表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と嫁と彼女と作者、あと色々  作者: カフェ東雲
第二章:魔王の領土
10/10

幕間2:お恥ずかしながら

 私たちがザイシャという謎の生物に襲われる少し前。そして更に馬車に乗り込むちょっと前の、王子であるピーターと合流した直後のことだった。「今日はこの二人が同行者で~す!!」とクリミアに二人のガチムチ男性を紹介されたのは。


「こっちの筋肉だるまがイチゴちゃんで、こっちのイチゴちゃんよりちょっと大きめの筋肉だるまがサンゴちゃんだよ~~~~~~!!!」

「よろしく、お願いします。イチゴです」

「クリミア様からお話は伺っています。サンゴです。今日はよろしくお願いします」


 私唖然。イチゴちゃんとサンゴちゃんと呼ばれた二人は、目測ではあるがおそらく2mは超えている。簡潔な挨拶で丁寧にお辞儀をしたのが大きなリュックを背負っているイチゴちゃん、さん。そして、彼より気持ち背が高く、筋肉量も多めで人懐っこい雰囲気を持っているのが太い鞭を持つサンゴちゃん、さん。


「えっと、この二人は?」

「ん、私の従者のうちの二人!!イチゴちゃんが荷物持ち係でサンゴちゃんが御者&馬車番係だよ~~!」


 私とクリミアとピーターだけの三人で魔王の領土へ調査しに行く。今考えると当たり前だが、こんなこと普通ならあり得ない。私はただの村人Aで、ネガティブに考えるなら「死んでもデメリットがない」人間。だけど、クリミアは公爵家の令嬢というよくよく考えてみれば相当高い地位の女性で、ピーターに至っては最高権力者「王」の息子で、第一王子だ。普通にお付きの人や護衛がいるに決まっている。

 RPGだからとなんにも考えずに執筆し、王子と令嬢を前線に立たせていた私、控えめに言って頭が回ってなさすぎる。そもそもこの二人の立場的に考えると二人は王城やお屋敷から出ることすら簡単にできないような人間だ。きっと私が「書いた」からこうして二人は守られる立場から飛び出してしまっているのだろう。ううう申し訳ない。

 妙な責任感を感じながらも、私は紹介された二人に向き直った。


「あの、昨日この場所に来た董子です。よろしくお願いします」

「ああ、私たちに敬語や敬称は結構ですよ」

「すみれこ私の顔を立てたいなら私の従者にへりくだるなんてことしないでね~~~」


 私は所詮庶民の出なので、従者だとか召使いだとかの人とはこれまで接したことがない。だからなのだろう。クリミア言うような「顔を立てる=へりくだらない」の図式がうまく頭に繋がらなかった。困惑しているとクリミアは気にした様子もなく続けてくれた。


「すみれこのこと、私は同等だって、対等だって認めたの~。それは分かるよね」

「うん、さっき」

「そう。友達になった!!だけど、そんな友達が私の下の人間、ここでいう部下や従者にへりくだるとぉ~~~~ど~~なるでしょ~~~~」

「えっと、ごめんなさい。分からない」

「正解は~~~~~~~~~~~~~」

「……アホ女、そしてその家人は家臣になめられてる」

「そうそうそう思われ、……ってなんで若様が答え言っちゃうの~~~~~こんのやろう~~~~~、殴れないなら一発蹴らせろこら~~~~~~~~!!!!!!」

「……やだね」

「ちょ、クリミアっ」


 クリミアは私に説明し終わると、その説明を邪魔してきたあげく、べーっと舌をだしてクリミアを煽ってきたピーターに蹴りを入れるため、逃げるピーターを追いかけて行ってしまった。蹴られたピーターが真っ二つにならないことを祈っておこう。


 そしてこの場に残るのはイチゴさんとサンゴさんとそして私。先ほどまで説明された内容が内容なだけ少々気まずい。しかし、そんな気まずさを感じているのは私だけのようで、二人は、とくに懐っこいサンゴさんは腰のポシェットから何かを取り出しながら声をかけてくれた。


「そういうことなので、我々に対して気を使ったりはしなくていいですよ」

「わか、ったです」

「ふふ。そういえば董子さんは昨日落ちてこられたんですよね?」

「大丈夫でした?ケガとか」

「ええ。あの、無傷で、結構元気」


 明らかに自分より年上の人に敬語を使わないということに慣れていない私に気が付いてはいても、それを馬鹿にしない二人の優しさに少しずつ落ち着いてくる。


「あっ、そうだ!私実はお菓子作りが得意でして。クリミア様が董子さんは触ったらすぐに折れてしまいそうだとおっしゃられるので、良かったらこれ、どうぞ。苦手な味があるといけないので、プレーンのマフィンです。今朝焼いてきました」

