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ご飯としばしの別れ

私はリーベ達が狩ってきたセイルビーフの解体をしている。

もう一匹のヤマリナの方はリーベが羽を丁寧にむしっている。


魚の解体には大分慣れているが、哺乳類の解体にはいまだ慣れない。

にしてもこのセイルビーフ、皮が固い!


料理用に作った包丁類では、切り込みが入るだけで切ることはできなかった。


仕方なく、愛刀を使い切り裂いた。


固すぎる皮を前に本当に美味しいのかリーベを疑ったりもしたが、固い皮を越えると、想像以上のものがそこにあった。


きめこまかく光輝いている赤身の肉。

そこに、それを囲むようにある適度な脂身。


適度な弾力もあり、ナイフがいとも簡単に通っていく。


まさに最高の肉がそこにあったのだ。


見てるだけで、よだれが出て来そうになってしまう。


「これはヤバイね――。」

「ほんとうにその通りじゃ。」


浮き島でうたた寝していた、じいちゃんも、垂れそうになるよだれを何とかしながら、食い入るように見ている。


解体している私も目が離せない。


内臓や皮の処理を完璧に終わらし、一欠片も残さないようにきれいに肉を切り取る。


肉だけにしてみると、更に良いお肉感が出てしまった。

予想以上に内臓などが多く、肉の部分は結構小さくなってしまった。

それのせいで、高級感が出てしまっているのも少しある。


「ねぇ、これ何で食べる?」

「生はどうじゃ?」

「いやぁ、生はキツイでしょ。」

「いやいや。ワシは今までほとんど生で食べてきておるが、意外とうまいものなんじゃよ。」

「ムムム。生もありなのか……。この限りある量をどうするか。」


そういえば、リーベは暴風龍の森出身だったから、美味しい食べ方を知っているかもしれない。

とりあえず向こうでせっせと羽をむしっているリーベに聞いてみる。


「オーイ、リーベ。これって何で食べると美味しいの?」

「そうですね……。私も生か焼くだけか塩焼き以外したことがないんですよ。その中では、塩焼きが一番美味しかったです。ちなみに生も結構うまいです。」


生も美味しいのか。

横でどや顔をしている神獣のじいちゃんは今は放っておく。

生肉を食べたことのない私にとって大分抵抗があるが、美味しいのなら背に腹は変えられない。


「じゃあ、生と塩焼き半分ずつ。それで良い?」

「もちろんじゃ!」


調理法は決まったとして、問題は取り出した内臓だ。

皮は絶対に食べられないので捨てるだけだが、この内臓はわけが違う。

この内臓も素晴らしい輝きを放ってしまっているのだ。

見た目だけなら、とても美味しそうだ。


「ねぇ、これって捨てるしかないの?」

「美味しそうなんじゃがの。しかし、内臓はのう……。」


やっぱり捨てるしかないのか……。


もったいないと思いつつ、内臓を集め、魚の餌さとなってもらうべく、池の方に持っていく。


しかし、そこで慌てたリーベに止められた。


「ちょっ、ちょっと待ってください!それ、捨てるつもりですか!」

「そうだけど?」

「捨てちゃダメです!セイルビーフは内臓も焼けば美味しくいただけるんです。」

「そうなの?」

「そうです。」

「寄生虫とか、食中毒とかは?」

「いませんし、おきません。」

「じゃあ、…食べよっか。」

「うむ。」


食べれるとわかって嬉しいような、なんか嫌なような変な気分になってしまった。


リーベ曰く焼くだけで、内臓は美味しいらしいので、腐り出す前にちゃちゃっと焼いてしまう。


予想以上の油にはじめの一切れは丸焦げになってしまった。


火加減に注意しつつ、二回目を焼く。


今回のはうまくいき、香ばしい匂いをたてている。


冷める前にと、解体の作業を中断し、美味しくいただいた。


予想以上に美味しく、一番渋っていた神獣のじいちゃんが一番食べた。

まあ、そういう私も結構な量を食べたけどね。


そのままの流れで、セイルビーフの肉とヤマリナの肉も全部焼いた。


肉汁がしたたり、香ばしい香りも立ち込めていた。

焼き上がるのを待っている間、よだれが止まらなかった。


あんまり食に興味のないユーリンでもよだれがにじんでいたので、よっぽどだろう。


食べた感想は流石というべきか、セイルビーフの肉はしっかりとした味をしており、噛みごたえに舌触り、どれも今まで食べたどの肉よりもすばらしかった。


逆にヤマリナの肉はさっぱりとしたもので、セイルビーフと交互に食べると最高に美味しかった。


うん。これはまたリーベに捕りに行ってもらわねば。


じいちゃんも同じらしく、リーベに羨望の眼差しを送っている。



食事もひとしきり終わり、のんびり思い思いに過ごしているなか、緊迫した空気が立ち込めた。


焦りのような不安のような、そして怒りの混じったオーラが周囲を埋め尽くした。


