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ローズフォース  作者: DA☆
Procedure 6 ハーモニー
92/140

6-01

 毎日静かな食事が続いた。さおりさえその重みに従った。食事以外は、あたしたちはあまり顔を合わせないようにしていた。


 三人が学校や会社に行っている間、あたしは相変わらず暇だった。誰の襲撃もなく、表向きは平穏な日々が続いた。


 変化があったといえば、ゆきのの帰りがたびたび遅くなった。くたくたに疲れた顔で帰ってくる。部活らしいが、相変わらず何の部活かは話さない。仮入部で日曜日にまで出かけていくのは、ずいぶん入れ込んでいるのか、それとも顔を合わせたくないからか。よくわからない。


 ぎくしゃくを少しでも感じなくて済む時間はありがたかったが、何が変わるわけでもなく、あたしは何の答えも出せぬまま、というより何も考えないままに日々が過ぎるのを眺めていた。それで多少気分は落ち着いていた。


 落ち着いたところで、もう一歩足を進めて、自分に必要な答えを探さなくてはいけない。けれどその勇気は出ず、どうすればよいのかもわからず、結局、問題を先送りすることにしかならなかった。




 クリスタルに示された期限は翌日に近づいていた。あたしは例によってシトリンを探しているふりをしていた。


 バイクに乗って風を切っても、まるで落ち着かなかった。状況は、こないだクリスタルに泣きべそを見せたときから何も変わっていない。


 正直に出せる答えはどれも同じような泣きごとになりそうで、それはクリスタルの求めるものではないとわかっていた。───あぁ、今度は、答えを決めるのにクリスタルの顔色を伺っている。どうしようもない奴だ、あたし。しょせん、変われないのか。


 ……突然携帯が鳴ったのは、その日の午後三時頃だった。


 バイクを路肩に寄せて止め、液晶の表示を見ると、さおりだった。何の用だろう。……ていうか、仕事中じゃないのか、あいつ。とりあえず着信ボタンを押す。


 「もしもし」「あ、みずき?」「そうだけど、何?」「あのさぁ、……変身って、どうやるんだっけ?」「……はぁ?」何を唐突に言い出すんだ、コイツ?


 「あたしさぁ、自分でやんないっしょー?」言われてみれば確かに、彼女が自分自身で発声して変身することって、これまでなかったような気がする。「ぶる……ぶるーすかい、じゃなくって、ぶるー、ぶるぶる、……」


 「Blooming up のことか?」


 「それ! あんがと!」ぷつりと電話は切れた。


 どういう会話だったのかよく理解できなかった。


 ……相変わらず失敬なヤツだ、と思って、無視して携帯を畳みかけて、やっと一本、理解の糸がつながった。……なんでさおりはいま変身のキーワードを知らなくちゃいけない状況に陥ってるんだ?


 はっとした。


 ヤバイ。


 答えはひとつしかない。この時間ならさおりは会社だ。鈴木商事にいる誰かにとっつかまったんだ。……あの女がひとりで戦闘なんて想像もできないし、まして場所は敵の庭だ。


 でもいったいなぜ? またモーリオンの独断専行か? 変身前に携帯で連絡してきたんだから、やっこさんたちの誰かが、地球人で一社員の水沢さおりにアクションをかけたことになる。さおりが鈴木商事に送り込まれたのは、そういうことはなされないという前提があったからのはずだが。


