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ありったけの想いを  作者: ゆきち
第五章:伝えられなかったこと

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第24話 謎の人影

 ◇




 ファミレスを出てからしばらくして、丁度別れ道が近づいてきた頃だった。ふと、こんな話題になった。


「そういえばさ、『死者と邂逅できる砂浜』って知ってる?」


 随分と久しぶりに聞く言葉だ。

 一時期、俺が存在するかも分からない少女を探す際に関係がある可能性がある場所として挙げられた所。

 まさかその名前を再び聞くとは思っていなかった。


「雪人?」


「ん? ああ、悪い」


「そう?」


 いつの間にか足を止めていたらしい俺に、心配げな顔を向けられる。返事をしても、それは拭えない様子だった。

 俺は誤魔化すように話を戻そうと口を開きながら歩みを再開した。


「まあ、聞いたことくらいはあるよ。それがどうかしたのか?」


「うん。きっと知ってる人も多いような、話題にされ尽くしちゃった都市伝説の一つなんだけどね、それが最近、よく話題に挙がるようになってきたの」


「最近?」


 記憶を掘り返してみるも、学校内では見事に寝ていた記憶と海が綺麗だなって記憶くらいしかない。俺の高校生活って一体……。

 自分の日常の過ごし方を振り返ってみて、若干ナーバスになっていると、再び心配する目を向けられていた。


「どうしたの? そんな死にそうな顔して」


「気にしないでくれ。ちょっと俺の人生がクソつまんないなって気付いただけだ」


「この一瞬で一体何があったの!?」


 驚いた鈴木の目がまるで『いや、お前の人生がクソつまんねぇ事くらい今更じゃね?』って言っているような気がするのは気のせいだろうか? きっと気のせいだ。ちょっとナーバスになりすぎていたんだ。家に帰ったらしっかりと休もう。

 俺が現実逃避していると、鈴木は「と、とにかく!」と続けて、ビシリと人差し指を向けてきた。


「ネガティブな事考えるの禁止! 悲しくなるから!」


「俺からネガティブな事を取ったら、一体何が残ると思ってんだ?」


「そんな事ないよ! 雪人にだって良いところあるよ」


 取ってつけたようにあわあわとフォローを入れてくれる鈴木に俺はじっとりとした目を向けた。


「じゃあ、どこが良いか言ってみろよ」


「それは、えっと……あー」


 鈴木はあからさまに言葉に詰まると、目をスイスイと泳がせて唸り、少ししてすぐに頭を抱え始めてしまった。おっと、これはもう答えが出ちゃってますね。『ない』と言う言葉が顔を覗かせてますね。

 そして一度俺と目を合わせると……あははと誤魔化すように笑った。


「そこまでか!? そこまでしてもないのか!?」


「ち、違うよ! ほら、本人に面と向かって良いところ言うのって、その……照れるじゃん」


「まだ目が泳いでるんだが? めっちゃバチャバチャ言ってるんだが?」


 自分の頬を両手で恥ずかしそうに挟んだりしているが、目が全然誤魔化せていない。

 疑いの視線を向け続けていると、開き直ったのかムッとして。


「じゃ、じゃあ雪人だってあたしの良いところ挙げてよ。そしたら言うから」


「ない」


「即答!?」


 またもや驚かれるが、何故このタイミングで聞いて良いところを挙げられると思ったのか謎だ。

 このまま続けたら何となく面倒なことになりそうだと思い、俺は早々に話題を切り替えることにした。


「あっ、で、何だっけ? その砂浜の都市伝説とやらが最近よく噂に上がるだっけ? 悪いけど、俺は全く聞き覚えがないな」


「話題の戻し方が雑!? 面倒臭くなったの!? さっきの話はもう少し詳しく聞かせてもらうよ!」


「チッ……」


「し、舌打ち……」


 鈴木が一瞬怯んだ隙をついて、俺は再び話題の軌道修正を図る。


「それで、結局その噂が何なんだ?」


「あ、本当に話進めちゃうんだね……」


 鈴木が悲しげなトーンで返すのを無視して続けた。


「今更話題になるってことは、何かあるんだろ?」


 聞くと、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに得意げに人差し指を立ててにこりと笑う。

 こいつは本当にこういう話が好きなようだ。


「最近ね、ある目撃証言が多数寄せられてるの」


「目撃証言?」


 何かの事件の香りがする言い方だ。


「その砂浜にはね? 最近、私達と同じ高校の制服を着た女子生徒が、夜な夜な歩いているんだって」


「ただ散歩していただけじゃないのかそれ?」


 何かと思えばアホらし。いくら都市伝説の街と呼ばれていたって、ただ夜に出歩いてただけで怪奇現象扱いされたら堪ったもんではない。

 その人には同情しておこう。

 俺の興味がすでに削がれているのに気がついたのか、鈴木は慌てて「待って待って」と言った。


「話にはまだ続きがあるんだよ!」


「あん? どうせ青く発光しているように見えたんだとか言い出すんだろ? それ多分、月明かりのせいだからな」


「そうじゃないよ! 透けてたの! 女の子の身体が」


 両腕をブンブン振って説明してくれるが、全然信用出来ん。


「透けてたねぇ……。それも月明かりと目の錯覚によって引き起こされたイマジネーションだろ」


「違うよ! きっと誰かが願ったんだよ! その女の子にもう一度会いたいってね」


 そこまで話したところで、丁度別れ道に着いた。


「んじゃ、また明日な」


 俺は手を上げて、いつも通りに去ろうとするが今日はそういうわけにはいかなかった。


「待ってよぉ。そんな一瞬で興味無くさないでよ!」


 去ろうとした俺の袖を掴む鈴木はすでに涙目だ。


「分かった分かった。聞くから泣くなって」


「……もう怒った! こうなったら直接確認しに行こう!」


 何やらお怒りになったらしい鈴木がそんなことを言い出した。


「行くって、今からか? もう結構遅いぞ?」


「うん。それでもだよ」


 最後に振り返りながら言った鈴木の表情が、どこか寂しそうに見えたのは気のせいだろうか、

 気を取られている間に断るタイミングも失い、俺は溜息を吐いて、頭を掻くと「分かったよ」と渋々了承した。


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