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寝起き

目が覚めると、真っ白な毛に囲まれていることに気がついた。ユキだ。


あのままユキの上で寝てしまったらしい。

いつのまにか平野ではなく、池の横の小屋に移動されており、今はユキに包み込まれるようにして寝ている。


ここが天国だ。


これ程心地よい場所はないだろう。

いそいそともう一度この天国で眠りにつこうとしたが、あえなくユーリンに見つかってしまった。


「今二度寝しようとしてたでしょ。」


あえて寝たふりを強行し、ユキの中に埋もれる。

しかし、すぐにユキの尻尾を引き剥がされてしまった。


「あー、何すんのよ。折角心地よく寝てたのに。私、もう一度寝ることにしたの。」

「あんたねー。」


ユキの尻尾から顔だけをだしてみると、怒っているのか呆れているのか嬉しいのかよくわからない顔をしているユーリンがいた。


「あんた3日間も寝てたのよ。こっちの心配も少しは考えなさい!」


結局怒られてしまった。

ユキの尻尾からのそのそと這い出る。

しかし、ユキから離れることはせず、もたれかかる。

さっきのユーリンの声でユキも起きたらしく、嬉しそうに甘えてくる。

ユーリンと違って愛らしいユキを十分になでまわしてやった。


「私、3日間も寝てたの?」

「そう。前回より長いから余計に心配だったのよ。」


そんな正面から心配されると、少々気恥ずかしい。


「ごめんなさい。」

「別にいいわよ。無事に起きたんだし。ほんと、ユキとリーベに感謝しなさい。ずっと世話してたんだから。」


ユキに「ありがと」と伝えて撫で回してやる。


「あのリーベが?」

「そう。あのリーベが。」

「何をたくらんでるのかしら?」


そう考えてしまうぐらいリーベが私を看病してくれていたのは驚きだった。


「善意よ、善意。何気に私よりヒナのことを心配してたわよ。」


案外かわいいところがあるようだ。後でお礼は言っておこうと思う。


「それで、ユーリンは?」

「ん?私がした方が良かった?きっと今頃すごいことになってるわよ。」


そういえば、ユーリンは生活力は壊滅的だった。

できるのは料理が少しぐらいだ。


私?私は料理以外ならできるもんね~。てか、そんなこと今はどうでもよくて。


今は、素直にリーベで良かったと思っておく。


「そだね。リーベで良かったよ。」

「後でお礼ぐらいしなさいよ。」

「それぐらいするよ!私をなんだと思ってるの。」


私はそこまで非常識じゃない。感謝の言葉ぐらいはきちんと伝えられる。

さっきもいったとおり、お礼は後でしっかりするつもりだ。


「で、当のリーベはどこ行ったの?」


肝心のリーベがいなければ、お礼も言えない。


「ああ、リーベならパルダリスと一緒に狩りに行ったわよ。」

「海に?」


私の時はよく海に狩りに行ったが、飛行できないリーベに海での狩りはきついだろう。


「ううん。暴風龍の森の方に行ったわ。あそこの魔物などなら、狩りやすく旨いって、リーベが張り切って行ったよ。」

「暴風龍の森か。私行ったことないからな。」

「そりゃ、行かせたくなかったもん。」

「え、そうなの?」


そういえば、昔神獣のじいちゃんと一緒に行こうとしてユーリンに止められた記憶がある。


「何で、行かせたくないの?獲物が旨いのが多いなら、ぜひ行きたいじゃん。魚ばかりは飽きるんだよ。」

「それもわかってるんだけどね。あそこの暴風龍はね、――バカで非常識なのよ。森も同じでさー。」

「え、バカなの?暴風龍が?」

「そう。人の話は聞かないし、物覚えは悪いし、年上を敬うこともできない、人のことも考えない。まさにダメ男(ダメ龍)ね。」


すごい言われようだな……暴風龍。

数少ない龍種の一体なのに。

しかし、その暴風龍がバカなだけなら森に入るぐらいいいのではないか?


