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榊原研究室  作者: 青砥緑
第二章 夏
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海辺のラーメン

 昼食は犬丸が克也にラーメンを食べさせると聞かないので皆でラーメンを食べた。やはり海の家のラーメンは妙に美味しい。


「克也はさあ、味も完璧に覚えてるよね。」

 犬丸がラーメンの汁を飲もうと丼に手をかけながら言うと克也は麺をくわえたまま頷いた。

「味の記憶ってすごいよね。」

 言いながらもラーメンのスープを飲み干そうとすると、横から最上に丼を掴む手を阻まれる。それは、そのまま掴みあいに発展した。

「音も匂いもだろ。克也がどういう風に物事を記憶するのかは興味深いな。」

 針生は二人がラーメンどんぶりをひっくり返すのを避けるために、犬丸の丼を遠ざけながら克也の額辺りをみる。

「針生さん、透視でもする気ですか。」

 今度は遠ざけられたラーメンどんぶりを取り戻そうとし、掴みあいの相手を針生にかえて犬丸が絡む。

「俺を何だと思ってんだ、お前は。できるわけないだろう。」

 針生は両手をがっちり犬丸と組みあいつつも呆れ顔だ。

「克也は何か思い出すときってどうするの?」

 針生と犬丸を放置して赤桐がたずねると、克也は首を傾げた。いつも意識していないので良く分からない。

「ほら、じゃあ、例えば昨日のこと。犬丸の別荘についてからのことを思い出そうとすると頭の中はどうなっちゃうの。」

 言われるがままに克也は思い出そうとしてみた。

「玄関を通るところからでいいですか?」

「いいよ。」

 赤桐は身を乗り出している。みんな興味津津だ。針生と犬丸は組みあった手を解くのを忘れている。

「玄関をくぐると、そこで見えたものを全部思い出します。」

 一々確認するまでもなく、克也が全部といえば存在していたもの全部だ。

「音は?」

「聞こえています。でも意識しないと、このときにこの音を聞いたと言う風に一緒にならない。」

 ふむ、と榊原教授も興味深そうだ。

「じゃあ、記憶の中で耳を澄ます感じということかな?」

「そうです。匂いも味も同じです。映像がインデックスで他の情報がそのインデックスにぶら下がっている感じです。」

 なるほどなと思いつつ、針生はさりげなく犬丸の手をほどく。周りのテーブルから矢のような視線が飛んできていた。

「じゃあ時間の感覚はどうなってるんだ。10日前のことっていう場合はどうやって引っ張り出す?」

 最上が無意識に最上の丼に伸ばしてくる犬丸の手を払いながら質問する。

「映像に時間のインデックスはないです。はっきりとした日付の日から遡ったり進めたりします。お正月とか、入学式とか。」

「へえ、本当にアルバムみたいなもんだね。忘れるってことはないの?」

 大木が驚嘆しながら聞く。

「思い出せないことはあります。記憶がアルバムだとすると、そこにあることまでは知っているけど、開けないということはあります。」

「ここまで出かかってるんだけどってやつみたいね。知ってて、すぐにも思い出せそうなのにどうしても掴めないみたいな。」

 大木がそう解釈すると、克也は少し考えるようにした。克也の開けないアルバムは少し感覚が違う。すぐにでも思い出せそうではない。完全に閉じられている。しかし上手に表現できなかった。

「記憶のファイリングシステムが完璧すぎて、中身を忘れてしまった後でも空のアルバムが残るのかもしれないな。それを開けないアルバムと認識するとか。中身を全部捨てたのに空のフォルダが残ってるようなもんかな。」

 最上は大木説に克也が頷かないので、違う解釈をしてみた。

「ああ、そっちの方が近いです。ただ、自分ではフォルダの中身がどのくらいの量か分からないから、空かどうかは分からないですけど。」

「天才は物の忘れ方も違うのか。すごいね。」

 犬丸が満足げに頷く。その両手は昨夜の赤桐の暴行と先ほどまでの最上と針生との次元の低い争いのおかげであちこち赤く腫れている。そしてその手の中には空になった丼があった。それを見つけた最上と針生はテーブルの上を見回して、犬丸が真向かいの克也の丼を強奪したことを発見した。二人はため息をついて自分たちの犬丸の健康を守ろうという努力が徒労に終わった腹いせに両側から犬丸の脚を蹴飛ばした。


わかめラーメン美味しいですよね。

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