住もうかな?
「ヒナちゃーん!起きてー。ガマニの準備終わったってよ!」
…………。嫌な金属音だけが響く。
「ヒ、ヒナチャン。この下りは毎回するのかな?お姉さん次回ぐらいで死んでしまいそうだよ。」
――フッ。
「鼻で笑われた!?」
前回よりも深くナイフが入った。刃が既にユエの首元を掠っている。
後少しなのに。
「ねぇ、今危ないこと考えてたでしょ。お姉さんにはわかるんだよそういうの。ホント、マジでお姉さん死んじゃうからね!マジでやめてね!」
名残惜しいがナイフを懐にしまう。
一人騒がしいユエは放置し、さっさっとガマニの元に行く。
「オッス、ヒナ。待たせて悪いな。」
「大丈夫。そんなに待ってないし。」
「そうか?結構時間くった気がしてたんだけど。」
「大丈夫。大丈夫。」
なら良いんだけど、と少し申し訳無さそうなガマニと昨日の話について確認をする。
「ヒナはうちの国に入りたい。これは住みたいってことか?それとも、一度きりの観光?」
「…そこは考えてなかった。」
永住ということもありなのか。
いや、でもここには帰ってきたい。
「住むとしたらどうなるの?」
「どうなるのってどういう意味だ?」
「住むことのメリットとデメリット。あと、住むのに必要なことが何か、とか。」
「なるほど。順番に話していくとな、住むにはまず国民票がいる。国民票ってのはこの人は〇〇国の人を証明するものだな。
で、この国民票を取るには身分証明書を持って役所に行き、取る目的を話す。しばらくは要監察という扱いで、住むことが許可される。その間の生活態度と国益への影響を見て、監察官がOKを出したら国民票が貰える。これさえ持っておけば、土地も買えるし、家も建てれる。
国民票を取るメリットは、国からの保障制度を受けれる。あと、あらゆることに身分証明として使える。就職、渡航、登録、まあ色々だ。
デメリットは、税の徴収対象になる、国の法に裁かれる等々だ。
だいたいこんなものかな。俺も詳しくないからこれぐらいしかわからん。」
――なるほど。
意外とゆるい。国民票を取るのも監察官次第でどうとでもなってしまいそうだ。まあ、私は不正して取る気も無いので正直どうでもいいけど。
「2つの国のを同時に持つことはできるの?」
「いやー、多分無理だと思うぞ。やってる奴は見たことないしな。」
ムムム。他の国のも取れるなら、気楽な気分で国民票を取ろうと思えるのだが…。
「税ってどれぐらい?」
「一様には決まってないな。領地や都市ごとで結構変わってくるな。
俺らがいる都市だと、所得税については収入によって変える方式が取られている。年収50万ガンド未満が免税。50万以上100万未満は5%。100万以上200万未満は7,5%。200万以上300万未満は10%。というように、100万ガンドごとに2,5%ずつ増えていく。
他の都市じゃ一律12,5%としてる都市もある。所得税以外にも色々な税を取られるから、結局給料の15%以上は間違いなく税として持ってかれるかな。」
「平均年収はいくらなの?」
「確か、345万ガンドぐらいだったと思うぞ。」
「ガマニは?」
「俺は310万ガンドだ。冒険者ってのは全然儲からない。命かけてんのに普通の人より給料低いからな。俺のは副業代も含めての310万だ。」
冒険者は儲からないのか…。住むとしたら冒険者以外にも仕事を見つけないといけない、か。面倒くさいな。
「国から出るのにって何か手続きとかいるの?」
「いや、出る分には特に何もないな。ただし、入るときに色々チェックされる」
出る分には、問題なし。ここにもいつでも帰ってこられる。
問題は目下就職先、か。
一つ忘れていた、何歳から徴税対象となるのかと、何歳から働けるのかだ。それもガマニに聞いておく。
「どちらも、15歳以上だな。ああ、でも15歳以上18歳未満の未就職の学生は対象外だ。」
ほう、なら私でも学生になれば免税できるじゃないか。いや、まず50万ガンド未満の職に就けばいいのでは。でも、それで生活ができるのかは怪しい。どうしようか。
学生にもなれるかは怪しいし…だって私幼少教育受けてないし。
「国民票だけでも取ってみたらどうだ?ほかの国がいいならやめたほうがいいけど、うちの国は他国と比べたら大分いいほうだとは思うしな。」
「税は?」
「49万で止めたらいい。冒険者はやった分だけ給料がもらえる。調整も楽々だ。」
「生活できるの?」
「俺はできたぞ。」
俺は、という表現がとても気味悪い。
「家さえ持たなかったら絶対大丈夫だ!」
なんだろう、何か信じられない。
国民票だけ取ってこっちに帰ってくるというのもありかもしれない。それだけなら確かにリスクもほとんどない。
「わかった。国民票だけ取ってみる。」
「了解!まあ、町に行ってみないとどうなるかはわからないけどな。」
ガマニは大事なところが少々おざなりだと思う。ガマニの良い所かもしれないが、大きな欠点でもありそうだ。
「テナスには俺から話しとくし、女二人は話すだけ無駄だから気にするな。」
「ん。」
さっきから司会の端に入り込んでくるユエの顔が鬱陶しい。ついさっきまでユキと散々遊んでいたくせに、いまはこっちにちょっかいを出してくる。
何より押し付けてくるこの駄肉が鬱陶しい。もぎ切ってやろうか。
「おわった?おわった?私難しい話は苦手なんだよー。それとね、ヒナちゃん、そろそろ胸を揉みしだくのをやめてほしいんだけど…。」
「無理」
「無理⁉え、ちょっ、どうしてエスカレートしてるの?ストーップ!ストーップ!」
この駄肉め!
ひとしきり揉みしだき終えてから、鼻にティッシュを詰めたガマニと話しの続きを始める。
「次からああいうのは男がいない場所でしてくれ。」
「いやいや!男がいなくてもだめだよ!」
「私も街に一緒に行くとして、これからどうするの?」
「無視⁉」
「まずテナスが回復するまでは無理だな。リースは担いででもいけるが、テナスがいないのはしんどい。」
「ガマニまで⁉」
うるさい女にはとっととご退場してもらうに限る。ユキには申し訳ないが、自称お姉さんを連れっ去ってもらう。
去際までうるさかったが、今は静かだ。ユキにより物理的に完全に黙らされている。
方法は言わないでおこう。
「じゃあ、テナスが回復するまでは待機か。」
時間がかかるのはあまり好きじゃない。まそれもヒナがしたことなのであまり文句も言えない。
おとなしく待とう。
しかしそれも杞憂になった。
「おはよう、ガマニ。随分と寝坊してしまった。」
「「テナス!」」
すっかり元気そうなテナスが楽しそうに出てきた。




