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榊原研究室  作者: 青砥緑
第三章 秋(前篇)
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バッド・トリップ

 緑色の光が揺れている。


 古い畳敷きの部屋でうずくまった痩せた男が畳一面に小さな白い何かを並べている。肩がふるえ、時折漏れる嗚咽から泣いているのだと分かる。もう一人小さな子供が泣いている。子供は大きな声で泣いているのに、男はずっと畳に向かったままだ。子供の泣き声で頭痛がする。耳を塞ぎたいのに塞げない。

 いつの間にか立ち上がった男の足元では白い小石のようなものがずらりと並んだ上を緑色の光が揺れている。男はじっと床を見つめている。

 ついに男が振り返り、口を開いた。


「ノゾミ」


 視界が真っ白になった。

 もう子供の泣き声はしない。

 白い視界の上を猛スピードで記憶が上書きしていく。積み上げられた書類。古いPCの画面。黒い長い髪と青白い顔の女と丸い瞳の小柄な男の写真。二人の幸せそうな笑顔。


 麻薬を飲むとバッド・トリップという状態になることがあると犬丸が言っていた。そのとき説明された症状が正にこれだ。克也は自分がバッド・トリップしていると認識した。麻薬など飲んでいないにも関わらず。

 流れる記憶は速度が速すぎて歪んでいる。怯えたような男の顔。飛び起きる人の影。ひどく老けた男の顔。茶色がかった肌色は健康とは程遠い。コーヒーから立ち上る薬品の匂い。

 吐き気が酷い。頭を内側から叩かれているような酷い頭痛がする。のたうち回りたいのに体も動かせない。汗が流れる感触だけが現在の情報としてゆっくりと感じられる。


(もうやめて)


 叫んだのか、声にならなかったのか分からない。

 夏の日に遠いところへ向かってずっと歩いている。じっとり湿っているのにどこか枯れ木のような感触がする男の手。おじいさんの顔が浮かんで消えた。

 記憶の奔流が終わるまで気を失うことはできなかった。やっと暗闇が戻ってきて安心した克也はそのまま意識を手放した。取り戻した記憶の意味を考えるのは目が覚めてからでいい。


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