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榊原研究室  作者: 青砥緑
第三章 秋(前篇)
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奪還作戦 最上と猿君-2

 大木から映像切り替え成功を知らせるメールが一斉配信されてきたのをうけて猿君は車の荷台に積んであった赤桐のバイクを下ろした。最上も車を降りてきて猿君と建物へ急いだ。


 一足先に受付を門番と同じ口実でクリアした黒峰は用事を済ませて研究設備と一般エリアを隔てる扉の傍で最上がやってくるのを待っていた。ランチタイムに差し掛かり研究設備から食堂へ研究者たちが出て行くのをやり過ごしながら、3人連れで移動する研究者の一人にぶつかってそっとIDカードをくすね取ることも忘れない。


 前髪を下ろしサングラスをして顔を隠した最上が駆けこんできた。受付の女性が慌てて止めても止まらない。ドアの脇で派手に黒峰と激突しながらすれ違う。受付の女性は最上を止めるのに夢中で、内線で警備員に連絡している。最上に建物内の移動を助けるIDカードと円満な退出に必要なビジターカードを受け渡した黒峰は闖入者騒動で騒然とする受付をすり抜けた。受付嬢は黒峰が退出手続きをしていないことにまで気が回らない。黒峰は悠々と車に戻り、上がったままのゲートを通過してそのまま山を下りた。

 IDカードを手に入れた最上は猛スピードで廊下を走り抜け、追ってくる人間を振り切った。万年運動不足の研究者やサンダル履きの受付嬢になど追い付かれはしない。常駐の警備員には軽く肘鉄を入れたが気を失うほどではなかったはずだ。

 誰もついて来ないことを確認して使用されていないとされていた研究室に滑り込んだ。予想通り誰もいない。サングラスを外して部屋を見回すと白衣があった。先に侵入した黒峰が置いて行ってくれたそれを羽織ってIDカードをつける。白衣は黒峰用のサイズなので明らかに小さく、つんつるてんだが研究者の身なりなどこの程度のものだ。IDカードの顔写真が全く自分に似ていないのも、とりあえず男性なので良いことにする。

 そっと部屋を滑り出ると、今度は落ち着いて歩いて大木が言っていた独立セキュリティシステムの電源を求めて移動を始めた。主電源と予備電源を両方落とさなければいけない。主電源の方は簡単に予想が付いた。山は雷が多い。たいがい山間部にある研究設備や工場は一時的な停電や電圧低下に備えて自家発電設備を持っているものだ。見取り図上で確認済みだ。予備電源の方は分からない。一度主電源を落として、予備電源を稼働させて探すことにしていた。

 研究設備というのは白衣さえ着ていれば顔パスなのか、前髪を下ろして顔を半分以上覆ってしまった最上をすれ違う誰も見とがめない。電源管理室はさすがにロックがかかっていたが、試しにIDカードを通してみると開いた。黒峰は随分都合のいい身分の人物のIDカードを取ってくれたようだ。すぐに中に入り込んで配電盤を開いて行く。ここにも鍵がついていたが、アナログなものだったので最上は針金で開けてしまった。若い頃に悪いことばかりしておくのも、役に立つ。電話を繋いで大量に並ぶヒューズの札を読み上げる。電話の向こうには大木がいる。最上には数字の羅列にしか見えない記号も見取り図上の略称と設備名の組み合わせになっているらしい。ついに大木がコールした。

「それです。」

 最上は迷いなくヒューズを落とした。最上のいる環境に何も変化はない。東京でシステムをモニタリングしている大木には変化が見えているらしく「よし」と叫ぶ声が聞こえた。当たりだったらしい。

「これで予備電源が上がるはず。」

 そう大木が言い終わる前に、最上の目の前で今まで消えていたランプが赤く灯った。

「大木、今ZZ99ってあからさまに怪しいNoのランプが点いたぞ」

 激しいタイプ音がする。

「あたりです。それが予備電源です。落としてください。」

 同じところにヒューズを置くなんて危機管理の悪いシステムなんだ、と大木は電話口でブツクサ言っていたが最上は構わず点いたばかりのランプを消して電話を切ると発電室を後にした。これで小うるさいセキュリティは出来る限り黙らせた。

 あとは克也を見つけ出して連れ出すだけだ。ランチタイムが終って研究員が所定の位置についてしまうと不審者は目立つ。13時までに終わらせたい。

 最上は猿君の電話を鳴らした。

「2ダウン。入ってきていいぞ。」


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