冒険者
――2年後
アルセイト平野北部
人間国家 レニオス の地方都市 レルーン
今日も今日とて、冒険者ギルドの酒場は昼間にも関わらず、酔っぱらいで溢れている。
酔いつぶれて床にぶっ倒れている奴やちょっとしたことで喧嘩を起こしている奴もいる。
まぁ、そいつの末路がどんなものかは今は話さないでおこう。
そんな中を酒臭さに呆れながら、パーティー 新星のリーダー、テナスは仲間のユエ、ガマニ、リースを連れて、依頼ボードから良さそうな依頼を探している。
ここいらでは少し名を馳せているパーティーだ。
メンバー全員が20歳前後という若さでありながら、Bランクというベテランに位置するランクを獲得しており、その実力もそれに恥じないものだからだ。
実はおばさんが一人混じっているが、それは暗黙の了解となっている。全員が20歳前後だ!
「最近危険度が高い依頼が多いな。」
ここ2年ほど、魔物や魔獣の活動が活発化しており、低ランクのものでは、受けれない依頼が急増している。
ボソリと呟いたテナスの独り言にユエも同意している。
「ホントにね。何かあったのかな?」
「それの調査依頼でもあればなと思ったんだが…。」
「…ないね。」
そうこんな事態の癖に調査依頼が出ていないのだ。
「何で何も出さないんだろ?ギルド嬢なら知ってるかも。ちょっと聞いてくるね。」
シエテミさーん、と奥にいるであろうギルド嬢を呼びながら、ユエが受付の方に酔っぱらいを器用に避けながら、向かっていく。
ユエが帰ってくるまでの間にもう一度依頼ボードを見る。
・スライムの討伐
場所 アルセイト平野
報酬 5000ラウス
ランク D以上
・アールホッグの討伐
場所 レール山麓
報酬 4500ラウス
ランク D以上
・ゴブリンの討伐
場所 暴風龍の森付近
報酬 1万7000ラウス
ランクC以上
・セイルビーフの捕獲
場所 暴風龍の森
報酬 2万5000ラウス
ランクB以上
・ミールの捕獲
場所 アルセイト平野
報酬 4500ラウス
ランクD以上
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「ほんとに、討伐依頼ばっかね。毎日毎日討伐なんてしてたらお肌にも悪いじゃない。」
爪をいじくりながら、こんな時でもお肌を気にしているのはリースだ。
確かにに、リースのいう通りでもある。ここの所テナス達は、毎日のように魔物や魔獣の討伐をしており、疲労もそこそこたまってきている。
調査依頼や採取の依頼、お手伝いなどがあればまだよかったのだが、 大雑把に全体を見てみても、ほとんどが討伐依頼だった。
採取の依頼があっても、普段のランクよりもひとつほど繰り上げられており、少々危険な場所が多い。
これでは、採取といっても討伐並みにしんどいものになってしまう。
「もっと楽な依頼ないの?男がたくさんいるようなさ~。もうあんな森とか山とか行くの嫌よ。男よ、男!私の美貌にひれ伏し結婚を懇願してくるようなそんな男と出会える依頼よ!」
そんな都合の良い依頼に男にいるわけないだろ、と全員が突っ込みつつ、いつものことなので、さらりと流していく。
「ちょっと、さらりと流さないでよ!私が独身だからって見下してんでしょ。どうせあんたらも年取ったらこうなるんだから!たがらって私は諦めないわ!ほら、私に良い男紹介しなさいよ~!」
ここもスルーされたのに気分を悪くしたようだが、リースは直ぐに気を取り直して男探しを始めている。
そこのお前、見ない顔だな。このギルドに入ったら、私に挨拶をするのが礼儀だぞ?ほら、こっちきて、ちょっとお姉さんと遊ぶだけでいいから、ね、ね?ね!
と、途中からは必死の形相で新入りの冒険者にナンパを始めている。
さっきの不満はどこにいったのやら…。
毎度毎度こんなことをされているので、ここのギルドを拠点にしている者は皆スルーが上手い。
新入りの冒険者がかわいそう?
そんなことは思わない。
きっと彼も見た目だけは美人に迫られて、実は嬉しいかも知れないじゃないか。
うん、きっとそうだ。
彼の冥福はあとで祈れば良い。
そんでもって、そんなリースに対し、全ギルド会員(男子)はリース不可侵条約を結んでいる。
あれに関わってはならない。
全員が学習済みだ。
だが、そんなリースを気にする男もいるのだ!
もう一人のパーティーメンバーのガマニが、若干引きつつ、固まっている新入りを依然口説き続けるリースにチョップをかまし、一言謝罪する。
白目を向いているリースをずるずると引き連れて帰ってくる。
「お前も物好きだな。リースに関わるとろくでもないぞ?」
「そうは言ったって、ほっとけないじゃないだろ。新入りが再起不能にでもなったらどうすんだよ。」
「リースをとられたくないだけだったりして?」
いつの間に戻ってきたのか、ユエがガマニにちょっかいを出す。
「んなわけねーだろ。」
そっぽを向いて否定するガマニの顔はうっすらと紅く、耳に至っては真っ赤だ。
ニヤニヤしながら、ユエがさらに追い討ちをかけたので、ガマニの顔は真っ赤になってしまった。
そんなガマニの気持ちも知らず、意識を取り戻したリースは別の新入りにちょっかいをかけにいっている。
「そんなもんにしとけ。」
からかい続けるユエにストップをかけ、本題にはいる。
「で、どうだった?ギルド嬢から何かわかったか?」
一瞬首をかしげた後、今思い出したかのような素振りをし、話し出した。
「ユエ、まさか今の数分の間に、忘れてたんじゃないよな?」
「も、もちろんじゃん!そんなことよりも、危険度が高い理由についてだよ!調査依頼が出ていないのは、もう理由がわかったからだって。詳しい理由はまあ、後からシエテミさんに聞いてね。で、なんかシエテミさんが私たちにお願いしたい依頼があるらしいし、このあとすぐに奥の部屋に来てって。」
ユエがシエテミさんに聞きに行ってから、もう10分近くがたっている。
「おい!そういうことは早く言えって。シエテミさん時間には厳しいの知ってんだろ!」
ガマニの言うとおりだ。シエテミさんは朗らかな見た目と性格のわりに怒ると怖い。
「あれー、そうだっけ?」
ガマニにリースを引っ張ってきてもらい、馬鹿丸出しにしているユエを引きずり、急いで受け付け口に向かう。
やはり、少し遅かった。
そこには、満面の笑みの後ろに般若を見せるという、器用なことをしているシエテミさんがいた。
「遅いですよ~。」
「も、申し訳ありません。ユエが度忘れしておりまして…。」
「へぇー、人のせいにして、遅れた言い訳ですか。」
ヤバイ、シエテミさんの火に油を注いでしまった。これ以上はまずい。後がどうなるかわからない。
しかし、良い良いわけも思い付かない…。
「い、いえ、そ、そんなつもりは…ただ故意に遅れたわけではなくて、その…。」
「故意に遅れる馬鹿なんていないですよ~。テナスさんは面白いことを言いますね。」
「おっしゃる通りです…。」
のらりくらりとかわせるかと思ったが、やっぱりダメだった。
ガマニの顔も青ざめている。
「説教は後回しで、お願いしたい依頼について話したいので、奥の部屋まで、ついてきてくださいね。ギルマスが直接話すようなので。」
「……はい。」
死んだような顔をしているのは、テナスとガマニだけで、女二人は悠々としている。
お前たちも、説教されるんだぞ!
と内心愚痴りながら、能天気な二人を羨ましいとも思うテナスだった。




