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榊原研究室  作者: 青砥緑
第四章 秋(後篇)
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逆襲-2

 克也の叫び声に廊下から看護師が飛び込んできて一瞬病室の入り口で立ち止まった。叫んでいる患者と、それに向き合う見覚えなのない医師の姿に混乱する。その看護師を押しのけて医師が廊下へ駆けだした。その背中をみて状況をようやく飲み込んだ看護婦が叫んだ。

「誰か!その人捕まえて!」


 病院で走っていて一番目立たないのは実は医者である。医師を装っていた人物は足を引きずりながら走っていく。タバコ休憩から戻る途中に騒ぎを聞きつけた最上は克也の安全を確認すべく階段を駆け上がっている途中で、医師を装っていた男とすれ違ったが一瞬それが不審者と気付かなかった。しかし、踊り場を過ぎて医師の顔が目に入った瞬間にそれが騒ぎの原因だと確信した。すぐに方向転換して階段を駆け下り、男を引きずり倒した。床にのびた男と目があう。

「やっと見つけた。細野さん。」

 そう最上が言うと、男は目を剥いた。最上がそのまま暴れる男をしばらく押さえこんでいると後ろから駆けつけてきた看護師が「この人です!」と叫んで警備員が男を連れ去って行った。


 最上は立ち上がって軽く服を直すと、病院関係者からのお礼の言葉を適当に流して克也の病室へ戻った。病室に入って部屋の脇に避難している乙女の肩を叩くと乙女は飛び上がらんばかりに驚いた。

「何があったんです?」

 叫び声を上げ続ける克也が看護師と医師に押さえつけられている。

「針生さんが。」

「針生?」

 そう言えば克也の枕元にいた針生の姿がない。乙女の視線を追って病室の奥を覗き込むと暴れる克也の隣、床に針生が倒れていた。克也を押さえる医師達の姿で見えなかったが、そちらにも医師が付きっきりになっている。

「通してください。」

 ストレッチャーを押した看護師が飛び込んできて最上は乙女の脇に並んで壁際に避けた。

「どういうことです?」

 すぐに運び出されていく針生は押さえつけられた全身が痙攣している。

 それを見た乙女は唇をかみしめたが、やがて口を開いた。

「お医者さんが入って来て、克也に解熱剤の注射をすると。針生さんがおかしいと言って止めたんです。そうしたら、入ってきたお医者さんが強引に克也に何か打とうとして。でも庇ってくれた針生さんに注射が刺さってしまった。」

 最上は深呼吸すると、目を閉じた。

「医者もどきは捕まえました。足を引きずった中年男でしたね?」

 乙女は驚いたように頷いた。捕まえたと聞いて安心したように少し表情が柔らかくなる。

「下にいる連中に声をかけてくるので、克也をお願いします。」

 最上は乙女に後を任せると病室を後にした。


 最上が1階ロビー付近にいた犬丸、猿君と仮眠をとっていた山城和男に克也が何者かに襲撃を受けたが、犯人は捕まり、克也は無事だと報告した。無事だと言っても全員が走って病室に駆けつけた。最上はそれを見送りながら更に榊原教授に電話をかけて何者かに克也が襲われたと連絡する。教授はすぐに病院へ向かうと言って即座に電話が切れた。


 病室にかけつけた面々は折角開いた瞳をまた閉じてしまった克也をみて息をのんだ。

「鎮静剤で寝ているだけです。じきに目が覚めるそうです。」

 乙女がそう説明すると、和男は縋るように「本当か」と問い返した。乙女は深く頷いた。

「かなりショックを受けていたから、目が覚めた後のことはまだ分からないけど。」

 そう乙女が小さな声で説明すると、和男はため息をついて顔を覆った。

「どうして、この子ばかり。」

 狙われるのは克也ばかりだが、傷つくのは克也だけではない。夏には猿君、数日前には吉野、今日は針生が克也を庇って傷を負っている。猿君と吉野はたまたま一命をとりとめているが十分命に関わる怪我であったし、針生はまだどの程度の負傷かもわからない。しかし項垂れる和男に、最上は針生のことを言い出せなかった。


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