6-13
マグネガンの持続時間はわずかだ。光球は、やがて収縮して消えた。あたしはその間に、クリスタルとゆきのの間に割って入る位置に移動した。
「みずきさん、遅くなってすみません」ゆきのが怒りを収め、ささやき声であたしに話しかけてきた。
「どうしてここに……」
「ここは、ヒマさんの監視ポイントに入っているんです。マスコミが常時カメラを設置している場所は、すべてその映像をジャックして分析にかけているそうです」NHKの街頭カメラかよ! あきれたもんだ。でも、しょせん群衆のあたしが、だからこそ得られた心強い援護だといえるかもしれない。
「めぐみちゃんは委員会の活動、さおりさんはまだ仕事ですが、ふたりともなるべく早く抜け出せるようにすると言ってました。それで私だけ先行して来てます。ヒマさんもフライングローズをこの場所に連れてくると言ってました」
「おまえこそ、部活は」
「今日は休みです。本当は、二日に一度しか活動はないんです。武道場を使える日が決まっているので」そういえばまだ何部か聞いてないな。やっぱ武道系なのか。「それより───やはりこの人は、私たちの救い主などではなく、敵なのですね」
「戦わなくちゃいけないのは、確かだ」
敵かどうかと言われると、まだ正直、クリスタルのことを信じたい気持ちがどこかに残っている。敵に回したくない。
クリスタルは決断できなかったあたしを完全に否定したのに、あたしは、彼の提示した未来……自分も、世界も変革していく未来を、否定できないでいるのだ。今ではない、というだけで。
でも、戦わなくちゃ。あたしが今いちばん欲するものは、ゆきのや、めぐみや、さおりと、心すりあわせる時間だ。ここで倒されてしまったら、それは得られなくなる。
そう強く思えば思うほど、戦士クリスタルの度し難さを感じずにはいられない。彼の持つ武器はどれも強力で、たとえふたりがかりでも勝てるかどうか。でも、やらなきゃならない。
「ここでの最も妥当な戦略は即時撤退です。私たちは、まだ彼に対抗しうる武器を持っていません。……でも、逃がしてくれそうにないですね」ゆきのもまた、緊張した面持ちで言った。「逃がしてくれることを祈って尻尾を巻くか───ヒマさんに何か策があることを祈って、少しでも時間を稼ぐか」
「時間を稼ぐなら、どうする?」
「マグネガンの近くで戦闘できれば、攻性粒子の大技はほぼ封じることができます。でもみずきさんのローズナックル、それからローズイージスも出すだけなら、引力の影響をほぼ受けません。クライミングして接近戦に持ち込んでください、その近くにマグネガンを撃ち込んで援護します」
「OK、それでいこう! Climbing, Red Vine!」あたしはヴァインをまとい、クリスタルに向かって突っ込んだ。
「馬鹿どもが」クリスタルは、ファイヤークリスタルをチャージしてあたしに狙いをつけている。
ゆきのが、あたしの両脇を固めるようにローズマグネガンを二発放った。これでファイヤークリスタルはまっすぐ飛ばない───その間に懐に飛び込む!
あたしは急接近した。クリスタルの体がリーチに入る。攻性粒子をまとせ、拳を二度、三度繰り出す。砲身のチャージはそのままに、クリスタルはその殴打を手のひらで受け止めた。まったく効いていないようだった。
だが確かにクリスタルの大技は封じたか? このまま接近戦を続けていればいつかどこかで勝機が、
……そう思ったとたんに、拳が空を切った。
クリスタルがいない。ワープして消えたのだ。……くそ、逃げるなんて───どこに行った?
「そんなに敗北がお望みなら今すぐくれてやる」クリスタルの声がした。
その声の場所に気づいたとき、あたしは血の気が引く思いがした。彼は逃げたのではなかった。彼は、ゆきのの背後に現れていたのだ。「そのマグネガンという武器がなければ無駄に粘ることもできまい」
動くことすらできぬまま、ゆきのは首をクリスタルにつかみ上げられた。チャージ状態のままの肩の砲身が彼女に向けられる。意図は明白だ。ゆきのの顔が引きつった。
「やめろ!」あたしは踵を返した。脳裏に、ブリッツで彼女を攻撃してしまったときのことが蘇る。痛む、痛む、痛む、ゆきのが傷ついたらあたしも傷つく! あぁ……間に合わない!
───ゆきのは、首をつかまれ、身動きできなくなりながらも、クリスタルに気丈に言い放った。
「えぇ、敗北しましょうとも───でも悔しいです! 勝者であることに、感謝も感動もしない相手に負けるのは……っ!」
「言いたいことはそれだけか───食らいやがれ!」
クリスタルは、たっぷりとチャージしたファイヤークリスタルを、至近距離からゆきのに浴びせた。
あんなの、ゆきのには防げない───目を覆ってしまうあたし、けれど耳に、この声が聞こえてきた。「Climbing, White Vine!」
悲鳴に近かったが、確実にキーワードとして機能し、クライミングによる防性粒子の繭がそこに現れていた。ゆきののヴァイン……完成していたのか! フライングローズでの特訓の賜物か、彼女もヴァインが非常時の防御に使えることを理解していたようだ。
だが、至近距離からのファイヤークリスタルの直撃は、ヴァインの追加防御でも防ぎ切れないすさまじい威力だった。防性粒子の繭は、ヴァインとして彼女の身にまとわれることなく、すべて攻性粒子の中和に費やされた。ついには繭を破り、ホワイトローズ本体を直撃する。
衝撃と痛みに耐えられなかったのか、ゆきのは体の制御を失い、地上へと落ちていく。地上は───スクランブル交差点。そしてあたしたちはロウシールドの中にいる。
人々の行き交う雑踏にゆきのは落ちた。ランダムに動き続ける人波の中、ゆきのの体はピンボールのように弾かれ、もみくちゃにされ、踏みにじられた。




