表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

チートの楽しさは続かない

 単刀直入に言うと俺は中学生のころ、中二病だった。

 どんな症状かというと、まず一冊のノートに自分のプロフィールを書いていた。


 ノートのタイトルは確か「天界よりこの世に生まれおちた、だ天使」だった。漢字が分からなかったから「だ」を平仮名で書いていたのを覚えている。


 そのノートには、自分の正体は天界から追放された天使で、力を解放すると光の10倍の速さで飛べて、どんな敵も倒せる「全テヲ浄化スル光ノ矢(パーフェクト・アロー)」が使えて、他にも自分の知ってるゲームや漫画の技も何でも使える……とまあ好き放題な事を書いた。


 でも髪型や制服を奇抜にアレンジしたり、常に手に包帯を巻いたりとかはしなかった。

 いやしたかったけど、したらヤンキーにいじられるだろうから、学校では普通にふるまった。そのぶん、授業中に「急にアクマの軍勢が攻めてきて皆を守るために真の力を解放して戦う自分」とかよく妄想してたけども。


 そして、この中二病真っ只中の時に俺は死んだ。

 下校中に横断歩道を渡ってたら、信号無視のトラックに思いっきり撥ねられて。

 余談だけどトラックのナンバーは「し27―31」だった。


 で、気がついたらあの世にいて天国か地獄かの審判を受けていた。

 だがここで意外なことが起こった。

 何と俺はまだあの世に来るべき人間じゃなかった事が判明したのだ。


 じゃあ何故死んだのかというと、本来死ぬはずだったのは俺と同姓同名の99歳のお爺さんだったのに、新人の死神が間違えて俺の命のロウソクを消してしまったからだと。しかも俺は本当なら105歳まで生きる予定だったらしい。


 そんなわけでこれが、けっこうな「やっちまった」案件になり、俺には90年分の寿命をパアにしたお詫びとして何でも3つまで願いを叶えてもらう権利をプレゼントされた。


 あの時は本当に嬉しかった。

 心の底からガッツポーズした。

 だって「天界よりこの世に生まれおちた、だ天使」の架空の設定がさ。

 本当になるチャンスだったから。


 夢が現実になるってこういう事なんだと思った。

 それも絶対に叶いそうにない夢が。


 願いを叶えてもらう状況になったときのシミュレーションもノートの中でやってたので、大して考えもせずに俺は願いを叶えてもらった。


 まず願い①「めっちゃくちゃに強くなりたい」

 願いが叶い俺は俗に言うチートの強さを手に入れた。


 続いて願い②「前の世界はもういいから、別の世界で生き返りたい」

 願いは叶えられ俺は異世界に旅人として転生する事になった。


 最後に願い③「不老不死になりたい」

 願いは叶えられた。俺は不老不死になった。


 だが今思えば、この時の俺はもの凄くバカなことをしていた。


 若さゆえの過ちってやつ? 強い=楽しいと思っていたし、それが永遠に続くんだからずっと楽しいはずだって浅はかに考えてたんだろうな。本当にバカとしか言いようが無い。


 だって考えても見て欲しい。

 不老不死で世界最強だぜ。


 こんなもん俺TUEEEで「ぼくのかんがえたさいきょうのキャラ」だ。大問題だ。

 いったいそれの何が問題なのかと言うと、まあ、そこはおいおい話していく。


 で、そんなこんなで異世界に転生した俺はもう超、調子に乗った。イキリにイキッた。


 まあ無理も無いわ。ついさっきまで全く冴えなかった人間が急に100メートルを1秒で走れて、地面を殴ったら温泉が噴き出て、燃えろと念じた物が燃えるようになったから。調子に乗るなという方が無理。


 調子に乗りまくってたから、名前も本名の「山岸一(やまぎしはじめ)」から「マウント・リバーワン・ヴェルトカイザー」に改名した。一人称を「ぼく」から「俺」にして、笑い声も「ククク」に変えたりして、自分にベロンベロンに酔っていた。


