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榊原研究室  作者: 青砥緑
第二章 夏
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一夜明けて

 翌朝、目を覚ました克也が見たのは、無事に布団に戻って眠れている大人たちの姿だった。しかも全員ちゃんと着替えている。いつ正気に戻ったのだろうと不思議に思う。山城家では正体をなくすほど酔っぱらう人はいないので、めちゃくちゃに酔った人がどうやって正気を取り戻していくのか興味がわいた。いつか夜通し一緒にいたらその瞬間がみられるかもしれない。


 克也にだいぶ遅れて皆が起きてきて空腹を訴えた。二日酔いで朝食は食べられないだろうと踏んだ犬丸がケータリングを手配しなかったので自炊となる。こういう時に問題なのは、誰に作らせるかだ。面倒だから自分はやりたくないが、安心して任せられる相手が見当たらない。台所の入口でわずかな緊張感が漂った。結局下っ端の猿君と家の持ち主の犬丸という微妙なコンビが朝食係に任命された。最若手の克也は100%使えないので、除外である。

 結果だけ見れば良い人選だったと言える。まっとうな和食が出来上がった。

「美味しいじゃん」

「猿君、美味しいよ。」

 みんなの賛辞をうけて猿君は頭を撫でまわして照れている。その武骨な指で調理したとは思えない完璧な卵焼きだった。

「猿君、意外と器用だったね」

 犬丸も珍しく素直に褒める。犬丸は現場監督だけで殆ど手を出していない。ただメニューを決めたのは犬丸だ。ほっておいたら猿君はどこの国の民族料理かわからない謎の食べ物を作りそうだったのだ。


 食後に、作ってもらったのだから片付けは手伝おうと大木が台所に入ると昨夜の残骸が脇に寄せただけでまるまる残っていた。それを見て、彼は結局一番の貧乏くじを引いてしまったと気が付いた。


 二日目も朝食が終ると浜辺へ降りて行き、また海で遊んで過ごした。今度は猿君と克也に混じって最上と黒峰が水着で海に入ってきたので夏の海で起きるナンパと逆ナンパという光景を克也はまとめて目の当たりにすることができた。合宿による予期せぬ学習効果である。

 赤桐に苛め倒された大木と犬丸はすり傷に塩水がしみると言って海には入りたがらなかった。

 針生は相変わらずマイペースに水泳に没頭している。

 赤桐はスイカ割りがしたいとスイカを探しに行った。

 榊原教授は荷物番をしながら学生達を眺めていた。ときどき、学生じゃない人も眺めていた。


 赤桐がスイカを持って帰ってくると俄かにスイカ割り大会になる。もちろん最初に克也に挑戦させる。

「いい?スイカにこの棒を振りおろして割るの。みんながもっと右とか左とか言ってくれるから、それを聞いてね」

 ルール説明を受けた克也は目隠しをしてその場で数回回った。その後歩き出すと、まったく危なげない足取りでスイカの前まで行って、誰かが右とか左とか言う前にずばんとスイカを直撃した。誰もが呆気にとられている間に、天才はスイカ割りも天才級だということが証明された。遠巻きにみていた観客からもどよめきと拍手が起こった。克也自身としてはスイカ割りの喜びは見いだせなかったが浜辺でスイカを齧るのは良いと思った。

 もう割れるものはないので、スイカをかじりつつ他の大人たちがスイカの代わりにビーチボールを使ってスイカ割りごっこをやってみることにした。先ほどの反省に立って赤桐ができなさそうな奴から指名する。もちろん真っ先に指名された犬丸は期待通りの惨憺たる出来であった。大木は惜しいところまでいったがビーチボールは軽い。傍をかすると動いてしまうので結局叩くところまではいかなかった。最上は水着に目隠しをされた姿が悩殺モノだという全く本題とは関係ない理由で参加を許されなかった。榊原教授は老人とは思えぬ気合いのこもった一撃を振りおろしたが、ビーチボールからは数センチ離れていた。続いて挑戦した猿君は克也の熱い声援でビーチボールを直撃したが、勢い余って破裂させるという失態を演じてこのゲームは強制終了となった。いずれにせよ、残りはあまりやる気がない女性陣とまだ海から帰って来ない針生だけだったのでそれ程問題はなかった。

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