第6章 現実
警察からの事情聴取で三日潰れた。
あの状況だ、俺が重要参考人として連れていかれるのも無理はない。
事件の直後はひたすら部屋に押し込められて質問責めにあっていた。スマホも預け、通話記録やらメールの履歴やらも全部見られてしまった。
全力で走っていく俺の目撃証言や現場の状況などから外山ゆかりを殺害した容疑は早々に晴れていたが、なにぶん、彼女との関係が関係だけに過去も含めて根掘り葉掘り問い詰められる羽目になった。
俺の容疑が晴れたその次は、水川先輩が外山を殺したのではないかという話になったのだが、俺に送られてきたもの以外にも、外山自身のスマホには身動きできない状態の先輩を撮った写真が何枚か保存されていたらしく、その可能性はすぐに潰された。
そして警察の結論は、外山ゆかりが自分で自分の首を切り裂いた、つまり自殺ということになったのだった。
この事件がニュース等で大々的に報じられることはなかった。
特に報道規制をかけられたというわけではなく、女が他人の部屋で自殺したというだけでは何の面白みもないということらしい。自分で自分の首を大きく切り裂いたという猟奇的な情報はどこからも流れていなかったので、もしかしたら具体的な現場の状況については何らかの情報統制があったのかもしれない。
俺の容疑が晴れて以降の話は、逆村さんが知り合いの刑事から教えてもらった情報を又聞きしたものだ。警察自身はもっと色々な情報を手に入れた上で今回の判断を下したようだが、さすがにそこまでの内部情報は外に出せないらしい。逆村さんが何か知っている素振りを見せていたが、結局教えてもらえなかった。
事件が起きてから五日後の昼過ぎ、事務所で書類を作っていると、林田さんがやってきた。今日はカジュアルな服装をしている。外に出る類の仕事が入っているのだろう。
「あれ、凪島さん、来てたんですね」
昨日は休みをもらっていた。色々あって疲労がたまっていたのだ。
「うん。もうすぐ出るけどね」
「あ、そうなんですか」
「面会できるようになったみたいだから、行ってくる」
「あぁ、水川さん……」
あの日先輩が病院に運ばれてから昨日まで、ずっと面会謝絶状態だった。医師立会いの元での警察による事情聴取はあったらしいが、親類でもない赤の他人が面会できるようになったのは今日からである。
「夕方には戻ってくると思うけど、林田さんも出るんだよね?何時になりそう?」
事務所を空にするわけにはいかない。このあと赤岡さんが来る予定になっているが、もしも空白の時間ができるなら前もって伝えておいたほうがいいだろう。
「いえ、今日は私、ひたすらここでデスクワークです」
「あ、そうなの?」
先輩が入院している部屋は個室だった。
他の部屋が埋まっているというわけではなさそうだったので、別の理由があるのだと思われる。大方、先輩に憑いている淀みの情報が何処かから伝わり、色々な方面に配慮した結果なのだろう。
扉をノックする。
「……どうぞ」
数秒後、中から声が返ってきた。どうやら起きていたみたいだ。
「失礼します」
「あぁ、やっぱり君か」
扉を開いた俺を見て、先輩はそう呟く。
先輩はベッドから身を起こしているが、何かしていたというわけでもなさそうだった。
「身体の調子はどうですか?」
「悪くはないよ。明日明後日にはもう退院できるみたいだね」
「あ、そうなんですか」
しかしその内容とは裏腹に、先輩の顔には翳りがある。
「……それにしては浮かない感じですね」
「まぁ、退院したところで家があんな状態だとね」
「あぁ……」
あの日の真っ赤な光景が目に浮かぶ。
あれだけ飛び散った大量の血は、どう頑張ったとしても全て拭い去ることはできないだろう。そうなると、退院してもあの部屋に戻るわけにはいかない。
「荷物はほとんどないから引っ越すのは楽だけどね。部屋を探すのが面倒だな」
先輩はそう言って軽く笑った。その声はどこか乾いている。
「先輩、あの、これを」
俺は道中で買ってきたりんごゼリーを取り出す。見舞いに来る以上何か持って来るべきだと途中で気づいたので、慌てて買ってきたものだ。
「ん?あぁそうか、そういえば私はりんごが好きだったね。おやつに頂くことにするよ。ありがとう」
他人事のような言い回しがどこか引っかかったが、先輩は言葉を続ける。
「で、凪島くん。今日の目的はただのお見舞いってわけじゃないんだろう?」
先輩は微笑みながらそう言うが、どこか捨て鉢になっているような雰囲気を漂わせている。
