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ローズフォース  作者: DA☆
Procedure 2 ジプシー ガール
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2-23

 もう一度変身して、あたしはペントハウスに戻った。バルコニーに降り立って変身を解いた頃には、日が西に傾き始めていた。


 ゆきのがリビングでひとり泣いていた。あたしが戻ってきたのを見て、涙を拭った。ひとしきり泣いて、ちょうど収まった頃のようだった。


 「焼き上がるまで、見てました」ゆきのが、顔を上げずに言った。独り言のように、つぶやいた。「私、骨がほとんど残ってなかったです」


 黙ってろ、とも一瞬思ったが、何か返事をしたらまた自分の涙があふれ出しそうだったから、ゆきのがつぶやくにまかせた。


 「両親も主任さんも、泣いていたけど、納骨して、お墓の前で手を合わせたとき、顔がとても優しそうで。ゆっくり見送るって感じで。肩の荷が、下りたんだと、思います。私もなんだか、肩の荷が下りました───別れが悲しいとか、辛いとかじゃなくて、大きな仕事を終えたような気がします」ゆきのは寂しそうに言った。ゆきのにあるのは寂寥感のようだった。


 「大げさに言えば、人生の旅路ってものなんでしょうか。私の、病気と闘うだけの人生は終わりました。惨敗でした。周りの手を煩わせて、迷惑をかけるばかりで。少し悔しいです。でもほんとに、みなさんには申し訳ないんですけど、私は自分が今ここにいるということを、もう一度与えられたチャンスだと思っています。自己満足でもかまわないから、この体に備わる力と私自身の気持ちを最大限生かして、成し遂げられることがあると信じています」ゆきのは顔を上げた。あたしを見て、微笑みながらもう一度涙を拭った。「みずきさん、ひどい格好ですよ……」


 相変わらずほとんど下着の状態だ。「でもそれは、戦って刻まれた殊勲の傷なんですよね。私たちにとっては」ゆきのは北西の部屋にさっさと入って、服を引っ張り出してきてくれた。ありがたく受け取って、とりあえずTシャツを着た。首の穴から顔を出してみると、ゆきのがあたしの前に直立し、体の前で手をそろえていた。あたしと目を合わせて、そして頭を下げた。「みずきさん、これからもよろしくお願いします」


 「よろしく、ってなァ」あたしは袖を通すようなフリでそっぽを向いた。


 「私、どれくらい戦えるかわかりません。でも、この新しいチャンスをむざむざ逃がすような臆病にはなりたくありません。みずきさんのように戦えるよう努力します」


 「ブチ切れてケンカしてるだけだぜ、ご大層なもんじゃないよ」


 「でも、私たちにとって今必要な、けれど私にできないことが、あなたにはできます」


 なんかむずがゆい。話題を変えたくなった。


 「めぐみと、さおりは?」あたしが訊くと、


 「私が戻ってきたときにはさおりさんはいらっしゃいませんでしたけれど、めぐみちゃんは部屋にいるみたいですから、ちゃんと連れて帰ってくれたみたいですよ……」


 からからと引き戸が開いた。めぐみが、おずおずと部屋から出てきた。今の話も、聞いてたのかな。


 「お姉ちゃん───えっと、みずき、さん……」


 「みずきでいいよ。それとも」ゆうたという兄のことを彼女は何と呼んでいたのだろう。「『おねえちゃん』の方が呼びやすけりゃ、それでいい」


 めぐみは小さくうなずいた。


 それから、半分涙目で、説得力のないことを言った。


 「お姉ちゃん、あたし、もう泣かない」


 またひとつ嗚咽。さらに涙があふれ出す。


 「あたし、がんばる。がんばるからっ……」


 言葉をひとつ転がすたびにめぐみの嗚咽は激しくなる。何度も涙を手で拭い、目頭は赤く腫れていく。けれど瞳は真剣で、態度は決然として、あたしに言った。


 「人の殴り方、教えて」


 その言葉は、直截かそうでないかの違いであって、本質はゆきのと大差ない───でも、あたしはそのとき、なぜイエローローズが攻撃力優先のパワー型として設計されたのか、その理由を直感的に理解した。めぐみは、無垢であるがゆえに、あたしたち四人の中でいちばん残酷な存在になるだろう。


 そしてめぐみは、あたしたちの前で、またいくつも大粒の涙をこぼした。




 めぐみの涙が収まる前に、さおりが戻ってきた。バルコニーに戦闘形態で降り立ったのではなく、玄関からだった。手に、ぱんぱんに膨れ上がった、大きなポリ袋をぶら下げていた。


 「まだ泣いてんのぉ?!」さおりはリビングに入ってくるなり叫んだ。「もう泣かないの! ほらコレあげるから!」


 持っていた袋を、ちゃぶ台の上に、ばすっ、と乱暴に置く。袋の大きさの割に軽い音がした。


 「……ナニコレ」


 あたしは、あたし自身の涙の跡を拭いながら尋ねた。


 「こーゆーときってぇ、ヤケ食いがイチバンだからさっ! 好きなだけ食べるのっ! さ、食べよ食べよっ!」


 中身はしこたま、お菓子、お菓子、お菓子だった。ポッキーだのポテチだの。……どうもパッケージが店で売られているものと少しずつ違うような気がするのは気のせいだろうか。そもそもあたしたちは、いま一銭もお金を持っていないはずだった。


 「これ、パチ屋の景品……」


 「気にしないッ!」


 「パチンコったってお金がなけりゃ……」


 「コイン落ちてたの拾ったの。リール知ってるスロ探して、それで目押し。なんかこのカラダねぇ、目押ししやすくてさ」


 投げやりな言い方をするさおりにしては、なんていうか、投げやる方向がまっすぐで、声に負の感情が混ざっていた。彼女なりに悲しみを紛らわす方法だったんだろう。


 「しかしそれで勝ってくるか?」普通は負けてよけいにヘコむもんだと思うのだが。


 そのパッケージをためつすがめつどうしたもんかと考えるそばから、ちゃぶ台のそばに座り込んでチョコパイのパッケージに手を伸ばしたのは、めぐみだった。乱暴に封を破って中のパイを取り出し、口の中一杯にほおばると、ほとんど噛まずに飲み下した。


 次から次へと口の中に放り込み、嚥下して、口の周りをチョコでどろどろに汚して、……やっと少し落ち着いたようだった。


 「あの」ぽつりと口にした言葉。「『めおし』って、なに……?」


 あたしとさおりはくっくっくと笑ってしまった。


 「こどもはしらなくていいのよぉぅ!」


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