7-08
今度はめぐみが先手を打った。ローズクラスターをいったん薔薇飾りの中に戻すと、すぐにまた取り出し、今度は一気に八分割する。それらを、両の肩、下腕部、腰、大腿部にそれぞれあてがう。体と融合し、変わって現れる新たな砲身は、今度こそキャノネイド……八連装で、威力や連射速度その他もろもろが倍付けされた、ただでさえ強力なローズキャノネイドのさらに強化版だ。
「ローズ・グランキャノネイド!」
八つの砲身がいっせいに揺れ、連続で火を噴いた。光弾が流星雨のように降り注ぐ。
「うぬぅっ!」
今度迎撃に回ったのはモーリオンの方。多数並んだ砲口をすべてめぐみのいる位置に向け、弾を撒き散らす。再びふたりの間で巻き起こる、閃光と爆煙の嵐。
だがグランキャノネイドの弾数がわずかに勝った。光弾が弾幕をいくつも突破し、要塞に着弾して屋上に配置された砲台を破壊した。新たに作られる弾幕が薄くなり、突破する弾が増えるという循環が始まる。閃光の発生する位置がどんどん要塞の側へ押し込まれ、やがて要塞上面でのみ発生するようになった。砲台は武装オプションであり、破壊されると粒子となって四散するので、光弾が作るものとあいまって爆煙の量は倍加する。
やがてめぐみはローズグランキャノネイドを撃ち止めた。砲台はあらかた破壊されており、しばらくどちらからも弾が飛ばなかった。爆煙で、辺りは文目も分かぬ闇夜のごとき様相だった。
「ふはははは、馬鹿め」闇の中から、モーリオンの不敵な笑い声がした。砲台を破壊し尽くされたにもかかわらず、彼の声に動じた様子はない。
「その攻撃はオプションなのだろうが。だったら弾数の制限があるはずだ。今のでもう撃ちつくしたな? だが、屋敷を丸ごとオプションとした俺には事実上制限はない。その程度の攻撃では、この要塞はビクともせんのだ!」
風が爆煙を運び去っていく。碁盤目に整備され、更地のようになった要塞屋上が月光に照らし出される。中央の尖塔が月影に姿を現したとき、浮かび上がるモーリオンの顔面は笑みで歪んでいた。
「いいかよく見ておけ、……砲台換装!」
モーリオンが叫ぶと、碁盤のマス目をなしていた屋上の区画がひとつずつ、隅から順に階下へ沈み込んだ。すると破壊行為など何もなかったかのように、まったく無傷の砲台が新たに迫り上がってくるではないか。
砲台は見る間に次々入れ替わり、月光に黒光りする武装要塞の外観は完全に元に戻ってしまった。
「どうだ? おそれいったか? 力とは持続できなくては意味がないのだ」
だが、めぐみもまったく動じてはいなかった。まっすぐにモーリオンを見返して、言った。「いいのよ。今のはただの時間稼ぎ」円盤を追ったあたしは、そのときにははるか上方、雲を突き抜ける高度に達していたのだ。「もう、みずきお姉ちゃんはあなたの射程外に出た」
「ふん、強がりを……。なあに束になってかかったところで、クリスタル様には触われもせんさ。お手を煩わせることにはなるが、まぁそれはしかたないとして」モーリオンは、砲口の狙いをいっせいにめぐみに定めた。「クリスタル様が戻ってこられるまでに、せめてこっちの邪魔者は片づけるとしよう」
しかし威圧されても、めぐみの動じない様子は変わらなかった。
「片づくのはあなたの方よ。あたし、絶対に負けない」動じない、強気で厳しい表情の中心をなすのは、真摯な瞳。「でもその前に、あなたにひとつ訊いておきたいことがあるの。もしちゃんと答えてくれたら、あたし、あなたを片づけないかもしれない」
モーリオンの目は黒っぽいゴーグルで覆われている。夜空の下では光はほとんど透過しない。彼がめぐみの視線をきちんと受け止めているのかどうかは、戦闘形態の鳥目修正能力をもってしても判別できなかった。
───めぐみは、モーリオンに尋ねた。
「あなた、本当の鈴木征功さんを、弔ったの?」
モーリオンは眉間にしわを寄せた。「何だ、藪から棒に?」その表情を見、答えを聞いたとき、めぐみの表情も曇り、視線には非難めいたものが混ざった。
「なんだその恨みがましい目は? 今さらわびを入れればどうにかなるとでも言うのか? 無駄だ無駄だ、馬鹿馬鹿しい。
