ギルドマスター
後のことに憂鬱になりながら歩くうちにギルドマスターの部屋についた。
ノックの後に部屋に入るシエテミさんに続き部屋に入る。
書類仕事などには似合わないような巨体の男が黙々と、書類仕事をしている。
「ギルドマスター。言われておりましたテナス様一行をお連れしました。」
書類の山から顔をあげ、豪快な笑みとともに挨拶をする。
「よっ、テナス。また、シエテミさん怒らしたのか?」
「お久しぶりです、ヘリウスさん。少し、時間に遅れただけです。ユエがシエテミさんの話を度忘れしてたもんで。」
「ガハハハ!そうかそうか、なら仕方ない。おとなしく怒られとけ。」
豪快に笑うヘリウスと対照的に、暗い顔の男二人だ。
書斎用の机から移動し、客席の対面ソファーに移動する。
ちょうど後からついてきいたユエが着いた。
「あ、おじさん!こんにちわ!」
「おお、ユエ!元気そうでなにより。」
「もちろん元気よ!私は強いんだから、どんな任務でも楽勝、楽勝!」
いつもならムカつくユエのお調子づきが、逆に微笑ましい。
「そうかそうか!なら、任せて安心だな。そういや、リースはどうした?」
「リースなら、新人をたぶらかせなくて後ろでいじけてますよ。」
「あいつはまだ、そんなことしてんのか。」
テナスの報告を聞いてヘリウスも呆れ顔だ。
リースの行動はヘリウスにとっても、目の上のたんこぶになっている。
リースのせいでやめた新人冒険者も少なからずいる。
女性恐怖症に陥った者もいる。
「マスター、世間話もそれぐらいに本題をお願いします。」
笑顔という圧力でシエテミさんが強引に本題に入らせる。
ヘリウスもシエテミさんの圧力には耐えられないらしく、話し始める。
「わかったよ。お前らを呼び出した理由はひとつ。極秘とまでは言わんが、内密に調査を依頼したい。」
「調査依頼、ですか。」
指名での依頼はテナス達のランクではいることはまずない。指名での依頼は報酬も高い。テナスたちにとっては嬉しい話だ。
「で、その依頼なんだが、調査場所はアルセイト平野最奥部―神獣の森入り口の調査だ。」
それを聞き、テナス盛大に茶を吹き出した。
せっかく淹れたのに、掃除も私なのにと、シエテミさんが恨みのこもった横目で睨んでくる。
しかし、そんな目線もかわいらしいものだ。
何せ神獣の森の調査をしろと言われているのだ。
未開の地のひとつに数えられる神獣の森を、Bランク程度の自分達に行かせるのだ。普通なら、Sランク超えのパーティーが行くところだ。
「ちょっと、待ってくれよ、神獣の森に俺たちが調査しに行ったって何も得られませんよ。死んでいる可能性の方が高いぐらいだ!」
ガマニも同意見らしく、もう反対している。
「まあ、落ち着けって。俺は神獣の森の入り口の調査と言ったが、神獣の森の中じゃねえ。アルセイト平野と神獣の森の繋ぎ目であって、別に神獣の森に入る必要はない。分かったか?」
神獣の森に入らないといっても、神獣の森には近づくわけだ。
一度巨大樹が黙視できるほど近くにまで行ったことはある。
そのときでさえ危険と感じたのだ。
やはり、ここは断るべきだ。
「失礼ながら、やはりお断りします。」
「おいおい、ちょっと待てって。それは先決すぎるんじゃねぇのか。最後まで俺の話を聞けっての。依頼にはまだ続きがあるんだよ。」
「続き、ですか……。」
続きあると言っても、受けようとはあまり思えないだろう。
「ああ。この依頼の本題はその場所にある、ある物体についてだ。それは、城とも、教会とも、要塞とも見える建造物だそうだ。これがなんなのか調べてくる。それが依頼だ。」
「なら、余計に危険じゃないですか!城を建てたりするのなんて人間か魔族だし、魔族の方が可能性としては高いんですから、調査しに行ったら本当に殺されてしまいますよ!」
もし、人間による建造物なら、アルセイト平野に最も近いこの地方都市に何らかの情報が多少は入ってくるはずだ。
「だがな、魔族の建造物という可能性は大分低い。あれを作るには相当な人手が必要だろうと報告されている。そんな比較的大規模な魔族の移動は確認されていない。」
「高位の魔族が建造したという可能性は?」
高位の魔族などならば魔法を駆使すれば1人でも巨大な城などを建てることは可能だ。
もし、そうなら危険度は更に上がる。
「それも多分大丈夫だ。ここ一年ほど高位の魔法は数回しか、発動されていないし、発動されたのはどれも攻撃系統のものと国立魔力感知所センターから確認も取った。城を作れるような魔法は感知されていない。つまり、作りかたはコツコツ手作業だ。」
それでも心配は拭えない。逆に、理解不能な何かのようにさえ感じる。
顔に出てたのか、ヘリウスが心配しすぎるなと宥めてくれた。
「まぁ、そう心配すんなって。ユエの遠視で遠くから観察。人が住んでいそうなら、ある程度近づいて、持ち主の手掛かりを探す。廃墟だったり、無理そうな感じだったら、遠くから破壊する。それだけで良い。まあ、俺的には調査せずに破壊してくれて良いと思ってる。どうだ?受けてくれないか?頼む!」
ヘリウスが柄にもなく頭を下げてお願いする。
