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榊原研究室  作者: 青砥緑
第三章 秋(前篇)
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奪還作戦 榊原教授

 研究室のメンバーが総動員で克也救出活動をする中での榊原教授の役割は、最終責任者兼研究室はいつも通りであることを偽装することであった。作戦が隠密である以上教授は平静の活動を維持しなければならない。夜明け前に黒峰を送りだした後は、克也に関する全権を一旦最上に預けた。そして自分はすでに当日になってしまっている次の授業の準備をして、着替えに一度だけ家に戻った。そして朝から通常通りに出勤し、授業をし、会議に出席した。大木からのメールで作戦決行は昼休みの時間帯にぶつけると連絡があったのでランチオンで予定されていた雑誌のインタビューだけはキャンセルした。そして研究室に戻ると、経過報告を受けて教授室の定位置に落ち着いた。


 榊原研究室の電話は前日からひっきりなしに鳴っていた。切るたびに他の人に会話の内容を説明するのが面倒なのでもうずっとスピーカーホン設定になっている。そして12時30分を少し過ぎた頃に、ついに待ちに待った連絡が入った。克也を取り戻したという猿君からの報告だ。

「猿渡です。克也を救出しました。」

「無事?」

 聞き返した大木に、猿君は最寄りの救急病院の場所を教えてくれと返してきた。大木は条件反射で仙台市内の病院の場所を伝えた。

「誰がどうしたの?」

「克也が高熱で意識不明です。」

 そのまま電話は切れた。電波の悪いエリアに入ったようだ。


 電話が聞こえるように扉を開け離していた教授室から、榊原教授が出てきた。そのまま黙って山城家に電話をかける。今朝から病院に待機するのは山城乙女、家に待機するのは山城和男に交代している。和男に克也を確保したが意識不明で病院に直行させている旨を伝えると、和男は「命は?」と噛みつく勢いで聞き返してきた。榊原教授は静かに「高熱ということしか分かりません」と答えた。和男は病院名を確認するとすぐに駆けつけると言って電話を切った。

 榊原教授は、研究室に待機している3人の学生をぐるりと見回した。

「大木君、最上君と連絡がとれるまで監視カメラ映像は切らないでおくようにね。セキュリティも。事後処理もいつも通りよろしく。針生君、申し訳ないんだが今から病院へ向かってもらえるかね。電車で行って移動中はよく休んでくれ。和男さんはだいぶ動転していたようだから、着いたら江藤君の周りのことを頼む。黒峰君と交代で彼女をこちらに戻してくれ。犬丸君はちょっとこっちに。」

 そう言って犬丸を教授室に呼び寄せて扉を閉めた。


 犬丸が教授室に入ると、榊原教授は大きくため息をついてから顔を上げた。

「吉野さんの車の爆発事故、心当たりがあるね?」

 針生が気がついたことだ。榊原教授ももちろん気が付いていた。克也の件が解決するまで黙っておいたのだ。

「はい」

 犬丸は言い訳する気はなかった。

「これがあれば、爆発の経緯が分かるかね。」

 榊原教授が差し出したのは吉野の携帯電話だった。犬丸は血走った目を瞬かせて携帯を手にとって一通り眺めた。起爆装置用に渡したものだ。

「分かります」

 そう答えると、教授は一つ頷いて「調べてくれ」と指示した。

「今回の爆発を警察がどう処理するかまだわからん。事故で片付かなかったとしても私の何とかできる範囲を超えている。分かるね。まずは警察がやってくる前に自分がしたことの結果をきちんと整理して受け止めるように。もしも、警察が来なかったとしても、次回以降、何をするにしても私と最上君にちゃんと相談するように。約束してもらえるね。」

 そう念を押すと、犬丸は素直に頷いた。

「教授、これ、どうしたんですか。」

 犬丸が携帯電話を示すと、教授はちょっと眉を上げた。

「吉野さんの持ち物を手にとってここに帰ってくるチャンスがあった人物は何人いたと思う?」

「最上先生?」

 病院と研究室両方に出入りしたのは最上と猿君だけだ。榊原教授は無言で肯定した。

 最上は昨夜の時点で吉野の見舞いをした現場で吉野が握りしめていたという煤けた携帯電話とポケットに入った状態のまま病院に運ばれた綺麗な携帯電話の両方を病室で目にした。全く同じものが二つ。少しいじればどちらが本物でどちらがダミーかすぐ分かる。山城和男に見つかる前に回収していた。横にいた猿君もそれは見ていたが最初から最後まで何も言わなかった。犬丸は複雑な思いで教授室を辞した。大木に電話番を頼むとそのまま実験室へ向かった。

 榊原教授は大木、針生といくつか事後処理の打ち合わせをすると慌ただしく午後の授業の為に研究室を後にした。


何とか、今年中に克也を取り返すことができました。

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