「状況が状況だ、色々と私に聞きたいことがあると思う。もちろん、私から君に聞きたいこともある。いい機会だし、ここで腹を割って話をしよう。幸い、この部屋には私達以外いないしね」
そう言われてしまったら、俺はただただ頷くことしかできない。
まずは俺から、先輩を襲った女、つまり外山ゆかりについて説明することにした。
大学時代に起きた事件も含め、これまでの経緯を全て詳らかに先輩へと伝える。こんな事態になってしまった以上、一切の隠し事をするべきではない、そう判断したのだ。
「……なるほど。ということは、ある意味君のせいで私が襲われたということだね」
「すみません、巻き込んでしまって」
「あ、そんな落ち込まないで。今のは冗談だ。君が悔いる必要はないよ」
「いえ……どう考えても俺のせいでしょう」
先輩が、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「君が彼女をこの町に呼び込んだ。その彼女が君といる私を目撃して手を出してきた。それは確かだ。だけど、その選択をしたのは彼女自身だ。君が扇動したわけじゃない。君が責任を感じる必要は、ない」
その言葉は冷静で、シンプルだった。
「ただ、一つだけ確認したいことがある」
先輩の目が、俺をじっと見据える。
「君に迷惑をかけてしまったあの日の夜、突然部屋に入って来た彼女に襲われて、私は抵抗する間も無く身包みを剥がされ、拘束された。悲鳴を上げる隙もなかった。彼女はきっと、こういうことに手馴れていたんだろうな。そして私は一晩中、彼女から拷問に等しい仕打ちを受けながら、君のことについて質問責めにされていた。まともに答えられるような質問なんてほとんどなかったけどね。何度も蹴り飛ばされて、そもそも答える余裕すらなかったんだ。彼女にとってそれは、私の命を摘み取るまでの単なる儀式のようなものだったんじゃないかと思う。その時が来たらどうあっても殺されるであろうことは、夜が明ける前には気付いていた。だから。だからこそなんだ」
言葉を紡ぐ先輩の瞳から、光が消えている。
「最後の記憶は、彼女が私を見下ろしながら包丁を振り上げている姿だ。朦朧とした意識の中で、それが見えた。だが、気付いた時にはこの病室だった。目覚めた時にはすぐ側に医者がいて、少し経ったら刑事がやってきた。くらくらとした頭で刑事たちの質問に答えながら、徐々に現状を認識していったんだ。色々とわからないことだらけだったけど、その中でもひときわ大きな疑問が一つあった」
先輩の表情が微かに歪む。
無意識の抵抗、それが顔に表れてしまったかのような、苦い表情。
数瞬の間を置いて、先輩は再び口を開いた。
「何故、彼女が死んで、私が生きているんだ?」
それは必然の問いかけだった。
俺が答えようと口を開きかけたその時、先輩は手でそれを制し、自身の言葉を続ける。
「警察の人たちからは、彼女が自分で自分の首を切り裂いたのだと聞いた。捜査の結果がそれならそうなんだろう。疑う理由はない。実際に彼女が死んで、私が生きているからだ。私が君に聞きたいのは、そのことじゃない」
先輩の表情が、これまで見たことのないものに変わった。
それを見て、気持ちのざわつきが何倍にも膨れ上がる。
別におかしな表情をしているわけじゃない。
ただ、先輩がそんな表情を顔に浮かべたところを俺が見たことがなかったというだけの話だ。
先輩は、今にも俺に縋りついてきそうな、追い詰められて助けを請う子供のような表情をしていた。
「教えてくれ。君は、あの時何が起きたのか、彼女が死んで私が生きている理由、それを知っているんじゃないか?私の身に一体何が起きたのか、君はわかっているんじゃないのか?」
それはもはや、確認ではなく懇願とでもいうべき言葉だった。
縋り付くような先輩の視線が、俺の胸を抉っていく。
責任を感じる必要はないと先輩は言っていた。
だが、やはり俺にはそうすることはできない。
もっと早く、淀みのことを先輩に伝えていれば。
梶田さんが凶行に及んだ時、逆村さんたちに包み隠さず話していれば。
そうしていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのだ。
外山ゆかりが死んでしまったことに対する責任ではない。
水川一縷。
彼女に、先輩に、またも人を死に至らしめるという業を背負わせてしまったことに対する責任だ。
先輩に取り憑いた淀みがどんな類のものなのか、その正確なところはわからない。
