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ユエお姉さん?

 ガマニと別れてからの記憶が一切ない。

 目が覚めたら、ベッドで寝ていた。着替えた覚えもないし、ベッドに入った記憶もない。

 

 ちなみに今は、朝風呂中だ。自作の教会(自称)の奥の部屋のバスタブに沸かした湯を入れただけの単純(シンプル)なものだ。


 ―――気持ちいい〜〜♪


 昨日の傷が少々染みるが些細なものだ。疲れた体に暖かさが染み渡る。

 まさに至上の瞬間。


 

 タオルで、水分を軽く拭き、風魔法で一気に乾かす。魔法って便利

 

 魔鋼糸で作ったワンピースに着替える。

少々ゴワゴワするが仕方がない。昨日着ていたものは、剣士の男に切られたせいで使い物にならない。


 あれでも、強化して作ったもので、ちょっとやそっとでは切れないものだったのに。

 掠っただけで、あれだけ綺麗に裂けてしまった。

 やはりテナスは油断できない。一瞬の隙をつかれれば殺られる。


 しかし、これと言って自分を強化できる防具なども持っていない。

 結局ワンピース姿で教会を出た。


 ユキを連れ、ガマニのテントまで今日は歩いていく。


 日はまだ低く、朝日が平野を照らす。

 空は澄み渡っており、熱すぎず寒くもなく、程良い暖かさだ。

 こっちの世界は空気が綺麗だ。前世の孤児院が田舎にあったといっても、ここまで何もない平原ではなかったので、ここの空気もより美味しく感じる。


 ぼんやりしている内に、ガマニのテントが見えてきた。

 魔物に襲われた様子もなく昨日のままだ。


 昨日は気にならなかったが、この頃虫どもが異様にうるさい。毎年のことだが、今年は平年より騒がしい気がする。

 そんな中テントで寝れるものなのだろうか。特殊な構造にでもなっているのかもしれない。


 テントの前で誰か出てくるのを待つ。いきなり開けても、起きているのがガマニ以外だったらめんどくさそうだ。

 退屈といえば退屈だが、陽気な気候のせいもあってかあまり気にならない。

 ユキも伸びをし、陽の光を一心に浴びている。

 それぐらいに気持ちの良い朝だ。




――――ッ。


 目の前が陰るのを感じ、目が覚めた。

 また、寝落ちしてしまった。ここ2日いくら疲れているからと言っても気が緩みすぎてる。


 「あ、起きた!」

 

 刃擦れにより、火花が散った。

 ナイフの擦れる嫌な音だけが響く。


 ヒナの振り抜いたナイフは寸のところで止められていた。

 あと少し深く入っていれば、女の首を貫いている。

 

 ……………。


 


 「おはよう!すごい気持ちよさそうに寝てたね」


 「…誰?」

 「えー!覚えてない?」


 覚えてないも何も知らない。



 「マジかー。私も昨日いたんだよ〜。そこのワンちゃんにあっさり負けちゃったけどね」

 「あ」

 「お!思い出した?」

 


 昨日ユキと殺り合っていた女だ。

 昨日は終始顔を見ることがなかったせいで全く記憶になかった。


 「えーとね、そろそろナイフを降ろしてほしいんだけど…お姉さんも流石に疲れる」


 近くで見ると大分若い。20(ハタチ)いってないんじゃないだろうか。

 ナイフは降ろさない。


 「ユキは犬じゃない」

 「この子ユキちゃんって言うんだ!かわいい〜!!ねぇ、ギューってしていい?していい?すごい気持ち良い気がするんだよー!」


 どこまでも能天気だ。こちらの気も緩みそうになる。


 「あれ、ナイフの力が上がった気がするのはお姉さんの気のせい?」

 

 「…気のせい」

 「今の間は何よ!力入れたでしょ!ホント、お姉さんもうギブだから。ナイフ降ろしてー!」


 確かに先程から腕が小刻みに震えている。

 昨日あれだけやっていたのに元気な人だ。ナイフは渋々降ろすことにした。


 「ふぅー。朝からこんな運動する気はなかったのに、まさかこんな頑張ることになるとは…。ヤレヤレだよ〜。で、ユキちゃんギューってしていい?」


 私は良いと言っていない。言った覚えもない。

 しかし、ユキが既に気持ち良さそうなのを見ると今更ダメとも言えない。

 返事の代わりに出るのは大きなため息だけだった。


 「んーーー♪モフモフー!ポカポカ!最高!んー、満点あげちゃいたくなるね!」


 ユキを全身で満喫している。やはり無理と言ったほうが良かった気がする。


 「ふぅー。満足満足!」


 ユキも満足そうなので取り敢えずここは良しとしておこう。


 「今更ながら自己紹介しましょう!私はユエ。新星(ニュービー)の新入りです!」

 「ヒナ。よろしく」

 「うんうん。よろしくー!」


 テンションがずっと高すぎる。今もただの握手のつもりが、なすがままに振り回されている。 


 敢えて無視していたが先程からテントが騒がしい。防音仕様なのか大した音は聞こえないが、ガサガサとテントが軋んでいる。


 「ユエ!どこだ!」


 ガマニだ。勢いよくテントから飛び出してきた。


 「?どうしたのガマニ?私ならここだよ?」


 「ユエ!どこ行ってたんだ?起きたなら、少しぐらい声かけてくれ。」

 「いやー、あまりに気持ちよさそうに寝てたから起こすのもどうかと思ってね…。」

 「それぐらい遠慮すんな。お前だってそこそこに怪我してたんだから、こっちは心配なんだよ」

 「ムムム-――ごめんなさい。」

 「素直でよろしい!」


 それで良いのか?

 いや―――ここは何も言わないでおこう。

 無事ならいいのだろう。


 「オッス、ヒナ。こいつが何かやらかさなかったか?朝から迷惑かけてたとしたらすまん。」

 「大丈夫。特に何も無かったから。」


 ナイフを突き立てたのは今は内緒にしておく。


 「私は、何もやらかしてない!なんでやらかす前提なのさ」

 「…見た目と性格?」

 「ひどい!ヒナちゃん!私そんなやらかしそうな見た目してる?」


 …している。

 

 ガマニもそっと目をそらしまった。


 「何なのさ!そんな残念な子を見るみたいに見ないでよ!」


 騒ぐユエが余計に残念さを醸し出している。


 「それよりもだ。朝から来てもらって悪いが、まだテナスとリースが寝たままなんだわ。」

 「気にしない。ここで待ってる」

 「いや、そうそう起きてこないと思うぞ?退屈じゃないのか?」

 「多分、大丈夫。」

 「多分って…。まあ、ヒナがいいんならいいんだけどよ。じゃあ俺はしばらく支度しないといけないから、スマンがしばらく待ちぼうけしといてくれ。」

 「ん。待ちぼうけしとく。」


 「ヒナちゃん、安心して。お姉さんもここにいるから待ちぼうけなんてする暇も、きっとないさー!」


 「――おやすみ。ガマニが来たら起こして」

 

 ユキのお腹に飛び込み。もう一度寝る。


 「え?ちょ、ちょっと!ヒナちゃーん!おーい。お姉さんをボッチにしないでー!」


 何か叫んでいるが知らん。


 それにとにかく眠い。起きているのもしんどい……。

 

 そのまま私の意識はゆっくり闇に沈んだ。

 

 



 

 


 


 




 


 

 




 


 

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