横でシエテミさんも頭を下げている。
「そこまでされたら、断れないじゃないですか。わかりました。依頼は受けるという方向で検討します。その代わり、依頼を受注する前に、3つだけ教えてください。」
「良いぞ。何でも質問してくれ。」
「じゃあ、まず1つ目は報酬について。もう1つは、僕たちより高ランクの方には依頼されたのか?最後は本当に爆破していいんですか?」
報酬が安ければ、絶対に受けない。爆破してしまっては調査依頼も何もない。
それに、もし、高ランクの冒険者がこれを聞いて断ったなら、俺たちは受けるべきじゃない。
「報酬は安心しろ。前払いで欲しい分払ってやる。あ、でも常識の範囲内で頼むぞ。」
「報酬についてはわかりました。その条件なら引き受けます。それで、残りの2つの方は?」
「依頼できていない。この町に今いる冒険者ならお前らが最高ランク。お前らより高ランクの奴は王都のことと、火龍についての方で引っ張りだこだ。まあ、おそらくこれからも頼めないだろう。そういうわけでお前らへの依頼だ。
爆破については、領主と騎士団もから許可も取ったし、あちら的にはどこかの組織に利用されかねないものはとっとと壊してしまえだそうだ。気にせず爆破してくれ。
実力だけならお前らはAランクに匹敵している。受けてくれるか?」
再びヘリウスが頭を下げる。頭を上げてもらい、もう一度、ヘリウスの話した内容を吟味し、決定を下す。
「わかりました。その依頼お受けします。」
「ほんとか!いやー助かる!」
テナスの依頼受注を聞いて、体に似合わない嬉しそうな顔をするヘリウスだ。
「おい、ほんとに受けて良かったのか?」
小声でガマニが尋ねてくる。
「リスクの方がまだ高いんだぞ。」
ガマニの心配もわかる。
しかし、ギルドマスターにここまで自分達が評価され、頼られていると知って、断る理由はない。
「大丈夫だよ。いざとなったら逃げ帰ればいいさ。」
まだ、何か言いたそうだが、それ以上を言うことはなかった。
「そうかよ。お前が大丈夫って言うなら、俺も従うよ。その代わり、危なかったらすぐ逃げるからな!」
「わかってるって。」
その間もヘリウスとユエが談笑しているのをみてここまで心配しているのが少し馬鹿らしく感じたガマニだった。
「あ、そういえばヘリウスさん。魔物の活動が活発化したことについては理由が判明しているとユエから聞いたんですけど、どんな理由ですか?」
ユエから理由がわかっているから調査依頼はないと言われただけで、その理由はまだ聞けていなかった。
「あー、それな……。」
「それについては私からお話ししましょう。」
歯切れの悪いヘリウスを遮り、シエテミさんが続きを話し始める。
「理由は"神獣"です。」
何の渋りもなくはっきりと言いのける。
飲んでいたお茶が気管に入り盛大に蒸せかえってしまった。
テナスが落ち着くのを待ってシエテミさんが続きを始める。
いろいろ突っ込みたくなるのを堪え続きを聞く。
「ちょうど今の一年ほど前からだと推測されますが、その頃から神獣が海で活動しております。つい最近になり、神獣と海の魔物の大規模な衝突が勃発。海辺の国々や都市から戦闘の様子が時々観察されるとの報告も入っております。神獣が神獣の森から抜けたことにより、魔物の活発化が起こった。そういう理由です。」
神獣が神獣の森を抜けてしばらくして、謎の建造物が神獣の森の入り口で発見された。
この2つに何らかの関係性があることは間違いないだろう。
神獣がいない隙を見て何者かが神獣の森で何かをするために建てた…。と考えるのが妥当かもしれない。
「この魔物の活発化と神獣の森入り口の建造物とには何か関係があるのか?」
ヘリウスの意見も聞いてみたかったのは、尋ねたガマニに加えテナスもだ。
「あー、それについては関係はあるっちゃあるかもしれんがそこまで大きな関係じゃないと思ってる。」
「どうしてですか?あまりに怪しくはないですか?」
「神獣が森を抜け、海の魔物と衝突することは数十年前までは、結構な頻度で報告されていたことだ。いつ戦い出すのかも、いつ戻ってくるのかも、戦闘期間も不明。それに合わせて計画を立ち上げるのは難しい。神獣の森で何かしているうちに神獣が帰ってきたら本末転倒。そんなリスクが高すぎることはそうそうしないだろうと俺は考えている。なら、神獣がいようがいなかろうが、あの建造物は建てられたというのが俺の考えだ。」
「なるほど…。調査の際はどちらも考慮して調査することにします。」
「おう。頼んだぜ。」
「皆、神獣の森入り口に立つ謎の建造物の調査依頼、3日後に開始する。それまで、各自準備するように!」
「「おう!」」
ガマニとユエの元気な返事に満足する。
リースが弱々しかったが、どうせすぐに回復するだろう。
シエテミさんも応援してくれる。
「頑張ってくださいね。あ、でも遅れたことの責任は後でちゃんと取ってもらいますからね。」
テナスとガマニの顔が一気に弱々しくなる。
「ガハハ!まあ、どっちも頑張れ!」
調査は3日後。
その3日間にシエテミさんにこっぴどく絞られたのはまた別の話。




