なんぼん ほしい
友人のお子様(3才)が 小さな指でチョキを出すように三本を出し、「なんぼんほしい?」と私に聞いてきました。楽しそうに私に尋ねる彼を見て(これって 何て答えるのが正解なんだろうなぁ?、、、)とボンヤリ考えた時に、この少し怖いような 悲しい童話が浮かんできました。是非、読んでみてください。
ガサガサ
頭の上で枝が揺れる音がした。
男の子が音の方を見上げると
枝の間から充血した大きな一つ目が
男の子を見ていた。
あまりにびっくりして
男の子はヘナヘナと座り込んでしまった。
夕暮れ時になっても帰らない妹を探して
森の中を歩き通しだった
人里離れた山間に住む家族では
よくあるいつもの出来事だったはずなのに。
大きい、とにかく大きい。
背丈は普通の大人の倍くらいだろうか。
「この山には魔物が棲む」
麓の村で噂されていたのを
猟師である父はゲラゲラと
笑い飛ばしていたものだった、
「山の魔物より 獲物が獲れない方が怖ぇえ」
(おっとう、魔物の方が怖ぇえよ)
男の子は座り込んだまま 声も出なかった。
一つ目と目が合ったまま、喉がカラカラだ。
唾を飲み込もうとして
喉から変な音が漏れた。
赤い一つ目に やけに紅い体
一つ目の口が開いて
ぐごぐご と唸り声のような音が漏れた。
男の子の音に反応しているかのようだった。
目を逸らせられなかった。
目を逸らせたら襲われて頭から喰われる
里の大人達はいつもそう言っていた
動けない
全身にチカラが入りすぎてカチカチだ。
掌がベタベタする。拳を強く握りしめすぎて爪が手のひらに食い込んで血が出ているようだった。
「な ま え」
一つ目が言った。
名前を聞かれてる?
「な まえ」
また一つ目が言った。
男の子が自分の名前を言おうと
口を開きかけたとき
一つ目の大きな手が
にゅっと 男の子の前に出てきた。
その手は三本しか指が無かった。
「こ こで なんだ」
これなんだ? なんだって指が足りない手だよ
男の子は
「ゆび たりない」
カラカラに乾いた喉で それだけ言った。
「ゆび たりない」一つ目も繰り返した。
一つ目が怒り出して襲ってくるかと
心臓がばくばく鳴った。
「なんぼん ほしい」一つ目が言った
指なんか要らない、そう思ったが声が出なかった
「なんぼん ほしい」一つ目がまた言った。
なんだこいつ?指?ゆびなんか要らないよ
どしん と音がして一つ目が座り込んだ。
「ひとりめには」
「め をあげた」
「めは は大きなひかる鳥になって
ひとりめを乗せて飛んで行った」
「ふたりめには」
「かたほうのみみ をあげた」
「みみは ひかる馬になって
ふたりめを乗せて走っていった」
「たべたり しない」
「おまえには ゆびを あげる」
「なんぼんほしい」
男の子には
なんだか一つ目がすごく悲しそうに見えた。
「いらないよ」それだけ言った
一つ目はもっと悲しそうに見えた。
「ゆび しかない」
出会った人間に 自分が渡せるものを渡して
一つ目にはもう指しか残っていないようだった。
「ゆびが無いと 困るよ」
男の子がそう言うと
一つ目はうごうご と頷いた
「なんぼん ほしい」
男の子はとても悲しくなって
「ゆびが 無いと君が困るよ」そう言った。
怖かったけれど
鼻の奥がツンとして
涙が出てくるのを感じた。
「ゆびしか ない」
また一つ目が言った。
男の子は そっと三本指に触れてみた
固くてゴワゴワした感触
「ゆびが 無いと君が困るよ」
三本指を撫でて 泣いた。
「ゆびしか ない」
また一つ目が言って
一つ目も泣いた。
1つ目も男の子も 泣いて終わる童話ですが
これからの2人の間には 涙がありませんように。
読んで頂きありがとうございました。