体が恐怖で硬直し、ピクリとも動かない。とてつもない圧力に体の自由が奪われたのだ。硬直していた体を気合いで動かし、戦闘態勢に入る。


リーベも同じく、隙のない態勢をとっている。


しかし、すぐに杞憂であるとわかった。


とてつもないオーラを出していたのが神獣のじいちゃんだったからだ。


依然緊迫した空気の中だが、敵意のオーラではないことがわかり、少し心は落ち着いた。

が、じいちゃんがこれだけの圧力をおふざけで出すなどあり得ないことなので、皆、緊張した顔もちをしている。


「――来たか。」


じいちゃんがボソリと呟くと同時に神獣の咆哮が辺りに響き渡った。


破れそうになる鼓膜を何とか守り、もう一度じいちゃんを見つめる。

うまく動かない口を動かし、何とか尋ねる。


「――何が、来たの?」


「――怪物じゃ。すべてを飲み込み、無に還す化け物よ。」


そんなことをいきなり言われても何のことなのかさっぱりわからない。

同じくリーベも知らないらしく首を傾げている。


そこから少しずつじいちゃんが語り始めた。


「ワシは神獣じゃ。世界に2体のみ存在するこの世界の守護者でもある。一匹はワシ"麒麟"、もう一匹は北の山におる"霊龜"。霊龜が盾、ワシが矛じゃ。ワシらが何からこの世界を守るか知っておるか?」


神獣がこの世界の守護者なのは知っていたが、それは知らなかった。

わからないと首を振り伝える。


「――海からじゃ。海の魔物は総じて強い。海の中だけで一生を終える物もおれば、大陸に上陸し、大破壊を引き起こす物もおる。海でおとなしくしておるのなら楽なんじゃがの。

上陸しようと試みる奴は多い。

じゃが、大抵はパルセノシェルやエステロニクスなどの浅瀬の魔物に防がれ攻めいることはできんくなっておる。

それをも突き抜け攻めいる奴ら、ワシが怪物と呼ぶそいつらはワシが直々に討伐でもせんと、止めることはできず、大陸もろとも海の藻屑となるじゃろう。」


海の魔物が総じて強いのは確かだが、神獣より強いものはみたことがない。

神獣でも大陸を藻屑にするなど不可能だ。

そんな化け物が沖にいるとも思えない。


「信じられんじゃろう。この大陸は広いが海はもっと広い。ワシより強い奴もおるじゃろう。

まあ、実際におるんじゃがの。

今の流れでわかるじゃろうが、今回ワシが探知したのは悪意を持つ怪物じゃ。

つまり、ワシが仕事にいかなきゃならん。それだけじゃ。」


まだ状況を把握しきれない私だが、じいちゃんが戦闘に行くこと、しばらくは戻らないであろうということ、それぐらいはわかった。


止められるわけもないが、寂しいのは事実だ。


「そう心配するでない。今までにも何回もあったことじゃ。じゃがワシは今もこうしてぴんぴんしておる。今回もサクッと倒して元気に帰ってくるわい。ワシが帰ってくるまで、任せたぞい!」


いつの間にか、逆に気遣われるぐらい、ひどい顔をしていたようだ。


しばしの別れでも、悲しいものは悲しいし…。


でも、心配なんかさせたくない。


笑顔で送り出して、「おかえり」で迎えてやる。


一瞬出てきそうになった涙を引っ込め、今の精一杯の笑顔を作った。


「いってらっしゃい!」


「ウム。いってくるわ!」


とてつもない暴風と共に、一瞬で、神獣の姿は空に隠れて見えなくなった。


「行っちゃった…。」

「もう!何うじうじしてんのよ!笑顔で送り出して、笑顔で迎えるんでしょ。」


ユーリンの言う通りだ。うじうじなんかしてられない。


神獣のじいちゃんが帰ってくるまで!いつも通り過ごすだけだ。


「よし!じゃあ、後片付けまでしちゃいましょう!」

「オー!」「頑張っ!」

「ん?ちょっと待って頑張って何よ、ユーリン!」

「え、片付けしといてくれないの。私いても邪魔でしょ?」

「ムムム…。」


確かにそうなのだが、ここはオー!って言って欲しかった。


「まあまあ、いいじゃないですか。ユーリンには休んでもらって、片付けぐらい二人でできますから。」

「リーベはユーリンに甘いのよ!少しは働かせないと!」

「甘やかして何が悪いんですか!好きな人は甘やかしたいものなのです!」

「そんなこと知らないわよ!」

「知っとけですよ!」

「ムムムム!」


「アハハハハ!」

「何よ!ユーリン!」

「いやいや。もういつも通りだなって。あんたたちはそれでいいのよ。」

「良くないわよ。喧嘩ばっかじゃ、なんか微妙じゃん。」


大笑いするユーリンにムッとするが、ユーリンの笑いに流され、みんなでしばらく笑ってしまった。


そのあと、ユーリンの手伝いにより色々と惨事が起きたことは、また別の話。


じいちゃんが帰ってきたときにみんなで笑顔で迎えれるように。





























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