3:王よ
「ふむ、董子、と。うん良い名じゃ」
豪華絢爛としか言えない私の語彙を許してほしい。それほどまでに王城の、それも王座の間は豪華で荘厳で美しかった。煌びやかでガラス細工のちりばめられたシャンデリア、一つ一つ金糸で編まれた美しい意匠の絨毯、沢山あるのにどれも引けを取らないランプや花瓶などの小物。外が古典的というかオリエンタル風だっただけに、この壮麗さの反動はすさまじかった。
「落ち子の説明は受けたのか?」
「は、はい。別の世界から飛ばされてくるとか」
「うんそうじゃ。まあ別の世界とか言われても妾たちにはよう分らんが……じゃがお前たち落ち子に酷い事はしないから安心はしてよいぞ」
そしてこの玉座に座る女性。というより女王様。ミアさんが王様といっていたから最高権力者は男性かと思っていたら、王様は女性だったらしい。釣り目で少しばかりきつい顔立ちをしているが、それは欠点にはならない。輝く美しさを纏う人のことを表現する際、匂い立つばかりの美しさという言葉を使う事があるが、まるでそれを体現したかのような人。とんでもなく細工の施されたドレスやキラキラ光るお化粧、結い上げられ毛先が綺麗にカールされた御髪、それら全てが彼女の恐ろしく美しい美貌のちょっとしたスパイスにしかならない。それほどまでに彼女は美しかった。
「お前の案内をしていた男も落ち子じゃったな。うんうん良く育っておる、良い良い」
悟君は私を王城に案内すると「ここで待ってるから」と言って王城の門前で待機してくれている。てっきり中まで一緒に行ってくれるものだと思っていたが、王城は特に用事もない、身分も高くない人間が容易に入れる場所ではないらしい。それもそうか。
王様はどこからか悟君を見ていたらしく、良い男は良く育たねばなあとニコニコして上機嫌だ。
ほほほ、と笑う女王様は何かの書類にさらさらと筆を走らせると、側近の一人にその紙を渡し、そしてその側近はそれを私に渡してきた。
「その空いている所にお前の名を書け。そうすれば正式にお前は妾の、なんじゃろう……民?的なものじゃ」
国の概念がないらしいから、国民という言葉もないのだろう。渡された筆で、慣れないながらもなんとか名前を書いていると、突然玉座の近くの右側の壁にある大きな扉がひどく慌てた様子で開かれた。
「王!王よ!やばいっすよ!なんか、魔王のやつがね、あの、ばーんって!!なんか村をばーんって!!」
「騒々しい!今客人が来ておるのじゃ!ちっとは大人しくできんのか!馬鹿者!」
荒々しく開いた扉からは美しい貴族のような若い女の子がバタバタと現れた。なんだこの顔面偏差値の高さは。この空間の偏差値下げてごめんなさいという気持ちでその女の子を見ていると、まあ!と一言大きな声を上げてかけよってきた。待って、声が……大きすぎる……。私の絶叫以上の声じゃなかったかあの感嘆詞。
その声の大きさに慣れているのかいないのか、王様は額に手を当ててうなだれていた。可哀そうに、すぐ近くの大声は頭痛を引き起こしたりするしね。大丈夫、そんな姿も美しいです。
「君落ち子なんでしょ!ん、お名前書いてたの?んんん難しい読めない~~」
「董子、って読みます」
「すみれこ~~~わぁ~目が!すみれこも本当にど~~んってくらい目がガ~~ンだ!すっげ~!ん、身体がりがりじゃん!ちゃんと食べな~?大きくなれないぞ!このド貧乳~~」
「貧乳関係ないだろ」
あっ思わずカジュアルすぎる言葉遣いをしてしまった。だって貧乳関係ないだろ。そりゃあなたみたいなビッグなたわわ持ってないけど!
