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榊原研究室  作者: 青砥緑
第三章 秋(前篇)
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教授と秘書-2

 学生と最上は研究室がある建物の中庭にいた。バケツにはこれでもかと使用済みの花火が射しこまれていて、大量の空き缶がビニール袋に詰め込まれている。存分に楽しんだようだ。

 榊原教授と黒峰は片付けと称して残りの花火を一気に燃やしている学生からいくつか花火を分けてもらい、束の間夏の名残りを楽しんだ。全ての花火が燃やしつくされると学生たちはゴミの片付けに散らばって行く。中庭は狭いが、その分片付け易いという利点がある。花火の屑がすべて片付けられ、克也が犬丸の車に乗り込むのを見届けて榊原教授と黒峰はふらついている最上を研究室へ連行した。


 教授室の電気を付けて明るいところで見てみると、最上は予想していたほどひどく酔ってはいないようだった。一気に水を煽って焦げ跡のあるシャツを脱いで酔いを覚まそうとしている。

「だいぶ飲まされましたか。」

 黒峰が水を補給してやりながら聞くと、最上は軽く頭を下げて礼をした。

「ひどいもんだよ、あいつら、まったく。」

 どうやらよってたかって飲まされたようだ。

「珍しいですね。」

 そういうと、最上は苦々しい表情から一気に真顔に戻った。

「地雷を踏んじまったもんで。でも、おかげで隠れていたことが少し見えたかもしれない。」

 最後の一言に榊原教授も興味を示した。続きを促す。

「克也に花火はいつ以来かとか、聞いてたんですよ。幸助さんの家で花火をしたのが花火の最初の記憶だって言うので、変な表現でしょう?最初の記憶であって、初めて花火をした記憶ではないんです。初めて花火をしたときのことを覚えていないみたいなんで、例の開かずのアルバムかって話をしたんですよ。そうしたら克也が言うにはおじいさんの家に来てからのことしか覚えてないと。気になって両親のことは覚えていないのかってきいたら、全く記憶にないって言うんです。そこまでで、克也が黙り込んでしまったんで他の奴らに制裁にあったんですけどね、とにかく、克也は幸助さんの家に来てすぐのことは完璧に覚えているらしいのに、友助さんの記憶が全くないんですよ。」

「ある時点を境に突然、記憶がはじまるということですか。」

 黒峰が確認すると最上は「おそらく」と回答した。学生に割りこまれたので突っ込んで確認したわけではない。

「それは、ちょっと」

 黒峰は黙り込む。克也の記憶は機械のごとく正確である。体験したものは完璧に記憶している。それが、普通の人でも一つや二つの記憶はある4歳児時点の記憶がさっぱりないというのはおかしい。

「幸助さんの家に来てすぐの記憶があるってことは、友助さんと一緒にいた時期の分だけが抜けていることになる。すごくショックなことがあって記憶を自ら封印してしまったか、誰かが催眠術のようなもので記憶を封印したか、事故にでも遭ったか、その位しか可能性は考えられませんね。」

 最上がそういうと二人も同意した。克也には嘘をつく必要がない。本当に覚えていないと考えるのが自然だ。

「ますます、友助君が空白の5年間に何をしていたかが気になるな。」

 黙っている間に刻々と深夜に近づいて行く。

「そちらはどうだったんですか。」

 部屋に冷房が効いてきて最上は一度脱いだシャツを羽織り直して榊原教授に質問する。

「うむ。山城さん達は何も知らないそうだ。一応後日改めて確認することにしたが、江藤幸助からは何も聞いていないと言っていた。友助君の失踪も知らなかった。」

「そうですか。」

 答えがあると思われる方へ向かう全ての道が不自然に途絶えている。その事実が自分たちが進んでいる方向は間違っていないと感じさせた。


「ここから先の進め方は特に慎重を期したいね。S&Kリサーチが恐喝未遂に関係があるということ自体、推論の域を出ない。あまり推論を重ねていっては危険だ。違うアプローチで確認できないか考えよう。」

 榊原教授がすべきことを最上と黒峰に割り振って指示をすると、今日はもう遅いからと3人は解散することにした。


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