あの時代は生き延びることだけが重要だった。死んだ奴に情けをかけている余裕などなかった。
……わかるかね、生まれた場所で差別され、殴られ罵られる苦しみが、戦争で家は焼かれ親も焼かれ、草を喰み泥水をすすって、ウジの湧く死体からものを盗んでやっと生きながらえてきたこの苦しみが!」
「わからないよ」めぐみは即答した。「生まれながらに夢も希望もさえぎられた悲しみが底に流れてることはわかってる。でも、共感したいなんて思わない。あたしたちは、そうして苦しんできた世代の人たちが、その苦しみをわからせないように作り上げた社会の中で生まれたのだもの。───わかりたくもないよ。
今は苦難の歴史やジェネレーションギャップを語りたいんじゃないの。鈴木征功さんが死んだとき、あなたが苦しみから脱け出すために、その人生を奪い取ったことも理解できるの。
だから知りたい。
あなた、本当の鈴木征功さんを弔ったの?」
「どういう意味だ? 情に流される女子供はこれだから困……」
「あたしはイエスかノーかで答えられる質問をしてるのッ!」めぐみはそこにあるすべての音をかき消して叫んだ。モーリオンはすくみ上がった───他愛もないイタズラが見つかって、母親に叱られた子供のように。
「あなたは女子供が嫌いなんじゃない。答えにくい質問をする人が嫌いなだけよ。
そういう質問には、自分の答えられる内容まで話を誘導して、そこから自分の主張をまくし立てて、あたかも最初の質問にも正解して議論に勝ったかのように振る舞って。あなたはそうやって、生き馬の目を抜く世界でのし上がってきたんだ。
あなたは確かに生き延びてきた。不幸な生い立ちの中で、道を切り拓いてきた。それはとても大事だと思うし、強さだと思う。でもその陰で、いったいどれほどの他人を無視し踏みにじってきたの?
自分の理解できないものを悪だと見下して、調べもしないで投げ捨てて、あなたにとって、他人を蹴落とすって、そういうことでしょう」
「たとえそうでも、他人を蹴落として何がいかんのだ。弱者の負け惜しみに耳を貸す気はない!」モーリオンは怖じることなく、自らの哲学を振りかざした。「人間は平等じゃない。優劣は厳然として存在する。劣った者が蹴落とされるのだ。蹴落とされたら這い上がってくればよいのだ。生きている限り人間は何度でもやり直せるのだ。そうやって生きて突き進んで、どんどん経験を積み重ねていけば、人間はさらなる高みへ上る。
死は敗北なのだ。積み上げたものが何もかもゼロになるからな。
女子供が勝てる世界であってはならんのだ。自らの意志で、自らの働きで、年月かけて積み上げたものにこそ価値がある世界でなくてはならんのだ。
俺はクリスタル様に出会って、永遠の命を与えられた。俺は永遠に高みを目指すことができる。この先に何が待っているのか楽しみで楽しみでしかたがない」
「あなたの言っていることは正しいのかもしれない。でも」めぐみはひとつため息をついた。「積み上げてきたその山が、なぜ自分だけの価値だと思うの? お願い、その山を多くの人に分けてあげてほしい。
積み上げたものが自分だけの所有物で、そして死ななければ失われないというのなら、あなたは今すぐ死んで。後生大事にしてる経験のカタマリを、今すぐ投げ出して。あなたみたいな人には、今すぐ死んでもらわなくては困るの!」
叫ぶと同時に、めぐみはスラスタをふかし、一気に前方へと突っ込んでいった。
「なんだとこの、ガキが利いた風なことを……ッ!」モーリオンは激昂し、全砲門を開いた。「返り討ちにしてくれるわ!」
要塞中がまとめて火を噴き、めぐみに砲火が集中する。だが、めぐみの動きの方が一手早く、ほとんどの狙いをかわすとともに、一気にモーリオンの眼前へと躍り出る。
「あなたは子供にとって倒すべき壁。老いとともに若者になぎ倒され、追い落とされるべき存在。そんな人が、不老不死のままこの世に居座るなんて、許さない!」
めぐみは叫んだ。
「Climbing, Yellow Vine!」