「わぁ!いい香り!」


 先ほどサンゴさんが取り出していたのはこのマフィンだったのか。焼きあがって時間が経っているので冷めてはいるが、袋越しでもその香ばしい良い香りがした。「毒見が必要でしたら、」と平然と言うサンゴさんに慌てて大丈夫だと伝えていると、今度はその隣のイチゴさんが声をかけてくれる。


「あの、私たちはクリミア様のお屋敷で、花壇の担当をしてまして、特に私がです。それで、今度よかったらなんですけど、お花、見に来てください。きっと、心が、落ち着きます、ゆっくりできます」

「もちろん!」


 二人とも見た目は身体が大きくて、よく見たら細かい古傷のようなものが体中にびっしり付いていて正直怖い。でも、本当はお菓子作りが好きだったりお花の世話をする心優しい人で、改めて人は見た目ではないということを実感した。和やかで癒し系。それが私が二人に抱いた印象だった。


「二人みたいな強そうな人がいてくれるなら安心できるね」

「あーっと、そのですね」


 生前にも見たことのないような筋肉マッチョさんが二人。これからの調査になにが起こるか分からないが、屈強な男性がいるならその安心度は段違いだと、そう伝えると二人とも絶妙に困った顔をして笑った。


「私たち、弱いです。戦闘能力は多分、クリミア様風に言うなら、カス級なのです」

「そうなんです。皇太子殿下風に言うなら蚊も殺せない木偶の棒、ですねぇ」

「えっまじで」

「ええ、お恥ずかしながら」


 先ほど人は見た目じゃないと実感したばかりだというのに、再度実感しなおすことになった。強そうな二人はただ強そうな見た目なだけで、穏やかで心優しい男性。そんなイチゴさんとサンゴさんと私はもっと仲良くなりたいと思った。


「あっ、そうだ!これ、私の恩人が友達と食べてって、ラスク。よかったら」

「ええ是非!」

「嬉しい、です!」


 先ほどのクリミアの話を聞いた直後に、彼女の従者を友達認定するのはまずかったかと思ったが、二人はとても嬉しそうにラスクを一枚ずつ手に取り少しずつ食べてくれた。もしかしたらクリミアに私に優しくしろと言われているのかもしれないけど、それでも二人の優しさは私にとって得がたい温かさだった。


 そして絶叫。


「あ~~~~~!!!!!!!何やってんの何やってんの!!???えっなにそれずるいよ~~~~~~!!!」

「このマフィン?これはあげないよ!」

「ちっが~~~~う!!!それ友達とって渡されてたラスク!!私もらってない~~~~~~!!!!」


 いつの間にピーターを捕まえていたのか、ピーター片手にクリミアは大声で走ってきた。流石従者。イチゴさんとサンゴさんは気が付かないうちに、そっと私のそばから離れてしまっている。裏切者!


「……ぼくも友達になるっていったのにね」

「えぇ?」

「なんで私にその友達ラスクくれなかったの~~~~!???やだようやだよ~~~~~」

「いやだって、二人は令嬢と王子様でしょ?変なものが入っているとは思えないけど、万が一毒のようなものが入ってたらいけないと思って」


 これも当たり前の話だ。高貴な身分の人は庶民の食べ物を口にしない。それはただ低俗なものを食べないというプライドだけではない。高貴な人はそれだけ敵が多い。そのため、口にするものには人一倍気を付かなければならないのだ。


 そう思って、と言うとクリミアとピーターはぽかんと虚をつかれたような表情を浮かべている。エッ何かおかしなこといったかな。急に恥ずかしくなって「ちょっと」とクリミアの肩をゆすると、二人は顔を見合わせて姉弟のようにそっくりな笑顔で「ふふふ」と笑った。


「あの、」

「だいじょ~ぶ。私たち小さいころから毒慣れの訓練してるから~~~。もらうね~~ア~~~~~ン」

「……毒ごときがぼくを殺せるとは思わないな。……いただきまーす」


 何かとんでもないことを聞いた気がする。ドクガキカナイ?え、毒物が?きかない?大学では、薬草学を研究の一つとして実験や検証を行っていた私にとっては恐怖でしかない言葉は、右耳から入って脳で拒否し、そのまま左耳からすっとんでいった。


 この二人は本当に人間なのかな?そこまで考えて私は考えるのをやめたーー


「めちゃくちゃ美味しいぃこれ~~」

「……ほんとだ」

「ほ~ら~すみれこもた~べ~な~よっ!!」

「ングッ!!!」

「……ガチョウの餌やりみたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