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ローズフォース  作者: DA☆
Procedure 3 カナリー バード
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51/140

3-04

 北北西へ進路を取れ───なるべく高速で!


 それがサンフラワーの指示だった。


 どんな速度もまったく意に介しないスピード型のピンクローズを別格として、他の三人も訓練の結果、さすがに音速突破はまだムリだが旅客機程度の速度ならなんとか耐えられるようになっていた。もっとも、空も物騒で、いつ飛行機と衝突するかわからないのでなるべく速度は落とすようにしていた。ロウシールドがあるから、衝突しても吹っ飛ばされるのはあたしたちの方だが。


 飛行機があまり飛ばない高度を選びつつ、夜を裂いて野を越え山を越え、北北西へ向かった。


 飛ぶことにはすっかり慣れた。快適とは言い難い。『空を飛んでいる』ことじゃなくて、『地に足がついていない、どこにも体重を委ねていない』ことが不快なのだ。スラスタの作る浮力は、あたしたちを安定しこそすれ安心させてはくれない。


 サンフラワーの声がした。


 「状況を説明します。ある異星人が、こちらの警告を無視して地球への無許可の降下を試みています。名称は『ヌガー』」


 「ヌガーってお菓子の名前じゃなかったっけ?」あたしは訊き返した。「何でまたそんな名前に?」


 「疑問ですか?」


 「そりゃそうだ」


 「……僕の『サンフラワー』って名前は疑問じゃないんですか?」そーいや気にしてなかったな。ヒマワリはヒマワリで似合ってるし。「『ブルーローズ』も『クリスタル』も今回の『ヌガー』も、単なる個体識別用です。特に意味はありません。ま、ブルーローズ様は自分の名前がたいへんお気に召しているようですけどね。……あぁ、そんなことより、状況説明です!」


 サンフラワーはまくしたてた。


 「ローズムーンベースの復旧はまだ端緒についたばかりで、ブルーローズ様による迎撃は失敗に終わっています。そこでみなさんの出番です。


 敵といってもクリスタルの仲間ではなく、警告を無視して無断で地球に降下しようとしている異星人です。地球上のわざわざ日本に降下するというのは偶然とは思えませんので、クリスタルが何らかの信号を発して呼び寄せている可能性があります。もっとも、そういう信号があったとしても発見と解析は僕の仕事ですんで、みなさんはヌガーを捕らえることに全力を尽くしてください」


 「OK、でも捕らえるってどうすんだ?」


 「トレーニングのとき教えましたでしょう? ローズショットをキャプチャーモードにするんです。ネット形状の光弾を射出しますから、完全に相手を包み込むことができれば、相手を行動不能にできます。ただ、有効射程距離も捕獲可能な大きさもかなり制限されますので、ヌガーを抵抗できない状態まで弱らせないと、捕獲は困難だと思います」


 「えーっと」リーダーの分際でトレーニングの内容をよく覚えていない。


 幸い、ゆきのが翻訳してくれた。「要は、ぶちのめして、ふんじばれば、それでいいんですよ!」


 戸田奈津子もびっくりの名訳だ。「了解! チョロい仕事だな!」あたしは言った。


 その間にさおりとめぐみが話している。


 「ヌガーってどんなん? どんなお菓子?」と、さおり。


 「しらなぁい。なんか、まずそう」と、めぐみ。


 「にがー、って?」


 「そぅそ、聞いてて変な感じ……」


 「ヌガー知らないですか、ハグリッドがくれるんです」ゆきのが言った。


 「ハグ……なんだって? そっちのほうがわからん」あたしが遮った。「アレだろ、キャンディーだよ。柔らかいヤツ」


 「ナッツ入りキャラメルっていうのが一番近いと思いますけど」


 「あ、食べたことある!」めぐみが言った。「あれ、そんな名前だっけ?」


 「キャラメルって言ったらさー、グリコのおじさん」さおりが言った。「アレ、幽霊だって知ってるー?」……話を五四〇度ねじ曲げて異次元へ吹き飛ばすのはさおりの十八番だ。


 「えーーっ?」めぐみが目を丸くする。


 「ほんとなのよぅ、だからグリコの前に白い布置いちゃいけなくって、ゴールテープだと思って飛び出してくるってー」


 「えええええ。じゃあ運動会で食べたらヤバくない?」


 めぐみが好奇心丸出しにし、ゆきのも思わぬ新ネタに興味津々だ。……あたしは、この状況下で幽霊ネタにどきどきできる神経を疑いたいんだが、ま、しかたない。でもそうか、時期は早いが四人で百物語でもすりゃあ三日は話題が……、


 「話、続けていいですかー」


 サンフラワーは泣きそうな声を挙げた。


 「とにかく、説明をしますから、聞いてください。じゃない。聞きなさい、君たち。グリコは関係ありません」


 さおりがつまんなさそうな顔をして話をやめた。どうにか説明を続けられる状況になったが、この程度でめげてたらキリねぇぞ、ヒマワリ。


 「ヌガーは不定形の生命体です。裸の状態では軟らかい水飴状です。自身の体をバリアで防御する技術を持っていませんが、通常、蓑虫のように体の周囲に硬質な物体をまとわせて、鎧にしたり、手足にしたりします。がっちりと鉱物で覆い、隙間を自らの体の一部で埋めて硬化させ、宇宙の真空にも耐えます。


 どうにか一五パーセントまで回復したローズムーンベースの広域探査システムが把握した限りでは、ヌガーは現在その状態で地球の引力圏に入りました。大気圏通過の際に熱で溶けて丸裸に戻ると思いますが、たぶんまた何かで体を覆って鎧とするでしょう。この鎧を引っぺがし、内部の実体を捕獲してください。


 ヌガーと同類の生命体は、すでにいくつもの星系でトラブルを起こしています。降下させるとろくなことにはなりません。今後もこのように降下を強行する悪質なエイリアンに対して、地球が自衛できる状態だときちんと示すよい機会です。みなさんの強さが試される重要な任務であると心得てください。


 なお、ヌガーはこちらの警告を無視していますのでいきなり攻撃してかまいません。地球の言語は通じませんし、ヌガー自身も我々の能力で理解できる言語を発しません。説得は考えるだけ無駄だとご承知ください」


 「とにかく悪いヤツなのな、了解」今度はあたしが自分で翻訳してみた。「じゃ、ちゃっちゃとカタしてドラマの続き見るぞ!」


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