表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
榊原研究室  作者: 青砥緑
第三章 秋(前篇)
82/121

奪還作戦 最上と猿君-1

 黒峰がもう一度戻ってきたのは10時近かった。仙台のホテルから研究所までが遠いのだ。移動だけで小一時間かかってしまう。黒峰は元通りの営業スタイルで入ってくると、ベッドの上に見取り図を広げていた最上に確認できた範囲の情報を伝達した。見取り図はガセではない。少なくとも主要な通路と階段、戸口については信用してい良い。電力の供給が生きているエリアは全体の3分の1程度で警備システムだけが全館生きている。大木が克也がいそうだと言った部屋は電力供給の間にあっているエリアの隅の仮眠室だ。周りはもう使用されていない研究設備ばかりで、3つならんだ仮眠室の最奥には非常階段がある。こっそり出入りするには都合が良い。

 今、未知数なのは誘拐犯の人数とどのくらい手荒く抵抗してくるか、そして克也の状態だ。黒峰に見て回れた範囲で見張りが巡回していたり警備員が妙に沢山いたりはしていない。しかし隠れていたのだとしたら分からない。

 最上は見取り図を見ながら、どうやって侵入しかつ退出するか確認していく。作戦を確認し終わると、研究室に連絡を入れて大木にバックアップの指示を出した。

 最後に最上は黒峰と赤桐と猿君を順に見回した。

「なるべくこっそりいくぞ。」

 3人が頷くのをみて満足すると、「じゃ、行くか」と昼ごはんに行くような調子で続けて立ち上がった。3人も無言で立ち上がってついて行く。

 地下の駐車場で黒峰はレンタカーへ戻る。後の3人は犬丸の用意した車に乗り込み赤桐にハンドルを任せた。


 ゲートにつくと、黒峰は窓から顔を出して門番に声をかけた。

「あれ、さっきの」

 運のいいことに門番は先ほどから交代しておらず、黒峰の顔を覚えていた。

「すみません。忘れ物をしちゃって。」

 そういうと二つ返事でゲートを上げてくれた。

 黒峰の車が徐行しながら進んでいく後ろから赤桐の運転する大きな車が進入してくる。後ろにぴったり付いているのでゲートを下ろせない。門番が慌てて車を止めさせると、素直に停止したがそれはゲートの下で、いずれにせよゲートはもう下ろせない。


「許可取ってもらわないと入れないんだよ。どこの会社の人?」

 門番が運転席の赤桐に声をかける。赤桐は困った笑顔で返事をする。

「迷っちゃったみたいで、前の車についてきたらUターンできなくなっちゃったんだけど、ここの中で方向転換だけさせてもらえません?」

 犬丸から借りている車はかなり大きい。確かに田舎道に入ってしまえばUターンはできない。門番は困った顔をしたが、もう頭を突っ込まれてしまっているのだから仕方がない。バックで山道を下れとも言えない。

「しょうがないなあ。すぐ出てってよ。本当はここ私道だから入っちゃいけないんだからね。」

 赤桐は「ありがとうございまーす」というとさっさと車を敷地の中に入れて大回りして頭を門へむけた。そしてそのままゲートを出るかと思ったところで、車の後部から不吉な破裂音と煙が噴き出した。

「きゃっ。やだ。何?」

 赤桐は慌てて車を止める。見守っていた門番も出てきて車の後ろに回り込んだ。濃い灰色の煙が噴き出し続けている。運転席から降りた赤桐が門番の後ろへ回り込んで声をかける。

「やだ、煙?どうしよう。JAF?」

 赤桐は慌てた風を装って門番の老人の背後から覗きこむ。そのまま腕時計を見ると11時50分を過ぎたところだった。12時きっかりに大木が外部の警備会社にモニターされている全ての監視カメラの映像を録画画像に切り替える。後10分、誤魔化しきればカメラはもう気にしなくていい。


 赤桐は一応、工具セットを借りたいと老人を門番小屋へ戻らせ、キットを手にすると車を修理する振りを始めた。元々機械いじりは得意だ。もっともらしい動作で確認していく。時計が11時58分に差し掛かったところで試しにエンジンを吹かしてみると言って運転席に戻った。運転席で時計を見ながら頃合いを見計らって本日2度目の犬丸印の起爆装置のスイッチをいれる。先ほどより派手に煙が噴き上げ監視カメラの映像は一瞬灰色一色になった。段々と煙が薄れ、カメラの映像が戻る頃には何事もなく降りたゲートの映像が映るはずだ。現実には車はまったく動いていない。当然だ。後部の荷台で伏せていた猿君は二回目の煙に紛れて車を降りている。慌てて出てきた門番を後ろから引き寄せると「おじいさんごめんなさい」と思いつつ、首を軽く締め上げて意識を飛ばさせてもらった。それからおじいさんを丁重に門番小屋に安置して扉をしめた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=880018301&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