 まあ仕方ない。思春期だもの。


 名前を変えてから、異世界を探索していると闘技場のある町に着いたので早速それに出た。

 始まって3分で決着がついた。

 出場者は俺含めて40人ぐらいだったけど、全員ボッコボコにした。


 すると、その成果のおかげか王宮の直属親衛隊? というものにスカウトされた。

 あっという間に親衛隊のトップに上り詰めた。

 親衛隊は全部で7部隊に分かれ、それぞれ10人居たけど皆俺より弱かった。


 親衛隊のトップに上り詰めて1ヶ月後、ゴブリンの大軍が王都に攻めてきた。

 3日で決着がついた。

 敵の兵力はこっちの10倍ぐらいあったらしいけど、全員ボッコボコにして追い払った。


 終戦後、ゴブリン達が居なくなったおかげで王都周辺の治安が良くなると、国王がそれに味を占めたのか他の魔物も追い払うように命令してきた。俺はお望み通りにした。


 また命令が出た。勝った。

 また命令。勝った。命令、勝った、命令、勝った。命令、勝った……

 来る日も来る日も戦いの繰り返しで遂に10年経った。この頃になると、うちの国で魔物なんか殆ど見なくなっていたし、俺も尋常じゃない量の勲章を与えられた。


 だがこの辺りから、楽しかった異世界ライフがつまらなく感じてきた。「カイザーさんは年の割りに若いですねぇ。まるで10代だ」と初対面の人間にいつも言われるからじゃない。そこは数年前から魔法で年相応の外見にしてた。


 原因はチート級の強さを手に入れたせいでどんな敵もすぐ倒せてしまうことだ。レベル100の奴がレベル1の奴を延々倒すのと同じでハッキリ言って苦行に近い。いっそのこと兵士なんて辞めて別の人生で楽しく暮らしたいとさえ思った。だがこの時既に皇帝の立場になっていたので、やめるにやめられなかった。


 そこで俺は戦死することにした。戦いの中、わざとスキだらけに構えて敵に斬られ、そのまま死んだフリ。作戦は見事に成功し、俺の体は国葬されて国最大の墓地の最深部に埋められた。そして人が居なくなったのを見計らって、地中から這い出た。


 さて、これで俺が楽しい暮らしを手に入れたかと言うと、そうではない。俺はこの後、外見を魔法で変えて様々な生き方をしたが、その全てがつまらない生き方になった。


 まず皇帝をやめた俺はマキシと名乗ってごく普通の町人になった。ある日のこと、兵士時代には一切してなかった自炊を気まぐれでやった。そして出来上がった料理を近所におすそ分けすると、全員から「美味すぎた」との感想をもらい、そこから何やかんやあって宮廷料理人になった。


 しかし何を作っても美味いとしか返さない王族に嫌気がさした俺は、マキシの名と外見を捨て、イーチと名乗って今度こそ楽しい生き方を目指した。確かイーチは暇つぶしで作った武器が評判を呼んだせいで国一番の武器職人になったんだと思うが、これも何を作っても凄いとしか返さない客に退屈して辞めた。


 勘のいい人ならもう気付いただろうが、これこそ、先ほど「おいおい話していく」とした問題である。願い①の「めっちゃくちゃ強くなりたい」を叶えてもらったせいで、俺はありとあらゆる仕事にめっぽう強くなってしまったのだ。


 それからも、俺の人生は成功という名の失敗の連続だった。数百年間、何をやっても上手くいった。


 俺は強くしてもらったことを後悔するようになった。何をやっても上手くいくというのは、逆に言えば何をやってもつまらないということである。失敗があるからこそ成功は面白く、楽しいということにここでようやく気付いた。


 失敗の無い人生なんて敵も穴も無い横スクロールアクションゲームと同じだ。

 まあ~つまらない。


 不老不死ということも退屈な人生に拍車をかけた。このせいで死の淵とか身の危険な時に生まれるスリルや興奮なんて全く無い。ゼロだ。


 あと、どう生きようが延々と仕事に追われる事にもうんざりした。


 何の仕事もせずに生きてみた事もあったが、それはそれで陰口を叩かれた。「働かないで暮らせるなんてけっこうな身分だよなあ」と。バカヤローてめえの何倍も働いてたわボケ! 


 そこで俺は人里離れた所で暮らす決心をした。

 人と接することをやめたら、仕事をしても退屈、しなくても陰口という負のスパイラルから抜け出せるのではと考えたからだ。


 そして、今に至る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