「別にそれぐらいなら、狩りに行くぐらいなら良くない?」


試しにユーリンに聞いてみたが、あっさりと拒否られた。


「ダメよ。あそこの森の真骨頂はね、"木の精霊"よ。」

「木の精霊?」


木の精霊と言えば、長く生きた大木に宿る精霊だ。

穏やかな性格で、森の管理をしているような精霊だ。

多種多様な種族を森に受け入れる寛容さ持つ反面、森を傷つけるものは冷酷に排除する面もある。

そんな精霊だ。


「そ、木の精霊よ。うちの森にもいるけど、暴風龍の森にいる木の精霊はもはや木の精霊じゃないわ。」

「どうして?」

「あそこの木の精霊はね、異常なほどに排他的なの。あの森で生まれ育った者には寛容だけど、外で生まれた者は絶対に森にいれようとしないの。しかも全員で情報を共有するから、入ってもすぐにばれて排除されるわ。」

「え、なにそれ。怖――ッ。」

「これ、マジだから。私も入ろうとしたことがあるんだけど、徹底的に攻撃されたわ。全部返り討ちにしたけど。でもそれからもう森に入る気は全くなくなったわね。」

「それなら、リーベとか神獣のじいちゃんは大丈夫なの?」


それだけ排他的なら、狩りに行ったリーベたちも総攻撃されているかもしれない。


「それは大丈夫。リーベは暴風龍の森生まれだし、さすがにあいつらでも神獣とわかっている者に攻撃はしないわ。」


なら良かった。暴風龍の森探索はこれからもリーベと神獣のじいちゃんに任せることにしよう。


ん?

暴風龍の森が危険なのが木の精霊のせいなら、暴風龍関係ないのではないか?