ただ、少なくとも、先輩の命に危害を加えようとした場合にその相手が逆に死に至る、そういう構図になっている。
それだけならば、因果応報。
つまるところ先輩に取り憑いた淀みは単なる鏡でしかなく、死に至った人たちはその行動の通り、自分で自分を殺したに過ぎない。
そう捉えることでやり過ごすこともできたのだ。
だが、そうではないと、俺の直感が告げていた。
あの時目にした光景が、先輩と一緒に過ごしてきた過去の風景が、それらすべてが頭の中で繋がっていき、一つの結論に達しようとしていた。
「先輩。その質問に答える前に、いくつか確認したいことがあります」
そんなことをせずに、これまで積み上げてきた仮説をそのまま伝えればよかったのかもしれない。
そうすれば、もしかしたら先輩をこれ以上苦しめずに済んだかもしれない。
だけどそれは、先輩がずっとずっと抱えてきた苦しみを無視し、踏みにじる行為に等しい、そう思えてならなかったのだ。
「まずは一つ目です。あの日、先輩が倒れた日、同じようなことが以前にもあったって言ってましたよね?」
「そうだね。そう言ったと思う」
「それは、先輩の家が放火された時、ですか?」
「……あぁ」
「わかりました」
たったこれだけの質問でほぼ答えは出てしまったが、確証に至るためにはもう一つだけ確認しておきたいことがあった。
そしてそれは、どうしようもない過去をこの場に引きずり出すことになってしまうこともわかっていた。
「それじゃぁ二つ目です」
「あぁ」
それでも、俺は立ち止まることができなかった。
「あの日、俺は倒れている先輩の身体を、見ました」
先輩の表情が凍りつき、それからすぐ、全てを悟ったかのような表情に変貌した。
諦め。ただそれだけが張り付いた顔。
「先輩の、全身を、見てしまったんです」
「そうか、それもそうだな。なにしろ私はその時何も着ていない、裸の状態だったんだから」
血に塗れ、所々に痣の浮き出た青白い肌。
それだけならば、どれだけよかったか。
「教えてください。先輩の身体を覆う大量の傷は、傷跡は、一体誰に、いつ、付けられたものなんですか」
裂傷。
火傷。
打撲。
先輩の首から下は、それらの傷跡で覆われていた。
どうすればこんな形になるのか理解できない跡もあった。
初めは、外山による拷問の跡だと思っていた。
だけど、それにしては傷跡が古過ぎたのだ。
傷つけられては治り、また傷つけられては治る。それを繰り返したと思しき歪な跡が、あまりにも多かった。
たった一晩で作れるものではない。それがわかってしまった。
青白い肌は少し不健康だけど、そこから漂う儚さが却って先輩の美しさを強調している。
体育に参加しないのは、身体が弱いから。
常に冬服で過ごしているのも、少し過剰なくらいの道徳心に由来する身を縛る行為。
当時はそう思っていた。
だけど、それらは全て、自分の肌を隠すため。
自分の身に起きていることを、誰にも気付かせないため。
「君は、もうわかってるんだな」
諦念の込められた静かな声。
「……どっち、ですか」
聞くまでもないことだ。
ただ、少しでもいいから希望に縋りたかった。
しかし、それは容易く打ち砕かれる。
「どっちとも、だよ」
わかっていたことだった。
一緒に暮らしていて、自分の子供があれだけの傷を負っていることに気が付かない親がいるとは思えない。
「……そうか。そういう、ことか」
沈黙の後、先輩は天井を仰ぎながら言葉を漏らす。
俺の考えと同じところに先輩自身も辿り着いたのだろう。
淀みのことを知らなくとも、俺が言わんとすることの意味はわかってしまう。
「先輩、さっきの質問に対する答えです」
覚悟を決め、俯いていた顔を上げる。自分ではどんな表情をしているのかわからない。ぐるぐると頭を渦巻くこれがどんな感情なのか、理解できなくなっていた。
「いや、いい。もう、わかった」
俺の口から告げるべきなのかどうか、その判断もできなかった。
「私が殺したいと思った人間が死んでいる。そういうことだね?」
「……はい。そう、だと、思います」
先輩に取り憑いた淀みは、人を操り人を殺す、そういう類のものなのだろう。
もちろん、殺しはせずに多少の危害を加えるだけの場合もあるのかもしれないが、今はそれを確かめることはできない。
これまで見聞きした淀み絡みの事件を思うと、完全に他人をコントロールするというよりは、行動の対象を挿げ替える、敵意を増幅させるといった形の、潜在意識への干渉と考えるのが適切かもしれない。
梶田さんと外山の二人については、操られた人間と殺された人間、それがたまたま一致していただけだと解釈できる。
