零&ユラ編 5
「…………疲れた。」
「…………早いな。」
(ウナム)の街を出発してから約20分。整備された道の真ん中で、零がバテてしまう。仕方なく、道の脇に腰を下ろし、レジャーシートをアイテムメニューから引っ張り出す。
「ホラ、座れ。それと、水だ。」
「ありがと…………っぷァ、ハァ~美味し………………フゥ。」
ちょこんと正座をして、水をコクコクと飲む零を見て、ユラは一言。
「零、お前は男か ?女か ?」
「男の娘。」
「なるほど…………ちょっと待て、多分男の子の、子供の子が、娘になっているな ?」
そう言ったユラに、零は頭をひねる。今まで、男なのか女なのか分からない。とは言われたことがなかったからだ。
「僕は男の子だけどさ…………なんで ?」
「なんでって…………見た方が早いな。そのまま大人しくしていろ。写真を撮る。」
言われた通り、そのまま座っていると、カシャッとシャッターがきれる音がして、ユラがカメラの画面を見せてくる。
「………………えぇ ?普通に男の子じゃないの ?まぁ、一瞬女子に見えなくもないけどさ。」
画面には、正座をする、長く白い髪で、メガネをかけた自分が映っている。まぁ、一般的な男子に比べると、確かに小柄な体の女の子に見えなくもないが、自分はちゃんとした男であり、零にとっては複雑な気持ちであった。
「フゥ~………………ん~~…………。」
水を1口飲んだ後、気配察知スキルが発動し、全神経が一気に鋭くなる。ユラは、気配察知スキルを持っているが、スキルランクが低く、察知はできていないらしい。リラックスした状態で“卵種”を食べている。
「ユラ、囲まれてる。合計で20人。」
「………………了解。賊か ?」
「多分。」
レジャーシートなどを引っ込め、ユラは零と背中合わせになりながら双剣{ソウルイーター}を構える。{ソウルイーター}は、剣全体が黒く、柄から刃の部分にかけて血のように紅いラインがはしっている。
対する零は、片手剣にもなる銃、{デュアルバレット}を銃形態にして辺りを見回す。
「出てこい !いることは分かっている !」
「ちょ…………ユラ、相手を刺激しちゃダメでしょ !」
待たされているのにイライラして、大声を張り上げる。すると、周りの茂みから、七つ目の仮面を着け、黒い戦闘服に身を包んだ人影が20人、零たちの周りを取り囲む。
「………………アンタたち、誰 ?」
「……………………………………」
仮面を着けた賊は何も言わずに、ナイフを構えて襲いかかってくる。
「まったく !人の話を聞かない人は嫌い !」
「それも !仕方ないと思うがな !!」
首筋に迫るナイフを海老反りでかわし、重心が前に傾いている賊の1人をバク転しながら蹴り飛ばす。着地と同時に、広範囲にエネルギー弾を撒き散らす技〔スプレッドバレット〕を発動。残りコスト、80。
「フッ !でゃぁあ !!」
ナイフを弾き、腹に蹴りを入れてよろけさせた所に一閃。振り向きと同時に、{ソウルイーター}を地面に叩きつけるように振り下ろし、飛んできたナイフを打ち落とす。 その後、零と一旦背中合わせになりながら合流する。
「ハァ、ハァッ…………おかしくないか ?明らかに20人以上斬っているぞ。それに、斬りつけた時の感覚の無さ…………まるで、豆腐を斬っているようだ………………。」
「フゥ…………フゥ…………待って…………あった気がする…………自分の分身を作り出せる…………技が………………」
仮面の賊達は、ゆっくりと円を描きながらジワジワと距離を詰めてくる。完全に、囲まれた。
(クッ…………どうすれば………………)
「………………ユラ、僕が合図したら、思いっきり上に飛んで………………」
「なん………………了解した。」
コクリと頷いた零は、{デュアルバレット}をメニューに引っ込めると、零の身長ほどありそうな大鎌を出現させる。
(フーー……………………久しぶりに使うな…………上手くいくかな…………)
大鎌を両手で握り、重心を思い切り落とし、鎌を振り回そうとする。その瞬間、仮面の賊達が一斉に飛びかかる。
「零 !」
「今だッ飛べッッ !!!!!!!」
「ッ !!!!」
声が耳に飛び込んだ瞬間、すべてのスタミナを使い切る覚悟で地を蹴る。
「〔翼無き天使の鎮魂歌〕ッ !!!!!!!」
空中で、ユラが見たのは、赤黒い線が零の周りに広がり、それに触れた草木、仮面の賊もろとも、一刀両断の如く真っ二つにしていく光景だった。
「な…………」
地面に着地した時、零が駆け出し、一つの茂みに向かって、ウェポンメニューから引っ張り出したショットガンの引き金を引いた。
「ウゲッ !」
ビチャッ。という嫌な音がして、続いて何か重いものが倒れた音が聞こえた後、周りは静かになった。
「終わった…………のか………… ?」
「うん。終わったよ。思い出した。〔影法師〕だ。その技ってね、 コスト低い割に、上手い人が使うと結構強いんだよ。」