 あたしは慌ててさっきの通話を着信履歴に出すと、発信ボタンを押した。続くコール音。なかなか出ない。焦りが生まれてきた頃に、ようやく回線がつながった。


 何かしゃべる前に、怒鳴る。


 「変身すんじゃねぇぞ!」


 「ナンデ? しないと戦えないじゃん」


 「ナンデって、おまえひとりで誰と戦う気だよ!」


 「エイミーちゃん。なんか、本気っぽい」


 「本気っぽいって───」


 「いーよ、会社ん中で起きてるしさぁ、こっちでなんとかする。ていうか、戦う気もそんなないし。逃げとくから、だいたいは」


 「そーもいかんだろ。そっちに助太刀に行く」


 「来なくていいって───」「もしもし?」突然声が変わった。アメジストの声だ。携帯がひったくられたようだ。


 「レッドローズね?」


 「そうだが?」


 「私はあなたと話がしたいだけよ。だからご足労願いたいの。そう伝えてほしいとこのさおりのことらしいに頼んだのだけれど、うまく伝わらなかったようね」


 お高く止まった口調にカチンときた。自分の中のどす黒いものが揺れ、殺意すら走った。


 気を取り直して考える。話だけなら今電話ですればいいじゃないか。でも彼女は来いと言う。そもそも、さおりは真っ先に変身のキーワードを尋ねてきた。彼女ほどののんき者が、戦闘になると感じたのだ。


 アクションを起こさないはずの者がアクションを起こしたことといい、会話だけですむとはとうてい思えなかった。


 あたしは腹をくくった。乗りかかった船だ。船はどす黒い波の上を揺れ続ける。───思い切り暴れた方が気が晴れるんじゃないかと、物騒なことも思った。


 「確かに、『その子』とじゃ話にならんだろうよ、おあいにくだな! ……いいぜ、今からそっちに殴り込む」


 「……乱暴な物言いだこと。これだから地球人は……」


 「人質とって呼び出しかけてボコろうって中坊が何ホザきゃがるテメェ、」これだから地球来て日が浅い精神体ってのは! 「今から行く、首洗って待ってろ!」あたしはそう宣言して、電話をブチ切った。


 ……久々に悪態をついた気がする。それで気分が昂揚して、なんだか快感だ。いけない───いけない、落ち着け、ともかく、急いで行ってやらないと。頬を何度かべしべしと叩く。しっかりしろ、あたし。


 あたしは道をそれ、人気のない脇道にバイクを入れた。


 「Blooming up, Red Rose!」


 あたしは変身し、バイクもスプラウト化してその場から消える。


 ……さおりからの電話を受けたのは、道なりならいざ知らず、直線距離で飛んでいけば鈴木商事のある新宿までは一分かからない場所だった。あたしはいったん上空に飛び上がり、都庁のツインタワーの方角に見当をつけた───さて、大見得を切ったはいいが、だだっ広い新宿のどこに鈴木商事があるのか、あたしは知らない。


 「みずきさん」突然呼びかけられた。精神の奥底を撫でられた感じがしてあたしはぎくりとした。「───何を驚いてるんです?」サンフラワーから通信が入っただけだった。


 「早いですね、もう変身してますか」


 「あぁ、まぁ、……さおりから電話があって、どうもヤバイ状態みたいだからさ───そっちこそ、ずいぶんタイミングがいいな?」


 「鈴木商事は常時監視ポイントですから。さおりさんからの携帯の電波を、今回はこちらで捕捉できましたので。───『今回は』、ね」携帯の通話をサンフラワーが傍受できるなんて今初めて知った話だってのに(またかよ、このノゾキ魔!)、なぜか彼は、今回は、を強調した。どうやら、あたしが勝手にシトリンと戦ったことを根に持っているらしかった。「内部の動きはわかりません。何らかのジャミングのシステムがあるようで、フライングローズが走査に使う波動が妨害されてしまうからです。この通信も間もなくできなくなるでしょう。


 しかし、クリスタル一派のうち現在鈴木商事ビル内にいるのが、アメジストとモーリオンのふたりだけなのは確かです。このふたりのどちらか、あるいは両方からさおりさんが攻撃を受ける可能性は高いと思われます───早急に救援に向かってください」


 「わかってる、けど、場所がわからん」


 「僕がナビゲートします。今のうちなら、鈴木商事ビルの見取り図も送れますよ」思わず、おうありがとよと言いかけて、くっと口をつぐんだ。───サンフラワーはこう続けたのだ。「ホワイトローズの機能はすべてこちらで代替できますから」


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