耐性のない人間が淀みの干渉を受けると、知覚を乱され、時には記憶が曖昧になる。
先輩のストーカーだった男は淀みの干渉を受けて操られ、先輩の両親が寝静まった頃を見計らって家に火を付けたのだ。
「一週間くらい、酷い折檻が続いていた。機嫌が悪かったのか、今となっては本当の理由を知るすべはないけど、多分、そんなところだろう。もしかしたらあいつに襲われかけたことを話したせいかもしれないな。まぁ
、あの人たちが何を考えているのかわかったことなんて一度もないけどね。あの日、私は自宅に帰らずにマンガ喫茶で夜を明かすつもりだったんだ。身体中が痛くて仕方なかった。外側だけじゃなく、内側も。そんな状態では家にいるだけで耐えきれないほど辛かった。だから、夜中にこっそり抜け出してきたんだ。バレたら次の日にもっと酷いことをされるとわかっていても、そうせざるを得なかった。少しの時間でもいいから、あの人たちから離れた場所にいたかったんだ」
先輩の独白は淡々と行われていく。
自身の感情すらも、単なる事実として並び立てられていく。
「そしたら、あいつが私のいたブースまでやってきた。その何日か前だったかな、そいつに襲われかけた時、私は反撃を食らわせていた。近くにあった石でさ、思いっきり顔を殴ったんだよ。マンガ喫茶のブースで小さくうずくまる私を見て、あいつは笑っていた。顔の半分を包帯で覆われながら、ニヤニヤと。だから、私はすぐさま助けを呼ぼうとしたんだ。だけどそしたら声が全然出なくてね、代わりに思いっきり血を吐いた。思いっきり殴られたせいかそれともストレスのせいなのかはわからないけど、胃か食道がやられてたんだろう。それを見て好機と思ったんだろうな。あいつは私の口を手で塞ぐと、全体重をかけてのしかかってきた。今度ばかりはダメかと思ったよ。元々華奢な身体なうえ、その時は身体中が痛くて全然力が入らなかった。そんな状況じゃ、男の力に逆らうことなんてできなかった」
俺はただ、それを黙って聞くことしかできない。
「その時に頭に浮かんだのは、そいつに対する怒りじゃなくて、あの人たちに対する恨みつらみだった。正直、そいつのことは単なる障害物としか考えていなかったんだと思う。だからこそ、そんなものに自分の人生がめちゃくちゃにされてしまう、その原因を作ったあの人たちが、恨めしくて仕方なかったんだ。あいつは遠慮なしに口と鼻を塞ぐもんだから呼吸もできなくて、意識は朦朧としていた。そしたらさ、頭の中で大きな爆発が起きたような衝撃があった。ずっとずっと抱えてた爆弾にとうとう火がつけられた、そんな感じだったかな。馬鹿みたいに大きな耳鳴りがしたと思ったら、視界が真っ黒になって意識が飛んだ」
それが、淀みの力が行使された瞬間だったのだろう。
「気付いた時には今回みたいに病院のベッドの上だった。時間になっても出てこない私を不審に思ってブースにやってきた店員が、意識を失って倒れていた私を見つけたんだってさ。そして、目覚めてすぐに伝えられたんだ。あいつが私の家に火を付けて、あの人たちが、二人とも焼け死んだってことを」
長い沈黙が流れる。
何を口にすればいいのか、全くわからない。
先輩は、語り終えてからずっと俯いたままだった。
「まぁ、根拠はなくても薄々感じてはいたんだよ。自分があの人たちを殺したんだろうなってことは」
「……どういうことですか」
「あの人たちが死んだってことを伝えられた時、真っ先に感じたのは達成感だったんだ。なんでそんな感情が湧いたのかその時はわからなかったけど、君から淀みのことを聞いて理解できた。無意識下では、自分に憑いた淀みが何を為したのか気付いていたんだな」
それは、ありえない話ではない。
極稀にではあるが、自身に取り憑いた淀みを自在に操ることができる人間も存在していると聞く。そもそも、淀み自体が人間の強い意思に反応するものである。
ゆえに、淀みのもたらす結果の意味するところを取り憑かれている本人が感じ取れたとしても、何ら不思議なことではないのだ。
「商店街で君を突き飛ばした時も、助けたいという気持ちの裏で、あの男のことを消したい、殺したいと思ってしまったんだろうね」
そんなセリフを先輩はあっさりと口にした。
「あの女については言うまでもないな。殺されたくなかった。だから、殺すしかなかったんだ」
先輩の、自嘲気味の微笑み。
「ねぇ、凪島くん」
改まった調子で先輩が口を開く。
「はい」
「私はこれからどうなるんだい?」