顔についた返り血を拭いながら、零が立て板に水のようにスラスラと話し始める。
「零、早くここから離れた方が良さそうだ。敵の伏兵がまだいるかもしれん。」
「うん。そうだねっ…………い、痛………………」
「どうした !?」
急に頭を抱えてうずくまる零に近づこうとした瞬間、零が苦しみに染まった声で言う。
「大丈夫………………取り…………込んだ能力が…………例える…………なら…………ガス抜き…………だから…………近づか、ないで……………………。」
「零………………。」
そう言う零の背中の服を突き破り、大量の黒い霧のようなものが溢れ出る。黒い霧は赤い目を光らせる人の形に変化し、辺りを見回していたが、ユラの姿を見ると、目を細め、霧の形に戻りながら消えていく。その黒い霧の赤い瞳に、ユラは狂気じみた感情を感じ、鳥肌がたった。
「フゥー、フゥー、フゥー………………ゴメンね。こんなところ見せちゃって。」
「いや、いいんだ。立てるか ?無理ならばおぶっていくぞ。」
「大丈夫………………あァン、やっぱりムリィ………………」
そう言いつつ立ち上がった零は一歩を踏み出した瞬間にコテンと転んでしまう。自力で歩くのは、現時点ではむりそうだ。
「無理をするな。おぶっていってやる。」
「ゴメン…………無茶させちゃって。」
「気にするな。」
男子にしては小柄な零の体を背中におぶり、道の端を歩く。
「零、お前は軽いな。現実では、体重何キロだ ?」
「えっとね…………高校入学の時は160cmで、39キロだったから…………42とかじゃないかな ?」
「痩せすぎだ。もう少しあってもいいと思うぞ。身長は ?」
「今は162cm。そこら辺は現実の姿を引き継いでるみたい。」
「………………それなら、頷けるな……。」
「ねぇねぇ、僕が教えたんだからさ、ユラも教えてよー。」
「体重は絶対に教えんからな。身長なら教えてやる。174cmだ。」
「フェ !?174 !?伸びたねー !」
「あぁ、友達にバスケ部に勧められ、入ったのが要因だな。」
「あぁ~、なるほどねぇ。僕、サッカーとかバスケ苦手だなぁ。別に、ボールの扱いとかは上手い………………らしいよ ?友達からの話だけど。本当の理由は、チーム戦が苦手なんだよ。どっちかって言うと、僕は一対一ができる剣道、バドミントンと卓球が好きで、得意なんだよね。バドミントンと卓球は、ダブルスになったらダメだけどね。友達からは、“白髪のチンパン”って呼ばれてる。」
「確かに。お前はいつも曜日クエストの時は真っ先に飛び出していくからな。ある意味、“チンパン”は合っているかもな。」
「うわ~、ユラもそう見ちゃうのかぁ~。そう言うユラだって、一昨日の戦闘で思いっきり敵の前線荒らしてたくせにー。ユラだってチンパンだよー。」
「ウッキー。とでも言えばいいのか ?」
「えっ………………」
ありえない。と言いたげな顔をした零を見て、やらかした。と思ったユラは、零の口が開く前に立ち止まり、できる限り声を鋭くして警告を発した。殺気を含んだ、視線をオマケにつけて。
「零、次言いたい事を言ったら地面に叩きつける。死にたくなかったら何も言うな。」
「………………はい。」
さすがに驚いたのか、黙って頷いた零に、ユラは、一安心してまた歩き出す。
「ウッキ…………」
「落とされたいのか ?」
「違う違う違う違う違う違う !!!!!!!次の街が(ウッキ)って言うの !ホラ !」
そう言って、零が見せてきた地図には、(ウッキ)と記されていた。なるほど、嘘ではない
「………………」
「………………」
(ん ?零、寝たのか………………まぁ、1日寝ていない日があったからな…………早く街に着き、宿を取らねば………………。)
そう思い、歩みを速めた瞬間、ユラの耳たぶに、零がはむ。と甘噛みをしてくる。
「んにゅぅ…………お餅ぃ…………」
「ひャウん !!」
今までにない感覚に、思わずユラの足がすくんでしまう。崩れそうになるバランスをギリギリで踏み止め、ほぼダッシュで道を駆け抜け、野菜と魚介の街、(ウッキ)に辿り着く。
海と山があるこの街では、豊富な海産物や野菜が採れる。
そのため、[へーエルピス]内では、一度は行った方がいい。とまで言われる程のグルメスポットであり、宿から眺める海の景色が素晴らしいとも言われる観光スポットである。
「スマン !この宿で2人部屋はあるか !!」
「え、えぇ…………空きが一部屋ございますが………………」
「そこに入れてくれ !」
適当に飛び込んだ挙句、カウンターの女性に急いで要件を伝えたため、周りの目がグサグサと降り注ぐが、別の問題で頭がいっぱいのユラには関係の無い話である。鍵を受け取ったが早いか、すぐさま部屋に飛び込んで零をベッドに放る。
「ぅむん………………ふんん………………」
(それでも寝るのか、コイツは………………)
呆れながら、隣のベッドに倒れたユラは、零を背負った状態で走った疲れが一気に溢れだし、すぐに寝てしまった。




