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幕間1:董子、か

「はぁ、ほんにあの娘はうるさくてかなわん」


 落ち子の客人と爵位を与えた友人の娘が完全に部屋から出て行ったのを確認して、側仕えの一人が持ってきた紙を受け取った。筆に慣れていないとすぐに分かる筆跡を目で追うと、また意図せずため息が出てしまった。


「董子、か」

「どうかなさいましたか」


 秘書兼大臣の信頼のおける右腕が何か不備でもあったかと妾の手元の書類に目を落とす。そうではない、と言って書類を膝の上に置いた。

 この場所では落ち子なんてそう珍しいことでもない。数年に一度起こる天災のようなものだ。特別な誕生をしていて、程度の差こそあれ生きることに絶望しているだけで、この地の人間とそう変わるものでもない。だが、


「董子、あの子は少々、毒かもしれんな」

「毒、でございますか」

「いや薬かもしれん」

「く、薬、真逆ですね」


 困惑げにする大臣に目をやらず、頭に先ほどのクリミアの様子を思い浮かべる。どこか波長が合ったのか仲良くしたいがために、董子に有無を言わさず返事をさせていた。董子自身は状況をよく分かっていなかったのか、クリミアの様子になんて気が付いていなかったが、あまりの急展開具合に目を回していたな。あれは可哀想だった。

 まあ、クリミアはかなり面倒な女だ。あの場で機嫌を損ねられてこの玉座周辺を破壊されてはたまったものではない。……王が一令嬢の機嫌を伺うとかちょっとどうかと思うが。ま、まあいい。クリミアに寄せていた思考を一旦切り離し、落ち子の娘を思考の中心に置いた。


 万人に好かれるほど魅力的な人間だとは思えない。おそらく普通の人間、凡人、一般人。それが妾の董子の率直な感想だ。しかし、あれはハマるとやっかいなタイプの女だ。苛めたくもなるし愛したくもなる。その考えに妙に納得して膝に置いた書類に判を押し、大臣に渡した。


「ふふふ魔王に会わないといいがな。あの娘はきっと魔王の欲しがるタイプじゃ」


 そうかなぁ、普通の娘っぽかったけどなぁ、と大臣や側仕えたちは顔を見合わせている。さて、どうなることやら。妾はお気に入りのパティシエを呼びチョコレートケーキを頼んで、玉座に深く座り込んだ。ああ、董子。無事妾のもとに戻りたいのなら魔王に余計なことを言わないほうがいいぞ?きっとその言葉は彼の王の欲しかったものだろう、から。これは当たる、ぞ、



「あー王、また執務中に寝てしまって……」

「お疲れなんだろう。今落ち子時期だから、色々準備してやらないといけないし」

「あっそういえば今日、王、占いしませんでしたね」

「占い、というか天才的な勘というか予言みたいなものだな。ほぼ100%当たるっていう」

「さ、王がお休みだ、やれる仕事はやっておこう」

「はーい」

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