「……多分、特調会の本部から連絡があると思います。淀みの罹患者として正式に登録する手続きをするよう、近々要請がくるんじゃないかと」
「ふむ。どこかの施設に入れられるとか、そういうことは?」
「多分、ないと、思います。けど、正直、わかりません」
そんなことにはならないと願いたいが、あまり確実なことは言えない。むしろ、先輩の淀みが孕む危険性を考えればかなり厳しい監視の下に置かれることになる可能性の方が高いかもしれない。
「なんだか煮え切らないね」
そう言って先輩は軽く笑う。
なぜ、笑えるのだろう。
「いっそ、その方が楽かもしれないのにな。新しい家を探すの面倒だし」
「でも、それは」
施設に入れられてしまえば、自由などなくなる。
牢獄だとまでは言わない。そこで生活を続けている人は今もいる。
だけど、その言い方は、執着を全て捨て去ってしまったようなその口ぶりは、あまりにも。
「別にいいんだよ。元々、何か目的を持って生きているわけじゃないんだ。ただ単に、死ぬ理由がないから生きているだけ。そんな人間なんだよ、私は」
先輩の口から吐き出されるのは、ただただ強い諦念だった。
「ずーっと、あの人たちの言うことに従って生きてきた。目的も目標も、全部あの人たちが用意したものだった。それ以外の選択肢はなかったし、そんなことを考える機会さえ与えられなかった。物心ついた時にはもうそんな感じでさ。最初っから、私はただの人形だったんだよ。あの人たちの大規模なおままごとの道具。思い通りに動かなければ叩かれて、彼らの望む姿を見せつけることでしか生きていけない大きな操り人形だ。それだけ聞けばかわいそうだって思うかもしれない。だけどね、突然二人ともいなくなって、思わぬ形で自由になって、その時気付いたんだ。そもそも、私自身の中身が空っぽなんだってことに」
そんなもの、どうしようもない。
だって、そうなるように強要されていたのだ。
そういう生き方しか許されない環境にあったのだ。
「高校時代は生徒会長なんかやって、大学に入ってからはいろんな研究室でバイトして、形だけは充実していたよ。だけど、自由になって改めて考えてみたら、どれも私のやりたいことじゃなかった。それじゃぁ本当に私のやりたいことってなんなんだろうって考えてみたら、なんにもなかった。なんにも、なかったんだよ。だから、大学は辞めた。不幸中の幸いであの人たちの残した遺産があったから、神野町で安いアパートを借りて、そこに住み始めた。それからも色々と模索はしてみたんだ。漫画とか小説とか読んでみたり、ちょっと仕事もしてみたり。だけど、どれも長続きはしなかった。没頭できるものは何もなかったんだ」
先輩の言葉は、俺の記憶をも侵食していく。
高校時代、先輩と共に過ごしてきた思い出が、黒く黒く塗りつぶされていく。
「いっそのこと死んでしまおうかと思ったこともあったんだけど、どうやら生きるのがいやってわけでもないみたいだった。首吊りもリスカもオーバードーズも、他にも何か試したかな、まぁ、全部失敗に終わったよ。とりあえず生きてはいたい、それだけはわかったんだ」
目の前で言葉を吐き出す女性が何者なのか、認識が曖昧になっていく。
「そういうことならさ、どこかの施設に収容されて生かされるっていうのもなかなか悪くない選択肢じゃないかって思うんだ。生き方を他人に決めてもらってのうのうと過ごしていく。次は誰かに暴力を振るわれることもないだろうし、意外と心地よいんじゃないかと思うんだ。どうかな?」
どうかな?
その問いかけに、何の意味があるんだ?
俺が答えたところで、何が変わるというんだ?
記憶の中の水川先輩。
それを構成していた要素は、はたして目の前の彼女の中にどれほど残っているのだろう。
視界がぼやけていく。
思考が霧散する。
出口のない迷路だった。
抜け出す方法は見つからない。
目の前にいる女性の顔には、作り物の微笑が張り付いている。
それを剥ぎ取る方法を知りたいのに、何もかもがわからない。
その内側には何も残っていないかもしれない、そんな恐怖が拭えない。
「君が思い詰める必要はないよ。これは私自身の話だし、別に嫌がってるわけでもないんだからさ」
返す言葉が出てこない。
「今日は話してくれてありがとう。おかげで、ずっと胸につっかえていたものが取れた気分だ」
朗らかな笑顔。
彼女のそんな表情を、俺は今までに見たことがない。
そもそもが、たった二年の付き合いだ。
その間で得られるものなんてたかが知れている。