「ねぇ、暴風龍の森に入らせたくないのに、暴風龍関係なくない?」

「そうだけど……、だって、あいつ嫌いなんだもん。」


ふてくされたように、言っているため、可愛く見えるが、ユーリンが結構自己中ということが新しくわかってしまった。


リーベ達が狩りに行っているなら、帰ってくるまでは自由時間だ。


「じゃあ、私は教会の材料集めにでも行こうかな。」


ユキからのそりと起き上がって、うんと伸びをする。

全身の筋肉が固くなってるのを感じたが、今ので多少はほぐれた気がする。


しかし、伸びをしてすぐユーリンに突き飛ばされ、ユキの上に戻された。


ユキの上に倒れこんだので痛くもなんともなかったが、普通に驚いた。


「ちょっとー、何すんのよ。」

「あんたはまだ寝てなきゃダメ。今動いて、またくたばられたら敵わないわ。今日1日は大人しくしてなさい。」

「え、暇じゃん。」

「前の漫画の続きでも書けばいいじゃない。あれ、いいところで終わってるじゃん。」


そういえば、最近は教会作りばかりで、漫画の方はほとんど手をつけていない。

確かに、家のなかでならいい暇潰しかもしれない。


「ああ、確かにそれもありかも。」

「でしょ!じゃあ早速書きましょう!」


ユーリンが机の上を素早く片付け(押し退けて地面に落とし)、紙を一瞬で用意する。

やけに楽しそうに準備している。


「もしかして、私の教会作りをダメって言ったのって、漫画を書かすため?」

「そ、そんなことないわよー。ヒナの体調を思って、だよ~。」


間違いなく、漫画のためだ。

ユーリンは結構嘘が下手だ。

漫画のためというのがまる分かりだが、心配してくれているのも本当だと思うので、今日は漫画の続きをすることにした。





そうして、2時間ほど漫画を書くなりして過ごすとリーベ達がちょうど狩りから帰ってきた。


日も大分高くなっており、お昼を告げる鳥の鳴き声も響きだした。


「おかえり~。」

「ただいまじゃ。おお、ヒナよ。無事目を覚ましたようじゃな。元気そうで良かったわい。」

「もう元気もりもりよ。」


軽く体を動かして、元気さをアピールしていたら、またユーリンに怒られてしまった。


「くっ、もう起きてしまったのですか。もう少し寝てれば良かったのにですよ。」


神獣のじいちゃんの横でそっぽを向きながらそんなことを言っているが、今ではかわいい照れ隠しにしか見えない。

少し、からかってやろう。


「何々、私には無事に起きて良かったです。と遠回しに聞こえるんだけど?」

「まさか!そんなことあるわけないでしょう。」

「うんうん。そんなに怒るとはまさか図星かな?」

「違います!ヒナが寝ているうちに貸しを作ってやろうと思っただけです。」

「ほう、つまり貸しを作るためだけに私を懸命に看病してくれたと。」


リーベの仮面の下の顔が赤くなっているのが簡単に想像できる。


「懸命になんて看病するわけないでしょう!」

「そうかなー?私の体から臭いもしないし、服も楽なものに代えてある。そして極めつけは部屋がきれい。これを懸命にと言わずなんと言う!」

「臭いは部屋に籠ると嫌ですし、部屋も汚ければ気になります。看病もなにも関係なく普通のことです!」

「はっ、私の裸を見たのね。キャー、エッチ。」

「ヒナの裸なんて、ちんちくりんのガキでしたよ!別になにも感じませんでしたよ。」

「やっぱり見たんだ。それに、何も感じないってひどくない?私これでも15だよ。お年頃なんだよ。少しくらい何か感じても良くない?」

「仕方ないでしょう。ヒナがいくら人としての美人になろうと私のような魔獣相手では無理ですよ。やるなら、体じゃなくて性格を磨いてください。それにヒナの裸を見たのは、看病するには必要なことです。」


ムムム。リーベに色気は通じないのか。

まず人と魔獣では美的センスが違うのかもしれない。

しかし、今はそんなことは重要ではない。


今、リーベは看病するために必要と言った。私を懸命に看病していたと自白したのだ!


「――認めたね。リーベは私を懸命に看病してくれた。うんうん、いいことじゃないか。リーベにもかわいいところがあるんだね~。」

「ムクククク!」


リーベの顔が怒りやら恥ずかしいやらの表情になり出したので、そこらへんにしておいてやる。


「ありがとね。リーベ。」


「い、いきなり、なんなんですか!煽ったり、感謝したり!」


私が急に感謝しだしたせいで、リーベの顔は恥ずかしさでいっぱいになっている。


「だから、看病してくれてありがとうって言っただけだよ~。」


ここは、できるだけ余裕があるように言う。

あくまで自分はお礼を言っているだけと伝わるようにする。

リーベが困った顔でいるのを見ているのは楽しいかもしれない。


困惑で固まっていたリーベがやっと正気に帰ってきた。


「べ、別に良いですよ。」

「またまた、照れちゃって~。」

「照れてません!」


かたくなに否定するリーベも何かとかわいい。

まあ、お礼もちゃんと言えたし、この話はここまでだ。


「リーベ達、暴風龍の森に行ってきたんでしょ。何が獲れた?」


暴風龍の森のは美味しいのが多いとさっきユーリンから聞いたので何が獲れたのか気になっていたのだ。


「そうそう。相変わらずあそこの木の精霊はひどいのぅ。ワシが入るだけで攻撃はしてこんが、嫌がらせばっかしてきおる。」


さっきのユーリンの話は本当ということがわかった。


「何されたの?」

「木の根を地面からいきなり出したり、ワシの回りだけ暑くしたり、地面をぬかるませたり、ほんとねちっこいものばかりだったわい。」


確かに、そのようなことをされたら、移動するだけでも大変だ。


「ヤバイね。」

「ヤバイわい。」


神獣でそうなら、私にはもっとひどい攻撃をしてくるだろう。

暴風龍の森には絶対に行かないと、心に決めておいた。


「獲れた獲物ですが、セイルビーフが手に入りました!あと、ヤマリナも捕まえました。」

「うんうん。で、どんな奴?」


――どちらも知らない。

見たことはないし、名前も初耳だ。

暴風龍固有の種族なのかな。


「そうですね、パルダリス様が運んでいるのが、セイルビーフです。私が手にしているこれが、ヤマリナです。見たことなかったですか?」


ねーよ!

