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首領、空から巨大肉が!②

「さて首領、オレ達が何しに来たか分かりますよね」

「知らねえとは言わせねえぞ」


 隻眼と傷だらけが凄みながら顔を近づかせると、首領はごくりと唾を飲み込んだ。


「も、もちろん。食糧が残り少ないんだろ。冬は食い物が獲れない育たないで困るよな。ホント」


 山オークの食糧となる山の動物達は、冬になるとオーク達の居る東側よりも暖かい西側に移動する。家を持たない動物にとってはそれで良いだろうが集落に住むオークはそうはいかない。よって食糧の枯渇が起こる。


 だが今の首領になるまでは、例え冬と言えど食糧問題が起こった事は無かった。


「そうだ、よくわかってるじゃねえか。なら後は行動するだけだな。早くドラゴンを捕まえに行くぞ」


 牙のオークが言った途端に首領の表情が曇った。問題はそれだ。今までの首領達は冬になると、1年中オークと同じように山の東側に住み、食えば200人以上のオークの腹を1ヶ月は満たすことが出来るフォレストドラゴンなる生き物を自分1人で仕留めていたのだ。


「2ヶ月前に急死したアナタの父親も冬になればやってた事です。あの人が死の間際にオレ達に遺した言葉があります。『頼む。お前たち3人で息子の力になってやってくれ』……あの人がオレ達に何か頼んだのは、あれが最初で最後だった……」


「そうだ。だからアンタは首領決めの戦いも免除されて、こうして首領になってるんだぞ。なのにいつまで家に篭ってるつもりなんだ?」


「オデ達も手伝う。だから行こうぜ、首領!」


 若き首領は逃げ出したくて堪らなかった。自分は父親と違って力強くも勇敢でもない。ドラゴンと戦いなんてしたら、すぐに死んでしまうだろう。だいたい訳もわからず急に首領にならされて、それで首領らしくしろなんて無理な話だ。


「オイッ、首領!!!」

 隻眼のオークが困り顔の首領の肩を激しく揺らした。


「いつまで臆病なんだ。勇気を出して……」


「ま、ま、まってくれ! わかった。行くよ! 行く。準備するから外で待っててくれ」


 その言葉に隻眼のオークの動きが氷魔法にかかったかのように、ぴたりと止まった。そして首領をギロリと睨む。


「……本当でしょうね。もし嘘だったら……」


「ホッ、本当だって! もう逃げない。俺はやる」


「そうですか……わかりました。じゃあオレ達はいつでもいいですから首領の準備が出来たらすぐ行きましょう。オイ、お前ら。外で待つぞ」


 隻眼のオークが手招きすると、牙のオークは渋々ながらも首領を床に降ろし、傷だらけのオークと共に家を出て行った。


「逃げるなよ。もしも逃げたりなんかしたら……」


「あんたをドラゴンをおびき寄せる餌にしてやる」


 自分以外、誰も居なくなった家の中で首領はため息をついた。もう逃げる事も仮病のフリも許されない。ドラゴン狩りに行くしかなくなってしまった。


「くそ、こうなったら一か八か……」

 若き首領は、さきほど決死のダイブで捕った妖精の涙入り小瓶の蓋を開けた。父に聞いた事がある。妖精の涙は、飲んだ者に不思議な力を与えるんだ。もうこれに賭けるしかない。


「頼むぞ!」

 天に祈りつつ首領は小瓶を傾け、妖精の涙を一気に飲み干した。


「……うん……うん?」

 首領は自分の体を見回した。だが筋肉が膨れ上がるわけでもなし、翼が生えてくるわけでもなし、何も起こった様子がない。


「これは……」

 額に汗が滲み、若き首領は頭を抱えた。何が妖精の涙だ。何も起こらんじゃないか! ひょっとして偽物だったのか? くそ、やはりあの狡猾そうなハーフリングの行商人から買ったのが失敗だった。


「オイ、首領! まだか!」


「あっ、ああ! もうちょっと待っててくれ」

 首領は意味もなく、家の中を歩き回った。段々と恨みつらみが口から湧き出てくる。


「ええい、くそ……何で俺がドラゴンなんか……向こうから来りゃいいんだよ。空から肉降ってこいよ!」


 死にそうな顔で苦し紛れの願望を吐き出した時、外に居る3人がやおらに騒ぎ出した。


「おっ、おい、見ろ! 何だアレは!」

「肉だ!」

「肉が落ちてくるぞ!」


 首領が振り返ると同時にズズーン、と地面が激しく揺れた。肉が落ちてきただと? まさか! と外へ出ると大量の砂煙が辺りに舞っていた。やがて砂煙が晴れると、集落のど真ん中にドラゴンと同じサイズの肉の塊が鎮座しているではないか。


「何だい、今の音は!? ……まあ……」

「わあ、お肉だ、お肉!」

「本当だっ、肉だ! 何て大きさだ!」


 騒ぎを聞きつけた家々の山オーク達が一斉に肉へ群がり、がっつき喰らい出した。


「う、うめえ!」

「ドラゴンより美味いぞ!」

「こんな美味い肉は初めてだ!」


 急に空から降ってきた怪しい巨大肉を遠巻きに見ていた首領たち4人も、他のオークがさも美味そうに食べているのを見て、堪らず肉へ近寄り、そのままかぶりついた。


「本当だ。こりゃ美味え!」

「空から降ってきた肉がこんなに美味えなんて……」

「世界にはオデ達の知らねえ肉がまだゴロゴロあるんだ!」


 山オーク達の途方も無い食欲により、巨大肉は瞬く間に消え失せてしまった。


「もっとだ。もっと食いてえ!」

「オデ達で美味い肉を探しに行こう!」

「行くぞ皆んな! この広い肉世界(ミートワールド)へ!」


 かくして、山オーク達は肉を求め旅立っていった。行け山オーク、頑張れ山オーク! 最高の肉を食すその日まで!

ご愛読ありがとうございました!

山み先生の次回作にご期待ください!

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