどやりたいことを終わらせた時に来た。
しかしなぜそれがユエなのか…。気を利かせてガマニかテナスに来て欲しかった。
「ヒナちゃんってば。無視しない…で…。」
本当に私をイライラさせるのが上手だ。
「ひ、ヒナちゃん。その格好!プッアハアハハハ!お、おっさんみたい!!」
ぶっ飛ばしたくなる。
ユエの横をスコップが音速で通り抜ける。
なんとも素晴らしい動体視力と反射神経をしている。寸のところで避けられた。
もう一発投げてやろうか。
「嘘嘘!そんなこと思ってないから!冗談!冗談だから、ストープ!お姉さん死んじゃう!」
石でも何でも投げつけてやる。
後ろの木々だけが粉々に粉砕されていく。
「お、終わった?」
両者共に息が完全に上がっている。
無駄な汗をかいた。最後に一発だけ放り投げてやり、一旦教会に戻る。
「シャワー浴びてるから、もう少し待ってて。」
「了解…。ヒナちゃん最後の一発だけ超痛いんだけどー。」
知らん!
嘆くユエは無視し、とっととシャワーを浴びる。
ゴワゴワの服に着替え、髪を乾かす。こういう時長い髪は面倒くさい。
シャワーを浴びた後だと蒸し暑いはずの外も少しは涼しく感じる。
まだ鼻を抑えているユエを見つけた。
「ヒナちゃん。予想よりずっと早くて助かるよ〜。」
「早く。置いてくぞ。」
「待って、待って。すぐ行くから!」
ユキの体が膨張し、2、3人は乗れそうな大きさになった。
「オォオ―――!!すごいね!乗って良いの?乗って良いの?!」
「いいから、早く。」
ユキにしゃがんでもらい、跳び乗る。ユエも案外器用に乗る。
「幸せ。もう死んでもいいかもしれない。」
幸せには共感だ。ユキの背中は本当に心地良い。
教会からテントまではユキの足だとすぐだった。
焚火回りにテナスとガマニを見つけた。
何故か臨戦態勢に入っている。
「すとーっぷ!テナス!私とヒナちゃんだから攻撃しないで。」
巨大なユキの背中からのユエの声に困惑したのか、警戒態勢はまだ解いてくれない。
仕方なくテント手前で一度止まり、ユキから降りる。ユキには元の大きさに戻ってもらう。
「ガマニ、私。攻撃しないで。」
「ヒナか。いきなり巨大な魔獣が駆けてきたから、大分焦ったぞ。じゃあ、あれはユキちゃんってわけか。」
「そう。」
「またすごいな。大きさも自由自在なのか。」
自由自在というわけではない。基本、標準、小型化、巨大化の3パターンだ。ほんの多少の大小しか調節できない。
そんなこと今はどうでもいい。
ユキを抱え焚火を囲むようにして座る。この時期の焚火は少々熱い。火の勢いを弱めてもらい、本題に入る。
「明日、明朝にここを出発する。日が出ている内に平野中腹まで進む予定だ。そこからは行と同様転移陣で帰る。関所で止められるが、その時にヒナを保護児として通してもらう。一度へリウスの元まで行き、そこからはへリウスの指示を仰ぐ。」
「へリウスって誰?」
「ギルドマスターのことだ。まあ、俺らの上司だな。」
「へリウスの所でヒナのことについて色々聞かれると思う。そこでは出来るだけ正直に話して欲しい。へリウスは信頼できる人間だ。そこは保証する。」
「私たちも精一杯協力するよ!」
テナスがなんとも頼もしい。
「平野中腹までの行き方だが、アルマンホースを使う。そいつらも明朝に捕まえる。」
「捕まえられる?」
アルマンホースと言えば、人懐っこい性格をしているが、数が少ない。
このだだっ広い平野でピンポイントに見つけるのは非常に困難だ。私でも見つけられたらラッキーものだ。
「ああ、捕まえられる。」
「どうやって?」
「これを使うんだ!」
ガマニが自慢げに見せてきたのは笛だ。筒状のもので、ちょうど手のひらサイズ程度だ。
「あいつらはある特定の音に対して反応を見せる。で、この笛の音になら寄ってくる。後はあいつらの好奇心に任せて手懐ける。簡単だろ?」
「そんな都合よく来るもんなの?」
「来る!やってみたらわかる。何なら今見してやろうか?」
ぜひとも見てみたい。
しかしそれは口にしない。それを言ったら、向かいのテナスが爆発しそうだ。
「あほか、ガマニ!今呼んで、来たらどうすんだ。一日面倒見きるなんて無理だからな。それぐらいお前もわかってるだろ。」
「も、もちろんだ。ヒナにちょっと見せてやろうと思っただけで…。」
ガマニの横腹を小突いてそれぐらいにしとくよう、止めておく。テナスの顔が怖い。
「私馬乗れない。」
「まじ?」
「うん。マジ。」
飛ぶか、走るか、ユキに乗るか。そっちの方が断然早い。
「ガマニに一頭。俺とリースで一頭…。」
「そうなると、ユエとヒナで一頭…になるのか?」
「私とヒナちゃんで一頭!?ほんとにほんとに?」
今までユキに夢中で全く話に入ってこなかったくせに、こういう時だけ勢いよく割り込んでくる。
「ヒナ…、もう少し顔に出さないようにしようぜ。」
また顔に出ていた…。さっき気を付けようと思っていたばかりなのに。
そんなことよりもだ。ユエと乗るのは断固として阻止せねば。
特に理由はないがなんとなくいやだ!
「ガマニの所は?」
「ガマニの所はガマニと荷物で重量オーバーだ。すまないが無理だな。」
ガマニの前なら全然良かったのに…。別の案、別の案。
「じゃあ、飛んでく。」
「……飛んでく?」
「うん。飛行術式を展開しておけば結構余裕。」
「確かにそうだが…。いや、でも駄目だ。ユキちゃんをユエ一人に預けることになるぞ。」
「大丈夫。ユキも飛べる。」
「余計に駄目だ!目立ち過ぎるし、人間目線で言うと脅威でしかない。一応目的地は人工施設の中だ。魔物が接近するだけでそこそこ問題になる。飛んでる魔物なら尚更だ。」
確かに一理ある。飛んでくのは駄目。飛ぶ以外でも少し考えねば。あっ、そこで少々名案が思いついた。
「途中まで飛んで、手前で歩くは?」
「無理だ。目的地の5キロ手前からは歩きになるぞ。」
「じゃあ、その5キロ地点からユエのに乗る。」
嫌だが、嫌だが、5キロ歩くは少し無理だ。アルマンホースについてずっと走るのもしんどい。ここは、少々妥協する。
「アルマンホースがいくら人懐っこいからといっても、所詮は魔獣だ。そう安々と乗せてくれる保証もないし却下させてもらう。」
妥協案も拒否!
飛ぶのも駄目。途中からの乗馬も不可。じゃあもう、ユエと乗るしかないじゃん……。
「……分かった。ユエの前に…乗り…ます。」
「ンフフ!よろしくねヒナちゃん!」
「ヒナ…。また今度顔に出さない練習しような。」
失礼な。今回は半分意図的でもある。だからノーカウントだ。
「じゃあ、アルマンホース3頭を確保次第出発だ。」
「「了解」」