結局、俺がかつて見ていた先輩は、歪な作り物に過ぎなかったのか。
気がつけば、日が暮れていた。
窓から西日が差し込んできて逆光になった先輩のシルエットが、何か不気味なものに見えてくる。
お互いに黙ったまま、どれだけの時間が過ぎていったのだろう。
「……そろそろ、帰ります」
どうしようもなくなった俺の口からこぼれ出たのは、そんな一言だった。
「あぁ、今日は来てくれてありがとう。さっきも言ったが、君は何も気にする必要はない。私は何も悲観していない。君には感謝しているんだ」
そんなセリフが頭を通り抜けていく。
「どうか、お大事に」
振り絞った形だけの言葉は、空気に溶けてすぐに消えてしまった。
部屋を出て、エントランスへと向かう。
足取りが重く、前に進めている感じがまるでしない。
それは、先輩に対してどうすることもできなかったという苦い感情がもたらす錯覚だ。頭ではそう思っていても、意識はずぶずぶと泥沼に沈んでいく。
ぼんやりとした頭のままトボトボと歩を進め、入り口の自動ドアを通り抜けた。
行きはバスを使ったけど、帰りは歩いていこうか。
今の頭じゃろくに考えこともできやしない。
少しでも冷やして、冷やして、冷やして、全部、忘れてしまいたかった。
そんなことを考え始めたその時だった。
左手側に人の気配。
そう思ったのも束の間、強い衝撃が訪れた。
「ぐぇっ」
情けない声を吐き出して、くの字に曲がった俺の身体が飛んでゆく。
訳が分からぬまま倒れ落ちる俺の視界に映ったのは、予想もしていなかった光景だった。
夕日を背にして右足を突き出した遥先輩が、そこにいた。
*
空が紫混じった橙に染まり、漂う空気は冷え始めていた。
病院にほど近い喫茶店のテラス席。
蹴り飛ばされた後の混乱の中、俺は前後不覚のまま遥先輩にこの場所まで引きずられてきたのであった。
店内から、コーヒーカップを二つ手にした遥先輩が戻ってくる。
「ブラックのホットでいいよね?」
「え、あぁ、はい」
遥先輩が向かいに座り、ずず、とコーヒーを飲み始める。
「もっと砂糖入れればよかった」
うぇ、と舌を出して大げさなリアクションをする。そういえば、遥先輩は甘党だったっけ。
「あの、遥先輩」
「なに?」
「えっと、色々と聞きたいことがあるんですけど」
とりあえず喫茶店でコーヒーを飲むことになったらしいが、それ以外のことが何も分からない状態だ。
「いいよ。順番に、一つずつね」
遥先輩はそう言ってから、コーヒーを一口啜る。
「まずは何?」
「なんで蹴ったんですか」
「辛気臭い顔してたから」
あんまりだ。
「靴の跡、全然取れないんですけど」
「思いっきり蹴飛ばしたからね。洗濯すれば落ちるんじゃない?」
にべもない。
「で、次の質問は?」
「なんでここに」
「神野町?病院?」
「どっちかというと、病院ですかね」
水川先輩が入院しているという情報を、どこから得たのだろうか。
「手当たり次第にこの辺りの病院巡ってたの」
まさかの力技だった。
「そもそも水川先輩が入院しているなんてこと、どこで知ったんですか」
ニュースでは先輩の名前は出なかったはずだ。
「言っとくけど、私が心配してたのは考だよ」
「え?」
「ニュースで少しやってたでしょ。女が一人、他人の部屋で自殺したって事件」
「えぇ」
「死んだのが外山だったから、考に何かあったんじゃないかって思ったんだよ」
水川先輩や俺の名前は公にならなかったが、そういえば外山の名前だけは流れていた。死んだ人、だからだろうか。
「ねぇ考、ケータイ、今どうしてるの?」
「あ」
そういえば警察に預けたっきり、受け取りに行くのを忘れていた。仕事用には逆村さんから別のスマホを支給されていて支障がなかったので、完全に頭から抜けていた。
「何通メールしても返ってこないし、何度電話しても不通だしで、私がどれだけ心配したか、ねぇ、わかる?」
感情の混ざらない淡々とした物言いゆえ、余計に心に突き刺さる。
「申し開きもございません……」
「考の住所聞いてなかったから家に行くこともできなくてさ。だから、もしかしてと思って神野町近辺の病院に聞いて回ってたの、凪島考って男が入院してないか、って」
どうやらかなり苦労をかけてしまったらしい。しかし、ふと、疑問が湧いた。
「あれ?でも、遥先輩、もしかしなくても俺が逆村探偵事務所で働いてること、知ってますよね?病院なんか行かずに事務所に来ればよかったんじゃ……」
俺がそう言うと、遥先輩の顔が途端にしかめっ面になった。
「……たの」
ぼそ、と呟かれたが、よく聞き取れない?
