7-11
下生えが丁寧に刈り取られ、散策路のようになっている踏み固められた土の上、さおりはアメジストに馬乗りになると、二度、三度平手でその顔を殴った。その手は攻性粒子をまとっていない。ただ金属と金属がぶつかり合う音だけが響いた。
考えてみれば、さおりはそのまま馬乗りになっているだけでよかった。こうして、アメジストが身動きできないような状態で接触していれば、ワープの抑止という目的は果たされている。だが、さおりは、何度も何度も平手打ちを繰り返した。
質量攻撃は、この体にはほとんどダメージを与えない。クラス7プログラミングによって作られる特殊な合金であり、ほとんどの衝撃を跳ね返す強度を持っているからだ。
だが、ダメージはゼロではない。金属である以上物理的な限界はあるだろうし、金属疲労もあるだろう。いずれ限界がきて、プログラミングされた形状を保てなくなったとき───防性粒子を失ったときと同じように、プログラミングは解除されて消える。
肘から上はさおりに押さえ込まれたが、アメジストの指先だけはまたぴくぴくと動いていた。指示を与えられたちびエイミーたちは、さおりの周囲にどっと集まって彼女の背後から何発もショットを浴びせ、さおりをアメジストの上から引き剥がそうとする。しかし、さおりは撃たれる苦痛に耐えて何度もアメジストを殴り続けた。
「ごめんね」さおりはつぶやくように言った。「あたしさ、あんたみたいのに見捨てられるの、もう慣れてんのよね。……ホントはね。ホントはね。殺したくなるときだって、あるんだからね」そして繰り返し、その顔を打ち据えた。
彼女は、自分の手が先に壊れるかもしれないことをおそらく考えていなかったろう。しかし、先に限界に来たのはアメジストの方だった。何度殴ったか、アメジストの顔の側面から何かのパーツがぽろりと外れて地面に落ちたのだ。さおりは地面に拳を叩きつけ、そのパーツを叩き潰した。拳の下で、それは光の粒子と化して消えた。
アメジストが目を見開いた。
それこそがアクセスデナイドの実体だった。アクセスデナイドは武装オプションによって実現されていたのだ。おそらくは、秘書時の彼女が耳につけていた、やけに目立つ金細工のピアス。もしかしたら、普段からアメジストを見ていたさおりは、変なアクセつけてるなぁとでも訝っていたのかもしれない。
さおりはアメジストからばっと離れた。何体かのちびエイミーは、すぐにはそれに反応できず、さおりがいたはずの場所に何発もショットを撃ち込んだ。すなわち、横たわったままでいるアメジストに向かって。……ショットはすべてアメジストに命中した。
「ぐ……」
痛みなど感じないはずのアメジストの顔が歪む。自分のコピーに撃たれ、見下していた相手にしてやられている屈辱が、その表情を作らせているのかもしれない。いずれにせよ、アクセスデナイドの効力は失われ、アメジストが身を守るすべは防性粒子以外になくなった。
アメジストは顔を歪め、憎々しげにさおりを睨みつける。だが、その表情にまだ敗北の色はない。
「それで優位に立ったつもり? 私を甘く見ないことね」
アメジストは両手をさおりに向けて伸ばした。すると、アメジストの手から放たれたのは、タイル状の光弾───アメジストクラックスだ。「これで私はあなたを操作する。みじめな傀儡に変えてあげるわ!」
しかしさおりは避けもしなかった。すべてのタイルがさおりの体中に貼りつき、輝き始めた。痛みが走ったのか、さおりはわずかに顔をしかめたが、そのしかめた顔の底から、彼女は言った。「でも、この攻撃、みずき跳ね返せたじゃん。……あたしだってきっとヘーキ」
「何を馬鹿なことを」アメジストは嘲笑した。「努力と向上は知性の責務。同じ失敗は二度しない。今日のクラックスは昨日のものとは違う、サンフラワーでも決してこれはプロテクトできないわ!」
「バカなこと言ってんのどっち? 努力は大事だと思うけどさ、今なんのカンケーがあんの? あんたと、あたしが、戦ってんじゃんかさ」
「勝つために努力する、生きるために努力する、誰かのために奉仕する、その尊さを理解できない者に何を語る資格があるの?」
「カンケーねぇつってんだろ!」
貼りついていたタイルが突然光を失って剥がれ落ち、人間の姿に戻りかけていた体が、すぅっと元通りの戦闘形態になった。
「く……やはり、サンフラワーが、プロテクトを?」
「よくワカンナイけど、たぶん違う」さおりは言った。「ヒマワリ、言ってた。あたしたちは強いんだって。くわしいことよくワカンナかったけど、これだけはわかる───あたしのカラダはあたしのもの! あんたたちなんかにどうこうできるはずないんだ!」
───さおりは理解していなかったわけだが、サンフラワーから説明はあったのだ……調査のためにレッドヴァインを供出したあたしには、クラックスの動作、そして鈴木商事ビルの戦闘のときなぜ効果がなかったかについて。
それはつまり、あたしたちが精神と肉体を兼ね持つ生命体であり、サンフラワーの言うとおりに強いからだ。ローズサイコパスが精神体には使えないのと同じ理由だ。クラックスが精神からすべての権限を奪えば、精神体はもう動けないが、あたしたちは動ける。あたしたちの中に、自分を制御しようとするユニットはいくらでもあるんだ。




