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榊原研究室  作者: 青砥緑
第二章 夏
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海辺の面々-5

 お腹いっぱいになった克也は猿君と一緒に砂浜に転がった。すぐに海に入るとお腹が痛くなると止められたので、とりあえずお昼寝だ。タオル越しでも砂が熱くて体が温まり眠くなる。猿君は目を閉じて胸毛をそよがせている。ふさふさした動きを見ていたら毛布を思い出して克也は試しに頭を乗せてみようと思いついた。乗せてみると猿君の胸板が厚過ぎて首が疲れるし思ったより弾力が無くて気持ちのいいものではなかった。でも心臓の音がして面白くしばらくそのまま頭を乗せているうちに寝入ってしまった。猿君も熟睡である。

 折り重なって眠る二人を隣のパラソルの下から眺めて、止めてやるべきか悩んだ最上は放っておくことにした。ここで自分が出て行ったら確実にゲイの三角関係だと思われる。それは避けたい。目を背けて心の平安を確保する。


 猿君と克也がナンパを諦めた大木と合流して再び海に入りにいった後で、赤桐は周りの海水浴客がざわついているのに気が付いた。見回してみると後ろから榊原教授と黒峰がやってくるところだった。榊原教授は作務衣姿で仙人度を上げているが騒がれるほどのことはない。赤桐も口をポカンと開けてしまったのはその後ろについてくる黒峰のせいである。今日は秘書スタイルはお休みらしく、白いマリリンモンローを彷彿とさせるワンピースに大きなサングラスをかけて日傘をさしている。髪は綺麗に巻いてあり、大きく開いたワンピースの胸元から黒い水着をのぞかせている。

 どこの女優かというスタイルで仙人風の教授と連れだっていると、なんとなくいやらしい。

「これだから、うちの研究室はキワモノ、キワモノ言われんだよ。」

 新たな飲み物を調達していた最上も遠くから二人を目撃し、近づきたくないなあと思った。どうしてみんな普通にしていてくれないのだろう。


「黒峰さん、ちょっと、ちょっと!」

 赤桐は榊原教授を無視して立ちあがると素早く黒峰をキャッチして有無を言わせずワンピースを引っ張って水着のデザインを確認する。目で黒峰をずっと追っていた海辺の男性達にとっては垂涎の行為である。

「わぁ、こういうのどこで買うの?」

 赤桐がたずねると、黒峰はちょっと微笑んで「いただきものですので、分からないです。」と答えた。夜の蝶的な回答である。こんなセクシー水着を贈ってくるのはどこのどいつだ、と思うがその話は後に取っておこうと赤桐は引き下がった。

「赤桐君、他の皆はどうしたかね?」

 榊原教授に聞かれて、赤桐は一瞬彼の存在を完全に忘れていたことに気が付いた。

「えっと、克也と猿君と大木は海のあっちの方で遊んでますよ。最上さんは飲み物調達に行って、犬丸と針生はずっと見てないですけど。」

「ああ、犬丸君は私達を迎えに来てくれたのだよ。今日はもう海には降りて来ないと言っておった。」

 犬丸が海辺でしたことはしばらく砂浜に座ってからラーメンを食したことだけである。

「針生さんなら、本気で泳いでましたよ。監視員に聞けば場所見つけてくれるんじゃないですか。」

 いつのまに上がってきたのか大木戻ってきている。後ろから猿君と克也もやってくる。克也は白いワンピースの黒峰に素直に「綺麗ですね」と言って珍しい笑顔を向けてもらうという僥倖を得た。


 遠くからそっと様子をうかがっていた最上はまっとうな人間はいないのか、と針生を求めて海の方に目をやった。そして陸に向かって猛然と近づいてくる人影を発見した。海上ですれ違う親子連れが怯えた様子で見送っている。海から上がる瞬間もタイムロスしてはいけないのがトライアスロンだ。足のつくところまで来た針生は一気に立ちあがって砂浜に駆けあがった。北島康介スタイルの水着にゴーグルをかけたスキンヘッドが夏の浮かれた海水浴場に駆けあがってくる様はシュールなものがある。周囲の大注目の中、仁王立ちで腕時計のストップウォッチを止めてタイムを確認する針生を見つめて、最上はどうしてうちの研究室の人間はみんな普通にしていてくれないのだろうとため息をついた。

 一歩引いてみれば、そんな彼の背後にも憂い顔の最上を狩ってやろうと狙いを定めている女子の小山ができている。人のことを言えた義理ではない。


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