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ありったけの想いを  作者: ゆきち
第五章:伝えられなかったこと

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第23話 バイト後の至福

 ◇




 バイト先に到着すると、鈴木には取り敢えず店の先で待ってもらって、俺は挨拶ついでに店長の元へと足を向けた。

 マネージャールームに行くと、店長がお手本のような営業スマイルで挨拶をしてくれる。

 俺もそれに習って挨拶をしてから、鈴木の件について話すことにした。


「別に構わないよ。もし履歴書を持ってるなら、今から面接をしてもいい」


 と、意外にも簡単に了承を貰うことができた。

 俺はそれに内心で驚きながら、鈴木に伝えるべく従業員スペースから出て、鈴木の元へと向かう。


「面接してくれるってさ。履歴書さえ持ってれば、今からでもって言ってたけど、流石に持ってないよな?」


「あるよ履歴書」


 スッと、まるで了承が出ることが最初から分かっていたかのように鞄から履歴書を取り出した。


「随分と用意が良いな……」


「バイトって、言えばすぐに面接してくれるようなイメージあったから用意しておいたんだよね!」


 どうやらそれが普通らしい。

 店長もよくあることだから、今日でも良いと言ったのだろうか?


「まあ、あるなら出来るな。こっちに来てくれ」


 そう言って俺は鈴木を従業員スペースに入れて、マネージャールームへと案内した。

 その後、思ったよりも早く終わったらしい鈴木は、早速明日からバイトを始めるようだ。

 俺は適当におめでとうと言っておき、仕事の準備を始めた。

 後から店長に聞いたのだが、最初から採用するつもりでいたらしい。

 そこまで深刻な程に人手不足なのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 店長曰く、相川君の紹介なら信用できるとのことだ。何だかんだで真面目にやってきた結果がここに現れたのだろう。

 俺としては給料に反映してもらいたいものだが、それは口が裂けても言えない。




 そして翌日の放課後。俺は鈴木の教育係となったのだが。


「鈴木、三番テーブルの食器って……」


「下げといたよ。テーブルも拭いてあるから、お客さんにすぐ座ってもらえるよ」


「そ、そうか。じゃあ……」


 やたらと手際が良いのだ。

 今日は食器を下げるのと、洗うのを教えようと思っていたのに、後半には接客までこなしていた。

 まだ若干ぎこちない接客ではあるものの、ファミレスの接客くらいなら全然こなせるレベルだ。

 驚いたのはそこだけじゃない。食器や道具の位置なんかも、教えなくても分かっていたことだ。

 余裕があるときに聞いてみたところ、前に働いていた店と配置が似ているからとのことだったが、そういうものなのだろうか?

 そして特に俺が教えることもなく、名ばかりの教育係の一日は過ぎていき、その日の業務は無事終了した。

 休憩室の椅子に座っていると、私服に着替えたらしい鈴木が更衣室から出てきた。


「あれ? 雪人はまだ仕事?」


 着替えもせずに、休憩室の椅子に座ってくつろいでいる俺を見て、鈴木は首を傾げる。


「違うよ。ただ、働いてすぐだから休憩してから帰ろうかと思ってね」


 コーヒー片手に過ごすこの時間は嫌いじゃない。むしろ楽しみでさえある。

 バイトで疲れてふわふわする身体を思う存分椅子に預けてからそっとコーヒーを飲む。これがたまらんのだ。


「そうなんだ。じゃあ私も残ろっかな!」


「は?」


 鈴木は楽しそうに言うと、ぴょこぴょことポニーテールを揺らしながら俺の対面に座った。


「別に無理して付き合わなくても良いぞ?」


「無理なんかしてないよぉ。私も疲れたから休憩するの」


「そうかい」


 無理矢理帰らせる理由も特にないため、それ以上は追求しなかった。

 俺はもう一口、コーヒーを口に含むと、ジッとこちらを見る鈴木と目が合った。


「なんだ?」


「ねぇ、私にも一口ちょーだい!」


「あん? 自販機なら裏口出てすぐにあるんだから買ってこいよ」


「私今休憩中だから動きたくなーい!」


 この女は何を言ってるのだろうか?


「動けよ。デブるぞ」


「む……女の子にそういうことを言うのはどうなのかな? デリカシーが欠けてると思うよ!」


 突き放すように言うと、鈴木は明らかに不機嫌そうに口を尖らせた。

 今のは俺が悪い。

 俺は溜息をついて、缶コーヒーを持つ手をテーブルに置くと。


「隙あり!」


 と言う掛け声とともに、ひょいっと缶コーヒーを取られた。


「甘いよ雪人。最後まで飲まずに腕を下ろしたのが間違え……って、あれ?」


 鈴木が言い終わる前に缶コーヒーを口に付けて思い切り傾けると、疑問の声を上げた。

 取られた缶コーヒーは既に俺が飲み終えた後だったのだ。


「鈴木こそ甘かったな」


 俺が勝ち誇ったような笑みを浮かべると、ぐぬぬと拳を握った後、机に突っ伏した。

 拗ねたような唸り声と時折チラチラとこちらを見る様子は少しムカついた。

 俺は鈴木の前に置かれた空の缶コーヒーを回収して、裏口へと捨てに行く。

 ついでに缶コーヒーを二つ買って戻ると、まだ拗ねるように机に突っ伏していた。

 俺はキンキンに冷えた缶コーヒーを鈴木の首筋に当てた。


「ひゃい!」


 可愛らしい声を上げて飛び起きる鈴木に「ほれ」と渡すと、さっきの声が恥ずかしかったのか両手で受け取りながら小声で「ありがとう」と言われた。


「どういたしまして」


 それだけ言って、俺はニヤニヤとしながら缶コーヒーを口元に運ぶ。

 それから他愛のない話を少しして、お互い缶コーヒー飲み終えたタイミングで俺達は一緒にファミレスを出た。

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