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榊原研究室  作者: 青砥緑
第二章 夏
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合宿の夜-3

 居間に戻ると最上は猿君を蹴っ飛ばして起こし、克也と一緒に部屋に追い立てた。最上自身はまだ騒がしい輪に戻って、手酌で飲み始める。

 猿君と克也は並んで歯を磨いて着替えて布団を敷いた。戻ってきた酔っぱらいに踏まれては敵わないので布団は全部敷いておく。猿君はこういう旅行の醍醐味の一つは夜の内緒話だと思うのだが、大人たちが全くそんな甘酸っぱいイベントに参加できる雰囲気ではないので、克也と大人しく眠りについた。階下では最上が参戦して益々混迷の度合いを深めた地獄絵図が続いていた。


 夜半過ぎ、大人たちの狂乱の夜は落ち着きを見せた。赤桐が寝入って犬丸と大木が解放された。針生のアルコールが分解されつくすと、黒峰との噛み合わない会話も自然と終了した。酔いが喋りながら冷めていくのは最低だと針生は思う。どうしてつぶれるなら意識をなくしてしまえないのか自分の中途半端な酒の強さが憎い。

 学生たちが教授と赤桐を布団へ移動させ、ろれつの怪しい黒峰を部屋へ追い返すと最上は居間から消えていた。夜風に吹かれてタバコ三昧である。


 大木は既に克也と猿君が寝ている部屋にこっそりと戻って大きなカバンからスーパーのビニール袋を取り出した。小声で猿君と克也の名前を呼んでみると、猿君だけが起き上がった。

「あ、起きてた。花火やる?」

 猿君は無言で頷いて、寝入っている克也を見下ろした。あまりによく寝ているので起こすのは可哀相かと思う。巨体をそっと動かして部屋を出て行った。その気になれば100キロはありそうな巨体でも足音もなく移動できるんだ、と大木は静かについてくる猿君の足音がしないことに驚きつつも庭へ向かった。


「おー、御苦労」

 庭では最上が蚊取り線香に火を付けているところだった。

 既に犬丸がバケツに水も用意しており、花火の準備は整っている。

「克也は寝ちゃってるの?」

 犬丸が猿君に質問すると、無言で頷かれた。

「言い出しっぺの赤桐さんも寝ちゃってるし、ちょっと今日は飛ばし過ぎたねえ」

 大木に花火の買い出しを頼んだのは赤桐で、もちろん克也と一緒にみんなでやるつもりだったのだ。花火に移る前にひどい飲み方をしてタイミングを逸してしまった。

「花火なら学校でまたやるだろ。」

 そう言いながら、最上はライターでさっさと自分の花火に火を付けた。実際たいてい夏休み中に一度は学校で花火大会をやっている。皆は最上の花火が消えない内にと慌てて花火を手に取り最上の花火から火を貰う。

「まあ、このメンツで花火ってのもどうかとは思うけどな。」

 輝く緑やピンクの光に照らされる針生、犬丸、大木、猿君の姿をみて最上は複雑そうに付け加えた。確かに、花がないことこの上ない。

「せめて黒峰さんが、正気だったらよかったんだけど。」

 大木は部屋に追い返した黒峰の姿を思い出す。最後は誰かれ構わずしなだれかかってきたので運ぶのが大変だった。

「ああいう乱れ方は二人だけのときにしてもらわんと、うまくもなんともないな。」

 最上は身も蓋もない。

 一同無言で同意を示した。


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