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榊原研究室  作者: 青砥緑
第三章 秋(前篇)
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奪還作戦 最上と猿君-3

 猿君はいるだけで目立つ。人のいないエリアにしか活躍の場がない。最上の電話を切ると克也がいると思われる部屋の一番近くの非常扉を蹴破って侵入した。鍵がかかっていたかどうかは問題ではない。開けば同じだ。


 部屋は無人だった。仮眠室となっていたがベッドが一つ、簡単な机とロッカーがあるだけだ。猿君はすぐに廊下に通じる扉を開いた。

 扉の外には黒っぽい服の男が駆けつけてきたところだった。非常口が吹っ飛ぶ音で飛んできたのだろう。

 どうして怪しい奴は黒い服が好きなのか。全身薄いグレーの服に身を包んでいた猿君は他人事ながら不思議に思う。不思議に思うが解決は今でなくてもいい。男が猿君の大きさに圧倒されている間に猿君は男を掴んで一度部屋に戻り、ロッカーに男を押し込んで机で蓋をした。

 もう一度廊下へ戻ろうとするとまた戸口に人影があった。今度は二人だ。ナイフではなく、注射器をもっている。猿君はベッドを持ち上げて盾代わりに構えた。それだけで二人はかなり戦意を喪失したようだ。躊躇う二人をベッドごと廊下の反対側の壁に叩きつけると注射器は虚しく床で砕けた。男達を捨て置いて大木が指定した扉を開ける。野生の勘は、ここに克也がいたはずだと告げている。最初に入った部屋と同じような構造だがベッドに人がいた形跡がある。しかもそれほど大柄でない。しかし、今は誰もいない。ベッドに触れるとほんのり暖かく、しかも湿っていた。汗だとしたらかなりの量だ。熱でも出したのだろうか。

 一度廊下へ戻り、飛ばした部屋の中を確認するが誰もいない。猿君が非常扉を破ってから3人の男を押しのけている間に克也を連れて移動したとしたら、遠くへはいけない。耳を澄ませながら辺り一帯の部屋を確認していくが、人がいた気配がする部屋がいくつかあるだけで人影はない。誰もいないと思って廊下に戻って体の向きを変えるとキュッと床が鳴った。猿君は床を見下ろす。そういえば廊下は音の鳴りやすい塗装がされている。


 猿君はすぐに克也がいたような気がする部屋に戻って床と天井を調べ始めた。廊下を通過して移動したのならあのキュッキュいう足音で気がついていたはずだ。廊下に出ていない可能性がある。

 そして天井に外れる板を発見した。

 自分の重量が心配だが背に腹は代えられない。天井板を跳ね上げると天井裏に上がった。這いつくばらないとならない高さの天井裏スペースには引き上げられた縄梯子がわだかまっており、埃の上に新しい手足の跡があった。天井裏は幸いなことにコンクリートが打ってあった。四つん這いで進んでいくとすぐに小さな扉があった。鍵がかかった鉄の扉だ。立ち上がれば一発で蹴破れるが、かがんでいては全力を込めるのが難しい。猿君の大きさでは方向転換もままならない。ワークパンツのポケットから犬丸印の小型爆弾を取り出した。鍵があるあたりに取り付けてピンを引き抜いて耳を塞ぐと小さな振動が合って埃が巻きあがった。

 そっと目をあけると見事にノブが吹っ飛んでいる。扉は押せば開いた。


 そこからいきなり建物の外に出ていた。三階の窓の廂の上である。手すりも段差もなく、幅は1m弱。全力疾走するにはちょっと狭い。だが、直線の向こうに小柄な人影を脇に抱えて逃げていく男の後ろ姿が見えた。抱えられた人影は無抵抗でゆられており明らかに意識がない。足と靴だけでも視力2.0以上の猿君には克也だと判別できた。猿君は躊躇わず走りだした。男は爆発音で追手に気付いたのだろう。当然走っている。肩が壁にぶつかってしまって走りにくいものの手ぶらの猿君と、肩幅は問題ないが15歳の男子を抱えている男では優劣は歴然としている。男が目指していたと思われる屋内に戻る扉の前で猿君が追い付いた。男の両肩を後ろから掴む。向き直らせれば抱えられている克也が壁に激突する。そのまま反らせると体操選手でなければ無理な角度に差し掛かった当たりで男が悲鳴と共に克也から手を離した。最初から足場の外側に体が出ていた克也は、支えを失って自由落下を始めた。猿君は男を床に叩きつけると克也めがけてダイブした。二人の下に広がっているのはコンクリート敷きの駐車場である。勤務する人間が減ったのでガラガラになった駐車場にはクッションになりそうな車はない。


 猿君は躊躇いなく床を蹴った。


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