「はい?」
「うっかりしてたの、気が動転してたから」
俯きながら、恥ずかしそうな表情でそう口にした。
どうやら遥先輩でもそういうことがあるらしい。なんとも言えない気持ちである。
「で、結局どこにも君は入院してなかったわけだけど、もしかしたら看護師さんが教えてくれないだけでこっそり入院してるんじゃないかと思って、全部の部屋を見て回ったの。そしたらさ、あの病院に一縷が入院してて、びっくり」
遥先輩が指差しながらそう言う。
大袈裟なアクションにどこか妙な気持ちが湧いてきたが、正体がわからないので放っておくことにした。
とにもかくにも行動が無茶苦茶だ。
「それじゃぁ水川先輩に会ったんですか。さっき話してた時はそんなこと一言もいってませんでしたけど」
「ううん、会ってないよ。私が気付いた時はまだ面会謝絶状態だったし、今日来た時にはもう考がいたし」
俺が水川先輩の部屋から出てから病院の入り口に辿り着くまで、ものの数分も経っていない。先輩は入り口の外にいたわけだから、その間に水川先輩と会うことは無理だろう。
そんなことを考えていたら、ふと、気がついた。
「……あの、もしかして」
「うん。ずっと部屋のすぐ外にいた。扉の隙間からこっそり覗いてたの」
「話はどこから……」
「りんごがどうのこうのって辺りかな?」
ほぼ最初っからじゃないか。
「それじゃぁ淀みのことも……」
「うん、聞いてた」
「あの、そのことについてはなるべく口外しないようにしてもらえると……」
「いいよ、大丈夫。そもそもなんとなく知ってたことだし、あまり吹聴して回るようなことじゃないってのもわかってるから」
「あ、そうだったんですか」
意外だった。淀みに纏わる話をしたことがないのは当たり前だが、遥先輩の性格なら淀みのことを知ったら嬉々として俺にその話をしてくるような気がしていたからだ。
「まー、色々調べれば誰だってなんとなくは気付くんじゃない?裏付けがなけりゃ単なる突拍子も無いオカルトだって投げ捨てちゃうだろうけど、私の場合、君から少し話を聞いてたからね」
大学時代のあの事件では遥先輩にも相談していて、事の顛末は概ね伝えてあったのだ。
淀みに関する情報はなるべく取り除いていたつもりだったが、話のディテールに欠けているものを補完してみようとすれば、いずれは辿り着けてしまうものだったのかもしれない。
ふと、遥先輩の表情が曇る。
「色々あったんだな、って思ったよ」
「……水川先輩、ですか」
「うん。高校の頃から少し違和感はあったんだけど、一縷、自分のことについて話したがらないタイプだったから私としてもあまり突っ込んだこと聞けなくてさ」
遥先輩は、孤立しがちな水川先輩と関わりを持つ、数少ない友人のうちの一人だった。
「でも、いざ知っちゃうと、あれだね、なんかきつい。もう昔のことだって頭ではわかってはいるんだけど、やりきれないっていうか、やり場のない怒りが湧いてきちゃうっていうか」
そんな情緒的なセリフを遥先輩が口にするのは珍しい。
遥先輩も、その独特な立ち振る舞いと言動で周囲から少し浮いていた。タイプは異なれど、水川先輩とはどこか共感できる部分があったのだろう。
「一縷があんな風になっちゃうなんてね」
あんな風。
空っぽの瞳、空っぽの声。
虚空に放り投げられた先輩の言葉が耳の奥に漂い続けている。
「死にたくないから生きてるだけ、か」
どうしようもないほどに残酷な宣言だった。
今までに作り上げられてきた水川一縷という存在を全て否定する、救いのない言葉だった。
「一縷が自分で言っていたように、それが彼女の本当の姿だったのかもしれないね」
遥先輩の声のトーンは、少し下げられていた。
「ねぇ、考」
普段よりもゆったりとした口調で、遥先輩は言葉を発す。
「そんなこと、本気で思ってるの?」
「……え?」
「私たちが一緒に過ごしてきたあの時間が全部偽物だったなんて、本当にそう思ってるの?」
淡々と、言葉は紡がれていく。
「私たちはさ、それなりの時間を一縷と一緒に過ごしてきた。一縷の生き方は親に強制されたものだったのかもしれない。それ以外の振る舞い方を許されない、窮屈な人生だったのかもしれない。でもね、私と一緒にいた一縷は間違いなく一縷自身だ。君と一緒にいた一縷も、本物の一縷だ。そこにいたのは他の誰でもない、水川一縷という人間なんだよ」
遥先輩は、じっと俺の目を見つめて離さない。
「親に作られた人格であっても、それこそが水川一縷なんだ。そして、私たちが手を取ったのは彼女で、彼女は私たちの手を取った。それは、決して消える事のない事実だ」
沈黙が流れる。
俺の思考はバラバラなまま、少しもまとまらない。
「一縷はあんなことを言ってたけどさ、そんなの、本心なわけないじゃん。今までの自分の人生を全否定するなんて、そんなこと、簡単にできるわけないじゃん」
どんな言葉を返せばいいのか、全くわからない。
「ねぇ、考」
遥先輩の放つ言葉は、ずっと俺に向けられている。
「私はさ、君の他人に対する距離の取り方がすごく心地よいと思ってる。干渉し過ぎない、詮索し過ぎない、でも、全くの無関心じゃない、ちゃんと受け入れてくれる。そんなところが、私は好きだよ」
同じセリフを、かつて、一度聞いている。
「でもさ、君はちょっと他人を尊重し過ぎだと思う。人の言葉を、そのまま受け入れ過ぎちゃってる。みんながみんな、私みたいに思ったことをそのまま口にするようなタイプじゃないんだ。言いたいことも言わないまま、自分を押しつぶしてその場を取り繕うだけの言葉を吐く人なんて、いっぱいいるんだよ」
「尊重、し過ぎですか」
「他人の心に踏み込もうとしない。私にとっては君の長所だけど、他の人から見れば短所だよ。君は一縷の言葉を真に受け過ぎだ。あんなのが、一縷の本心なわけがないじゃない」
「……どうしてそんなことがわかるんですか?」
俺の問いかけを受けて、遥先輩はしばらく黙ってしまった。
「……言いたくない」
「え?」
返ってきたのは思わぬ答えだった。
「女の勘、って言ったら信じるの?」
「遥先輩がそんなことを言うなんて信じられないです」
「なら聞かないで。とにかく私にはわかるの、わかっちゃったの。一縷が君に心配かけまいと下手な嘘をついてるんだってことが」
水川先輩が?
