はじまりはキス
放課後。
付き合っている佐々木唯と待ち合わせの約束をしていた僕は、ファストフードで一人、ジュースを飲んでいた。
「座っていい?」
聞き覚えのある声。それもあまりいい印象のない…。
広本加奈だった。
「なんだよ?」
僕はぶっきらぼうに言った。
加奈は、クラスの中で嫌われものの女子生徒だ。背が高く顔が綺麗。でも性格が最悪!
「いいでしょ?座るくらい」
確かに唯が来るまでは時間がある。
「少しだったらいいよ」
そのとき、不思議な感覚が僕を襲った。
無性に、誰かに触れていたくなったのだ。
何だ、これ?俺、加奈に気があるわけ?
…まさか!
「どうする?」
「…どうする、って?」
「店、出よう」
「う、うん」
僕は加奈に従った。
店の外で、加奈が僕に手を差し出した。
「手、つないで歩こ」
僕はのろのろと、加奈の手に触れた。
彼女に触れると、安心が大きく僕を包んだ。
「行こ」
加奈が歩く。僕は横に並んで、歩きはじめた。
僕は幸福感に包まれた。
加奈と手をつないで街を歩く。
楽しかった。
加奈も笑顔だ。
多分、まわりから見たら、僕らは付き合っているように見えるだろう。
加奈がアクセサリーなんかを眺めて、キャッキャ言ってる。僕も、似合うとか言って、盛り上がっていた。
ベンチ。
手をつないで、二人で座っている。
ふと、加奈が真顔になった。
「なんで私、こんなことしてんだろ…」
慌てて加奈はつないでいた手を離した。
すると急に、僕の幸福感も消えた。なんで、あの大っ嫌いな加奈と…。
「裕二!」
女子の声がした。
唯だ。
「仲よさそう」
「唯。僕もわけがわからないんだ。どうして大っ嫌いな加奈と…」
「そう」
唯は平気な顔だ。
「加奈はどう?」
「…楽しかった。裕二といて」
え?
「じゃあ、二人で仲良くね!」
笑顔で唯が去っていった。
「唯…」
唯がいなくなると、心の中の不思議な感情が戻ってきた。加奈への不思議な感情…。
「ねえ、裕二…」
「なに?」
「キスしよっか?」
僕に迷いはなかった。
「うん」
僕らは何度もキスをした。