爆破
霧を抜けた先にテナス達は今回の調査対象を見つけた。
神々しく、荘厳で、強固な、どこまでも黒い建造物だ。
それは、先端の見えない巨大樹を背景に、堂々と建っていた。
「あれが、今回の調査対象か…。」
「誰だよ、教会なんて言ったやつ。あんなんどう見てもただのヤバイ要塞じゃねーか。」
ガマニの言うとおり、見た目は教会に近いが、建物の在り方の観点から見ると、ほぼ要塞にしか見えない。
ただただ黒い要塞だ。
「ギルマスだよー。それにしても、奥の木大きいねー!」
ユエだけは驚きがズレてるが、ユエが巨大樹に驚くのも当然だ。
初めて見た者からしたら、巨大樹は異様だ。
文献などではよく、巨大樹についての記述が出てくるが、そんなものは、実際に見るとあまりにも適当であると実感する。
大きなものでは、200m近くある。鬱蒼と茂る葉のせいで日の光は遮断され、神獣の森は不気味な雰囲気を漂わせている。
「で、どうするの?時間もないんでしょ。とっとと調査して帰るのが得策だと思うわよ。こんな場所さっさと離れましょ。」
確かに時間は押している。
神獣の森に感嘆するのはそれぐらいにして、教会に向かう。
近づいていく内に、全貌が明らかになっていくほど、その教会が異様なことを改めて実感した。
「わお。この教会もまた随分と大きいね!」
そう、まずデカい。
間違いなく、王都の王城よりも大きい。
幅数百m、高さも30m近くありそうだ。
そして、もう一つの違和感。
「こりゃ、素人だな。」
テナスでもわかる。この建造物は作りがおかしい。
まるで、子供が積み木を積み上げたようなものだ。
これでは、簡単に崩れる。
それに、後からわかったことだが、天井や屋根が一部ついていなかった。
これは、大部分が壁だけの教会だったのだ。
「ねぇ、そんなことより”アレ”何?もしかして、"アレ"じゃないわよね…。」
「ん?どれだ?」
「あそこよ、あそこ!」
リースの指先に目を凝らすと、窓らしき隙間の奥に、水色の絨毯があった。
しかし、異様なほどに滑らかで、少し動いているようにも見える。
この距離ではテナス達には、はっきりとは何かはわからない。
それでも、おおよその予想はついてしまう。
「ハ、ハハハ。きっと見間違いだ。それか、池にでもなってるんだろうよ…。」
「建物の中に池を造る馬鹿がどこにいるのよ!金持ちか!」
リースの言うとおり池なわけがない。
自分で言っておきながら、明らかに"アレ"が池なんかではないことがはっきりとわかってしまった。
「あー、あれスライムだね!」
千里眼で見てしまったのか、陽気にユエが、断言する。
「…マジ?」
「マジだよー。」
「おいおい…。どうすんだよ!マジで!あんな数のスライム相手して、調査なんて正気じゃないぞ!」
「ホントだねー。」
これはよくない。今から、あの数のスライムを相手にしていては日が暮れる。倒しきれない可能性も十分にあり得る。それに、次の日に調査を持ち越すというわけにもいかない。
ここにきての急な難題だ。
どうするべきか、しばらく沈黙が続いたが、リースの一言が、ある意味解決策を出してくれた。
「ねぇ、破壊しちゃわない?」
「「………」」
「…いや、それはまずいだろ。」
「で、でも、ギルマスも最終破壊していいって言ってたじゃない。」
「いやいや、スライムがいっぱいいたから破壊しましたってのは流石に……ね。」
「でも、他に方法もないじゃん。」
「んんー。確かにそうなんだが…。」
「もう、爆破しちゃいましょ、ね、ね!領主と騎士団の許可も取ってるって言ってたことだし。どうせ、他に代案ないんでしょ。」
そうだとしても爆破してしまうことには少々抵抗がある。
しかし、リースの言う通り代案はない。
「破壊も視野には入れるが、もう少し近づいて様子見をしてからにしよう。」
「嫌よ!あんなウジャウジャいるスライムに近づくなんて絶対にごめんよ!」
「そうはいっても、もう少しぐらいなら近づいてもバレない。行けるところまでは行ってみる!」
「――ということだ。行くぞ、リース!」
「イヤイヤイヤ!」
頑なに拒否を続けるリースだが、あっさりとガマニに捕まり、強制的に連れて行かれる。
近づけば、近づくほど異様さに目がいってしまう。
綺麗な割に造りは雑。住むこともできないし、まともな形は外見だけ。
それにあの数のスライムが発生していては、何者かが住むことなんてできない。
そんな感想を持ちながら、見ていられるのも少しの間だけだった。
ユエがスライムの動きに気づいたときには時既に遅く、警戒したテナス達にスライムが降り注ぐ。
何をどうやったのか、大量のスライムがあの建造物から降ってきた。
落下してくるスライムに注意しつつ、急いで後退する。
幸いにスライムが追撃してくることはなかった。
間隔を保ち、広範囲に広がった状態で少しずつ、スライムも後退していく。
指揮されているかのように、隙のない陣形だ。
個々のスライムや、完全に密集したスライムの対処はまだ可能だ。しかし、あの陣形では、個々の殲滅も、リースの魔法による大量殲滅もできない。
スライムが建造物まで戻ってから、もう一度前進してみたが、全く同じようにしてスライムに襲撃された。おそらく何度やっても同じだろう。
これで、テナス達が建造物には近づくことはほとんど不可能になってしまった。
「……無理だな。」
「ああ、無理だ。」
「じゃ、爆破しましょう!」
今回は流石に反論できない。
近づけないということは調査不可能ということだ。ヘリウスの指示通り、破壊するしかない。
異様にテンションが高いリースに不安が残るが、リース以外まともな魔法は使えない。
「…、はぁー。リース、爆破してくれ。」
「任せて頂戴!!」
嫌々だが、リースに爆破を頼む。建物ごと爆破すれば、大半のスライムも蒸発してしまうはずだ。生き残ったスライムは各個撃破すればいい。
いつになくリースは意気揚々だ。それが逆に心配でもある。
ちょっとした丘の上にリースが立ち、テナス達は後方に避難する。警戒は怠らない。魔法の構築中の魔法使いは無力だ。リースに横槍が入らないよう、リースを囲むように陣形を取る。
それを確認するとすぐに、リースを中心に地面に巨大な魔法陣が構築されていく。赤く輝く魔法陣が、対象の上空にも出現し、空中で何十にも描かれていく。
「なあ、これ大丈夫な魔法か?絶対ヤバい気がするんだけど。」
テナスも同じだ。単なる建物の破壊にこんな大規模な魔法陣はいらない。魔王城でも吹き飛ばすのかというレベルだ。
「おい、リース!ちょっとでかすぎるんじゃないか!?」
テナスの声が届いてないのか、スルーしたのか、リースは少しの反応もみせない。その間も魔法陣は描かれていき、壮大なものになっていく。
無視されたからといって、リースのもとに駆け寄るわけにもいかない。
ここまで魔法を構築されては、邪魔が入った途端に暴発するかもしれない。
どんどん魔法陣を巨大化させていくリースを眺めることしかできない。
もうどうとでもなれだ。どれだけあたりが吹き飛ぼうと知ったことではない。
諦めに似た表情でリースを見守る。
魔法陣が最後まで構築され、一際紅く輝きだす。
「第31階位 爆裂!!」




