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榊原研究室  作者: 青砥緑
第四章 秋(後篇)
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逆襲-3

「最上先生」


 もう一歩も克也の傍を離れなさそうな和男と猿君を残して病室を出た後で犬丸が声をかけた。

「針生さんはどこ行ったんですか」

 3人が騒ぎがあった時に克也の病室にいたことは分かっている。最上が皆を呼びに来て、乙女は病室に残っていた。針生はどこへ行ったのか。

「克也の代わりに何かの薬を打たれた。処置中だ。」

「犯人にですか。」

「当然だ。」

 犬丸はぽかんと最上の顔を見上げていたが、そのまま近くにあったベンチに座り込んだ。

「やばいんですか。」

「分からん。」

 薄暗い病院の廊下で2人はしばらく黙っていた。

「針生さん、運悪そうですよね。」

「あいつ、意外とどんくさいしな。」

「しかし、まさか犯人に注射打たれるって。どんだけどんくさいんですか。」

「ほんとにな。ナイフならまだしも注射くらい避けろってんだ。あの馬鹿たれが。」

 悪態をついた最上はため息をついて、髪をかきあげた。

 針生の様子からいって普通の薬物ではない。細野は事実上現行犯逮捕だ。針生に対する暴行の件だけで確実に警察から出られない。これでトラブルは終りになってくれるといいのだが、全容を解明しないと安心はできない。手に入るピースは全て揃っているようであり、全然足りないようでもある。細野の自供が得られれば全て明らかになるだろうか。



 克也の病室では乙女がぽつりぽつりと先ほど細野がやってきたときの様子を和男に話していた。

「さっき、お医者さんの格好をした人が来たとき、注射をされそうになったら克也が突然叫び出して。『うー』でも『あー』でもないようなすごい声で、ずっと叫んでて。怖かったんでしょう。あんな怯えた表情みたことがない。見ているこっちが怖くなるくらいよ。克也は、注射器を見た瞬間から、怖がってたはずなのに私は気がつかなくて、針生さんが止めなかったら、あの注射を目の前で打たせていたのかと思うと。」

 乙女は言葉に詰まって克也の手を撫でた。

「誰かを守るというのは本当に難しいわね。」

 和男は黙って頷く。

「克也は誘拐されている間にどんなに怖い思いをしたのかしら。」

 乙女は頭から離れない克也の叫び声と怯えた顔を思って克也を布団の上から抱きしめた。

「目が覚めたら、みんな忘れていればいいのに。」

 乙女は小さな声で呟いて、克也の布団に顔をうずめた。


新たな被害者が出てしまいました。ほのぼのコメディーはどこへ行ってしまったのか!!

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