それより、彼女は見るからにお貴族様だ。ブロンドの髪を王様のようにクルクルに巻いているし、着ているのも装飾の施されたドレスだ。無礼な言葉を言ってしまったし、怒られてしまうかも。
「そうだね!貧乳は今は関係ないな!王!ねえお~う~!うなだれてないでマッジで聞いて!なんか、魔王が魔王の城の近くの、あー名前は忘れちゃったけど、どこかの村を村ごとド~~ンしちゃったって!」
私の心配をよそに、貴族の女の子は王様に向き直って身振り手振りで事のあらましを説明していた。擬音語多すぎて半分も伝わってないと思うけど。魔王、魔王もいるのか。そっか。
私の小説にも魔王いたなーとチベットスナギツネの顔で女の子を見ていると、王様はため息を吐いて側近に何か小声で指示を出し始めた。
「分かった。分かったからちとお前は黙れ。うるさくてかなわん。今、第一王子を呼んだ。至急奴に調査を任せるが、お前行くか」
一瞬私に問いかけられたのかと思ったが、違ったらしい。どこから取り出したのか、王様はたたんだ扇の先を女の子に向けていた。
「行く行く!行きた~~い!!わ~~~い!!ピクニック「じゃないからな」じゃな~~い!」
ウキウキワクワクと飛び跳ねる女の子に王様はピクニックではないと散々言い聞かせていた。なんだか色々大変そうだ。きゃっきゃっとにっこにこでそこら中を走り回る女の子をしり目に、王様の側近の人に名前を書き終わった書類を渡していると、急に背中に重しが乗った。
「私すみれこともっと仲良くした~~い」
首を動かし後ろを見ると、さっきまで楽しそうにしていた女の子が少し拗ねた顔で後ろから抱き付いていた。彼女の方が少し背が低いため力が弱そうに見えていたが、抱き付く力はえらく強い。絞め殺されそう。
「えーっと、じゃあそのお仕事終わったらお話しましょう」
「え~~やだやぁ~だ~私すぐに仲良くしたい~~~~!!」
「うーん……」
どうしたものか、と悩んでいると女の子はパっと離れ、王様をまたどでかい声で呼んだ。ウッ。近場の大声、側頭部に直撃。
「王!!!!!!」
「はぁ…………絶対守るのじゃぞ」
「うん!!!!絶対死なさないようにする!!」
何かすごく嫌な予感がする。すごくすごく嫌な予感がする。こういう勘って大抵当たるんだ私。そうだ、そろそろお暇しよう。悟君だって王城に行くのは住民登録って言っていたし、その目的は達成したんだからもう帰ってもいいでしょ。帰る家ないですけれども。
じり、じり、と入ってきた扉の方へ下がっていると急に王様が立ち上がった。ヒェェ、美人は立っても美人だぁ。身長も高くて足も長そう。ドレスが豪勢すぎてあんまり体格分からないけど。
王様は頭が痛むのか、こめかみを撫でながら悲痛な面持ちで告げた。嫌な予感限界ゲージ突破。
「これより、公爵家令嬢クリミアと董子両名に魔王城周辺の村の調査、及び状況次第ではあるが可能であれば魔王の動向調査の任に命ずる」
「はい!!!!!ほらすみれこも!はいって言って」
「えっ」
「言って」
「は、はい」
「よろしい。王子と合流したのち追って指示を下す。下がって良い」
えっ、なに、今クリミアって言った?言ったよね?言いましたよね??っあ゛ぁああああ!!はい!確定!!これは確定です!!落ち子にクリミアはこれは確定です!!
やった~~と私の腕をとって王座の間から退出するクリミアちゃん、さん、様?をどうすることもできないまま、この世界が私の小説の中であることを確信し心の中で涙した。なんでこんなことに……。
いや待てよ。そもそも、私の書いたクリミア嬢こんなに破天荒でアホっぽいキャラクターじゃないんだけど。
王様は頭痛をお持ち




