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榊原研究室  作者: 青砥緑
第二章 夏
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花火大会-4

「火薬の匂いは郷愁を誘うよね」

 また小休止に入った面々の中で、犬丸が満足げにそう言う。火薬マニアの犬丸が言うとちっとも同意したくないが、花火の匂いが懐かしい夏休みの思い出を呼び戻すのは皆共感できた。

「よし。ノスタルジーに浸るなら線香花火だ。」

 今度は赤桐が線香花火の束を持ち出して来て、倒れている最上を輪の外に放置したまま丸くなって線香花火を垂らす。

「克也はおじいさんと競争した?どっちが長く火の玉を燃やしておけるか。」

 赤桐が聞くと、克也は頷いた。少し前の怒涛の飲みあたりから話の流れについていけず困惑気味だったが、やっと笑みが戻ってきた。

「なんどやってもおじいさんの方が上手で。僕は線香花火が下手なんです。」

「線香花火が下手な人なんて初めて聞いた」

 赤桐は笑って、じゃあ久しぶりに競争してみようかと自分の花火を克也の花火に並べた。二人が花火を見つめているのを見ながら大木が犬丸に小声で声をかける。

「やっぱり花があるとないとで違いますよね、とくに線香花火なんて。」

 言われた犬丸は振り返って控え目な花火の光に照らされる赤桐と克也をみて目を細める。

「赤桐さんも、このくらい照明落として遠くから見りゃ・・・」

 犬丸は皆まで言わなかった。だが、察した大木は黙って頷いた。

 赤桐と克也の線香花火対決はやはり赤桐の方に分があるようだ。

「克也にも少しは苦手なことがないとね。」

 赤桐は連勝に機嫌を良くしていた。

 二人が抜けたむさくるしいメンバーも途中から線香花火対決を始めたが、しんみり眺めることができず積極的に他人の花火を潰しにいくのでやいのやいのと煩い。情緒のないことである。


 小山のように積みあがっていた線香花火を消費している間に最上の携帯がなった。死んだように寝ていた最上は転がったままのんびりと携帯を取り出した。

「最上。ああ、え?もうそんな時間か。おい、お前らー、そろそろ片付けろ。」

 一応起き上がって声をかけて、自分はそのまま芝生に寝転がってしまう。腰をあげた針生がまだ冷えていた水を額に乗せて起こしてやる。

「つめてー。生き返るね。ああ、こうして水を差し出してくれのるが美女だったらどんなにか。」

 目をあけてペットボトルを掴んだ最上は水をがぶ飲みしながらブツブツ言う。針生は呆れた顔でしばらく見下ろしていたが低い声で

「色々足りてないんじゃないですか。頭のねじとか。欲求とか。」

 と言って去って行った。


 最上は指導者の立場にあるものとしていつまでも寝転んでもいられないので片付けるどころか花火を使い尽くそうとしている学生達を追い詰めにかかった。


夏編終了です。

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