俺に、心配をかけまいと?
「そんな、だって、俺はむしろ余計に水川先輩のことが」
「だから下手な嘘って言ったじゃん。一縷の弁が立つせいで、余計にややこしいことになっちゃってるんだよ」
だが、仮に水川先輩の言葉が嘘だったとして、何が変わるのだ。
「あのね、考」
「……なんですか」
「これは、一縷の友人としての君へのお願い」
改まった様子の遥先輩に、少し胸がざわついた。
「一縷を、なんとかして繋ぎ止めてほしい。このまま放っておいたらどこかに消えていっちゃいそうだから」
抽象的で、捉えどころのない「お願い」だった。
普段の遥先輩からは考えられない、ふわふわとした言葉。
だけど、だからだろうか、遥先輩の真剣な気持ちが素直に伝わってくるような、そんな感覚に襲われた。
「先輩をどうにかできるならどうにかしたいですよ。でも、どうすればいいかわからないんです。あんな風に、自分に対する執着すら捨て去ろうとしている人に、何を言えばいいかなんて、わからないんです」
今の気持ちを正直に吐き出した。
病室で先輩の言葉を浴びながら、ずっと燻らせていた思いでもある。
「多分、君なら簡単だよ。私じゃ無理だけど、君ならできる」
妙に自信ありげな口調だった。
「俺なら、ですか」
「うん。君もそろそろ、少しくらいは他人の心に足を踏み入れることを覚えてもいいんじゃない?たまにはわがままで他人を振り回すこと、してみてもいいと思う」
そう言う遥先輩の表情は、からっとした口調の割に、どこか影が差している。
「考」
「はい」
「さっきは一縷の友人としてって言ったけどさ」
「えぇ」
「私は、君が落ち込むところも見たくないんだ。後悔してほしくない。凹んで欲しくない。そういう私のわがままも、一縷をなんとかしてもらいたい理由の一つだよ」
遥先輩はズケズケと物を言う割に、自分の気持ちについてはあまり主張をしないタイプだった。だからこそ、今の言葉は新鮮で貴重なものだと感じられた。
「考がしたいようにすれば、それで大丈夫。遠慮なんかしないで気持ちを伝えれば、なんとかなるよ」
何のヒントにもならない、曖昧な助言だった。
でも、どこか確信めいたものがあることを俺は感じ取っていた。
遥先輩が、大きく深呼吸をしている。
吐き出された息が、微かに俺の腕を撫ぜていった。
「こっちに来るまでは君に一晩付き合ってもらうつもりだったんだけど、予定変更かな」
知らぬ間に立てられていた予定が勝手に変えられた。
「面会時間はもう終わっちゃったから、一縷に話が出来るのは明日になってからだね。どうするべきか一晩じっくり考えて、明日、実行に移すといいんじゃないかな。そうすればきっと、全部綺麗に収まるよ」
「そんな簡単にいくんですかね」
「不安なら、私を信用すればいい」
答えになっていない返事だった。だけど、遥先輩らしいセリフだ。
「さて、いい時間だし、私はもう帰る。明日、うまくいったら連絡して。もしもうまくいかなかったとしても、電話して。私は待ってるから」
「えぇ、わかりました」
流れがあまりにも強引すぎて、どういう経路で今の感情に至ったのか、自分でも全く理解できていない。だけど、気持ちは確実に楽になっていた。
カップに残ったコーヒーを一気に飲み干して、先輩が椅子から立ち上がる。
「あ、送って行きますよ」
そう言って立ち上がろうとした俺を、先輩が押しとどめた。
「今日はいい。少し考え事しながら歩きたい気分だから」
「あ、そうですか」
「コーヒー代は君への依頼料ってことで私の奢り。それじゃ、また明日」
そう言って先輩は立ち去るかと思いきや、立ち止まり、振り返り、ふわ、と顔が近づけられた。
遥先輩の髪の毛が、頬を擦る。
「一縷のこと、よろしく」
囁くようにそんな一言を残して顔が離される。
そして今度こそ遥先輩は去っていった。
相変わらず挙動が読めない人だ。
気持ちを落ち着かせようと、もう冷めてしまったコーヒーを口に含む。
微かな甘味が広がっていき、脳を刺激する。
これからどう動くべきなのか、そんな思考に没頭していく。