こちとら、平野と海に神獣の森、あとは氷山にしか行ったことがないんだから。


しかし、ここで嫌味を言えばニヤニヤしているリーベの思うつぼかもしれないので、ここはなんとか自重する。


「ビーフってつくくせに牛っぽくないわね。」


このセイルカーウは牛と言うより、豚のような見た目をしている。

ビーフと言えば牛肉だろう。

しかし、このセイルビーフは豚に角が生えた、そんな感じの魔獣だ。


「その、ビーフって何ですか?」

「え、知らないの?」


さっきとは逆で煽ってやる。


「はい。知りません。私の勉強不足のようです。」


無知を馬鹿にされて怒ることを期待していたのに、こうも素直ではいじる気も萎えてしまう。


「ビーフってのはね、正しくはbeefって書くの。これは英語っていう言語で牛肉って意味よ。」

「英語、ですか?」

「そう。"英語"よ。」


古代ラセラウス語は日本語と英語を合わせたような言葉だ。

そのためスキルに『古代ラセラウス語』があるが、なくても意志疎通に困ることはないだろう。


ユーリンから百年ほど前のことを聞くうちに、古代ラセラウス語がどんなものかはわかっていた。

まあ、百年前のことなので今がどうなのかは知らない。


「私は古代ラセラウス語について学習したことがないものでしてね。」

「マジ?」


リーベはおそらく100歳をこえているはずだ。

人間と出会ったりもしたことがあると思うし、そこそこ古代ラセラウス語も使っていたと思うんだけど。


「本当です。人間と出会ったりしたことは結構ありますが、まともに会話したことはないですね。基本、勝負を挑むような形で終わることが多かったもので。」

「戦闘狂?」

「かもしれないです。」


リーベが控えめに認めたのをユーリンが全面的に肯定する。


「いいえ、かもじゃなくて間違いなくよ。」


「じゃあ、たまには勉強もしないとね~。先生と呼んだら教えてあげないこともないわよ。」

「いえ。結構です。」


ムククッ。今回もさらりとかわされた。

弟という立場にリーベが来てから、少し張り合いが減ってしまった。


「ユーリン先生!私に語学を教えてください!」


私のを断ってまで、ユーリンに教えをこうというのか!

そんな、完璧なお辞儀までして!


一瞬悔しいとか思いそうになったが、こいつがユーリン大好きっ子なのを思い出すと、そんな気も失せてしまった。


「嫌よ。」


ユーリンから出たのは、辛辣な答えだった。

そういえばここ数日間ほどだけだが、ユーリンがリーベのお願いを素直に聞いてあげたのを見たことがない。

たいてい、「嫌よ」からはじまっている気がする。


「私じゃなくて、ヒナから教わればいいじゃない。今じゃ私より詳しいかもしれないし。」

「そんなことはございません。ヒナがユーリン様より優れているなんてことは決してないと思います!」


そんなに断言されると、私としては結構傷つくんだけど。

確かに戦闘やラセラリウスの知識はユーリンの方が圧倒的に上だろう。

しかし、全て劣っていると言われるのはさすがの私でもいらっときてしまう。

少なくとも、家事はユーリンよりできる。

特に片付けは!


しかも、古代ラセラウス語については、小説を書いたりもしているので、使い方は大分マスターしている。


私を余りなめないことね!


私がガツンと一言言ってやろうと思った所で、ちょうどユーリンが話し出した。


「リーベ、私は完璧じゃないの。得意なこともあれば、苦手なこともあるの。そこは、わかってちょうだい。」


すごくしんみりしたように言っているが、やりたくないがための言い訳感が、見え見えだ。


多分リーベには感慨深いことをおっしゃるユーリン様、という風にしか見えてないだろうけどね。


「――わかりました。今回はヒナに教えてもらうことにします。」


そこで、そんなにも残念そうにするのにはやっぱり腹が立つ。


「先生って呼んだら教えてあげる。」


仕返しにさっきと同じ下りをもう一度やってやる。


「じゃあ、いいです。独学で勉強します。」


やはり、またも断ったが、今回はユーリンの愛の手が入った。


「リーベ、独学じゃ無理よ。大人しく教えてもらいなさい。話せても、読み書きができなければ色々困るわよ。」


「そう、ですね。ここは大人しく引き下がることにします。というわけでヒナ、教えてくれ。」


「あれ、"ヒナ先生"は? 」


うまく誤魔化そうたってそうはいかせない。

嫌そうに渋っていたが、最後にはおれたようだ。


「お、教えてください、ヒナ先生…。」

「うむ。」


すごく悔しそうなリーベを見れたので私は満足だ。


「のう、そんなことより飯にせんか?ワシ腹が減ってしんどいんじゃが。」


盛大な腹の音ともに神獣のじいちゃんがそんなことを言ってきたので、話はそれぐらいにしておいた。

語学の授業はまたおいおいしていくことにする。


それよりも今はご飯の準備だ。












































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