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私生活を公開

 今、俺はベリモ山という山の奥に小屋を建ててそこでひっそりと暮らしている。

 この山はいい!

 小屋の材料はそこら中に腐るほど生えてるし、食人植物や山オークがウヨウヨいるから人なんてまず入ってこない。


 俺も最初は襲われたりしたけど一度ガアッて威嚇したらよほど怖がられたのか俺の住むエリアには入ってこなくなった。別に襲ってさえ来なけりゃ小屋の屋根で昼寝してくれたっていいのに。


 小屋の中にある物は机、椅子、ベッド。これで終わりだ。余計なものは一切排除した。人との未練を絶つためにも今までの人生で得た金や高級品も全部、寄付した。そもそも山暮らしにはそんなもの必要ない。


 食い物も置いてない!

 第一、不老不死だから食わなくても生きていける。今まで食っていたのは周りの人間が「この間はありがとうございました。食事でも行きましょう」とやたらに誘ってきたからだ。要するに付き合いである。そして当然だが山にいると誰一人として誘ってこない。


 そこで分かったのだがメシを食う必要がない人間は誰かに誘われないとメシなんかまず食わない。たまに口に唾液以外の味を滲ませたくなったら、そこら辺の草や木の実をかじって、それで十分だった。


 普通の人ならこんな暮らしは御免こうむるだろうが、俺はこの暮らしをなかなか気に入っている。仕事をする必要もないし、何より周りの目を気にする必要もない。ひたすらに自由だ。




 と、いうことで今日も一日が始まる。俺の一日の始まりはベッドの中からだ。


 そう、俺は毎日7時間は寝る。別に食事と同様、取る必要なんて無いはずだがこれだけは取らないとまずい。一度、ものは試しに全く寝ない人間「ワント」として生きたことがあるがアレは酷かった。健康には何の支障も無いのに精神がとにかくイライラして、絶えず誰かとつまらない小競り合いをしてしまうのだ。


 しかも喧嘩になると100%こっちが勝つので、法廷でも怪我の軽いお前が悪い。やりすぎだということになり最終的に牢屋にぶち込まれた。以後、俺は睡眠だけは欠かさない。


 それにほら「朝起きたら不老不死じゃなくなっていた」なんて奇跡がいつか起こるかもしれないし。


 だから俺は目が覚めると真っ先に手の甲を少し傷つけることを日課にしている。というわけで早速今日もガリッと……はい駄目。すぐに血が止まって傷がふさがりました。今日も変わらず不死ということでね。残念残念。


 さて、日課が終わったから今日、やらないといけない事は全部やってしまった。あとは寝る時間までやらなくてもいいことをやる。つまり暇つぶしだ。


 えーと、確か昨日は体をちょうど半分のところで斬って、上半身か下半身のどっちから体が再生するかってことを実験したんだっけ。


 そうだ。ベッドの脇にやった結果を書いてたはず……そうそう、上半身からが862回。下半身からは519回だった。それで首のある上半身が優先されるってことが分かったんだ。


「あっ」


 そういえばその時に出た、再生しなかった片割れ1000体以上が放りっぱなしだ。いかんいかん。今日はあれを処理することから始めよう。


 俺はベッドから起き上がり、靴を履いて小屋を出た。小屋からテクテク歩いて1分。ジャーン。ここが俺の遊び場だ。まあ只の開けた草原なんだけど。


 さて、あの大量の片割れどこに置いたかな。この草原、どこに立ってても景色ほぼ変わらないし体の再生しすぎたせいか、昨日の記憶ほぼ無いんだよな。まあ時間はたっぷりあるからのんびり探そう。


 それにしても、ここ本当に何もないな。ブランコや巨大滑り台があってもいいかもしれない。木で作れば材料なんてそっこら中にあるし。うん、気が向いたらやろう。そうしよう。


 まあ気が向くのがいつの話なんだーって事になるけど……おっ。あそこだけ何か地面の色が緑から赤になってるぞ。これはもしかして。


 俺は少し早足で、その赤い地面に向かった。


 あー、あったあった。


 そうだ、体のパーツが散らばるから深い穴掘って、その中にパーツ捨ててたんだ。それでやってるうちに穴がいっぱいになったから辞めたんだった。


 それにしても、これすごいグロいな。間違いなくモザイクかけるやつだよ。


 こんなもん人に見られたら「ベリモ山で1000人以上のバラバラ死体発見。それも全員同じ顔」とかで大騒ぎになって新聞やワイドショーで連日報道されるぞ。あっ、この世界にワイドショーないわ。


 とにかく処理しないとだ。しかしどうする、これ。

 燃やすか……でも山火事にでもなったら大変だぞ。かといってこのまま埋めておくのも気持ち悪いし死臭がえげつない事になりそうだ。捨てるのもまずい。


 燃やすか捨てる以外で無くす方法ないか……なんかこうドロドロに溶かすみたいな……溶かす……酸……胃液……胃? 


「あっ、そうだ!」


 山オーク達に食わせればいいんだ! 

 あいつら雑食性だから基本何でも残さず食うし! 


 しかも俺は体を処理できて助かる。山オーク達は腹が一杯になって嬉しい。win―winの関係じゃないか。誰も損しない! 何かものすごく大事な事を見落としてる気がするけど、このアイデアいけるぞ!


 そうと決まれば早速、行動開始だ。まずこの大量の体を念力魔法で持ち上げて……うっわ、全体像を見るとさすがの俺でもちょっと気持ち悪いな。


 ……これいくら山オークでもドン引きして口つけないんじゃないか? その可能性あるな。そうなるとまずいから幻惑魔法かけとこう……よし、これでいびつな巨大肉にしか見えないはずだ。あいつら魔法耐性ゼロだしいけるだろ。


「よし、行くか」


 俺は念力魔法を自分にかけて、巨大肉と共に空へ飛び上がった。上空の涼しい空気を切るように飛ぶのは気持ちがいい。早く飛べば飛ぶほど気分も高まってくる。今時速何キロぐらい出てるんだろう。


「あっ、もう着いたか」


 そうこうしているうちに山オークの住む集落が下に見えた。ひとつにオークといっても種族があり、それぞれで習性が違うが、山に住んでいるのは仲間意識の高い種族だ。


「みんなで仲良く食ってくれ」


 一言呟いて、巨大肉の念力魔法を解除する。巨大肉はズズーンと音を立てて落ち、その衝撃で木から鳥がバサバサ出てきた。


 ああ、俺良いことしたなあ。

 山オーク達、喜んでるだろうなあ。

 俺は満足して遊び場に引き返した。


 だがこの行動が後にとある騒動を引き起こす事になるとは、この時の俺は思いもしなかった……。

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