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2:違う世界

 近代的ではないものの整備されしっかりとした道。落下した時には気が付かなかったが、様々な種類の家屋や家畜小屋。のどかだが静かではなく、時折男女の明るい笑い声が時折耳に入る。ここはどこかの外国かと思ったけど、日本風の建物もあるし、人種も服装もてんでバラバラな文化のようで、ここがどこだか全く見当もつかない。


 ミアさんとその仲間の女性たちに見送られ、最初にいた集落から出たあたりで思い切って一番の疑問を案内役を任せられた彼、悟君にぶつけてみた。


「あの、いきなりですけど、ここはどこなんですか」

「ははは、まあそれが一番気になるよね」


 悟君はそうだなあ、と少しだけ考えて一言「分からない!」とばっさり言い放った。えっ、さっき「ちゃんと説明するから安心していいよ!」優等生オーラキラキラ~って言ったよねこの人。後ろに目がある疑惑といい、この人こわい。


 私が疑念と警戒の念をこめた目で見ているのに気が付くと、悟君はにへらと笑って続けた。


「安心していいのは本当。うーん、うまく説明できないのがもどかしいけど、ここは多分僕や董子ちゃんがいたような世界とは違うんだと思う」

「違う世界……?」

「うん。王城とは別の方向だけど、向こうに海があるんだ。だけど、きっとその海を越えても日本やアメリカにはたどり着かない。だからといって、ここの世界の人にここはどこですか?って聞いても国の名前すらないんだ。村の名前くらいはあるからそれを告げられるだけ」


 彼自身はっきりとしたことが分かっていないんだろう。多分、きっと、の言葉を使ってなんとか説明しようとしてくれている。悟君の言葉をまるっきり信じることはまだできないが、おそらく嘘は言っていないことはなんとなく分かった。


 悟君は私が疲れていないか、足を痛めていないか逐一確認しながら、きっといつも歩くスピードの半分くらいの速さで歩いていた。この世界が私の元いた世界とは違うということを何とか説明しようとうんうん考える悟君に次の質問をしてみた。


「じゃあ次の質問してもいいですか」

「ああ、うんいいよ」

「おちご、って何ですか。私や悟君の事を指してるのかな、とは思ったんですけど」

「落ち子っていうのは、落ちるに子って書いて落ち子っていうんだけど、簡単に言うと僕や君みたいな転生、いや転移?どっちでもいいか、つまり別の世界から飛ばされてくる人の事だよ。必ず空から降ってくるから『落ち子』って言うの」


 その説明を聞いた瞬間私は全身の血の気が一気に引いた。えっ落ち子ってやっぱり落ち子なんですか。せめて悟君に動揺を気づかれないようにと、パニックになりそうなのを押しとどめ「へえ」とだけ相槌を打つ。悟君は気にした様子もなく「でもやっぱり空からパラシュートなしで落ちるのは怖いよなー」と笑っている。良かった今度は気が付かなかったようだ。


 私がなぜこの『落ち子』というワードに反応しているのか。端的に言えば、私の書いた小説に出てくる造語だからだ。その小説「貴族クリミア嬢の戦い!」では、主人公の悪役令嬢は正真正銘生まれ変わりの転生した人だけど、その転生した先の乙女ゲーム『まおうがつよすぎる』では落ち子という数年おきに異世界から飛ばされてくる落ち子という存在がいて、乙女ゲームヒロインがその落ち子の一人なのだ。ここまでノンブレス。しゃべってないけど。


 え?分かりづらい?つまり、私の書いた乙女ゲームが舞台の小説の世界観でしかこの『落ち子』という言葉は使われるはずがない!ということである!!


 ……いやいやいやいやいやいや。おかしいおかしい。なんだこれは夢を見ているのかな?私の書いた小説の中の?主人公が転生した先の?乙女ゲームの中に?落ちた!!???はい夢ですね本当にありがとうございました。ぎゅう。


「ん?董子ちゃんほっぺつまんでどうしたの。あーこらそんなひっぱったら赤くなるからやめなさい」

「めちゃくちゃ痛い……覚めない、夢じゃない」

「ああなるほど、夢か。ないこともないかもだけど、覚めないだろうね」


 なおも頬をつねり続ける私の手を頬から離して、悟君はくすりと笑って足を止めた。少しだけ先ほどまでの明朗快活フェイスが身を潜める。暗く、淀んだ目だ。


「君、死んだだろう。自分で」

「っ!」

「はは、そんなびっくりしなくて大丈夫だよ、僕もだし。あとそれに、あんまり公にはされていないみたいだけど、落ち子には規則性があってその一つが『自殺をした人』だ」

「え」


 私が思わず言葉をもらしたのは別に自殺の言葉に慄いたわけではない。自分が死んだことや、その死因を知られたことでも、健康優良男児悟君までもが自殺をしていたことに驚いたからでもない。いやそれは驚いたけど。いや、でもそんなことより、


 私『落ち子』にそんな設定つけてない!!!!私には人を楽しませる文章や設定を考えることができなかった。ぎりぎり鼻で笑ってもらえる程度。そんな私が考えた落ち子という言葉に自殺をした人が飛ばされてくるなんて興味を注がれる設定つけられるわけないでしょ!!


 脳内自虐を繰り広げていると、悟君は何を勘違いしたのかはっとして歩き出した。


「ご、ごめん。怖がらせるつもりじゃなくって、そのつい、君が、」

「私が?」

「いやちがくて、とにかく怖がらせてごめん。ここ良い所だし、とりあえず王城で王様に謁見したらさっきの村でも王城ででもゆっくりしたらいいよ。さ、行こう」


 ここがどこなのか、本当に私が書いた小説の中なのか、色々考えたいことがあるけど、まずは目の前の事をやらなければならないらしい。あ、そういえば。


「王城行って何するんですか?」

「住民登録」

「お役所かよ」

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