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榊原研究室  作者: 青砥緑
第二章 夏
37/121

合宿へ行こう-3

 大徳寺家の別荘は海から少し離れた丘の途中にある。ワゴンが車幅ぎりぎりの細い林道を抜けて大きな門をくぐると二階建ての純和風の家屋が現れた。4人と荷物を下ろした車はどこへともなく去っていく。


「じゃ、入って入って。」

 犬丸が引き戸になっている玄関を開けると、妙に広い玄関スペースに巨大な衝立が鎮座していた。家の大きさに比べて異常な広さに大木と針生が茫然としている脇を克也はトコトコと通り抜けて家に上がっていく。残された二人は顔を見合わせてから、金持ちの考えることは分からんと思いつつ克也に続いて家にあがった。


 宿泊スペースは2階にあって、階段を上ると旅館のように和室が並んでいた。

「うーんと、部屋が4つだから、先生部屋と女子部屋とあと僕らで二つだね。先生たちと赤桐さん達は二人ずつだから狭い方で我慢してもらおう。」

 犬丸はスターンと襖を明け放つと10畳はありそうな広い和室が現れた。そのまま中に入って行って、もうひとつ襖を開けると同じくらい広い和室が現れた。

「じゃ、ぼくらはここね。荷物下ろしたら適当に家のなか探検してて。トイレは1階と2階に1個ずつしかないけど。」

 犬丸はそそくさと出て行くと他の部屋もスターン、スターンと襖を開けはなって換気を始めた。大木は案内された部屋の窓ガラスを開けて空気を入れた。すこし海から離れていても潮風が入ってくる。克也は大きな和室が珍しいのか部屋をうろうろと歩き回っている。

「あ、海見えますね」

 窓から首を突き出した大木が言うので針生と克也もつられて窓の外に顔を出した。木々の向こうに少しだけ光を反射している海が見える。

「向こうの部屋の方が良く見えそうだな。」

 針生は遠慮なく先生部屋に指定された部屋へ入って行く。確かに角部屋になっているその部屋からは海が良く見えた。床の間がついており、花が活けられている。ちゃんと誰かが家の手入れをして客を迎える用意をしてくれていたようだ。

 一同は一階の台所や、なぜか磯野家風の居間、謎の置物が大量に鎮座する応接間などを探検していった。友達の家を訪ねたこともない克也にとって知らない家を隅々まで見て回るのはちょっとした冒険だった。比較対象のない克也にはこの家の異常さは全く分からないかったが、特に広い風呂は是非入ってみたいと思った。針生と大木がいうには「ちょっとした銭湯」くらいの広さらしい。


 トイレまで全部の部屋を見終わって、ちゃぶ台の前に落ち着きお茶など飲んでいるとビーッという電子音が響き渡った。

「誰かきた」

 犬丸が立ちあがって廊下の日めくりカレンダーを全部めくると、その裏側に隠れていたモニターに門の外の様子が映っていた。黒いスポーツカーが止まっている。

「最上先生だ。」

 犬丸はリモコンで門を開けると玄関に出迎えに行った。

「なんでモニターの上にカレンダーなんてかけるんだ。邪魔じゃないのか。」

 針生は意味が分からないと思ったが、スパイおたくの琴線に触れるものがあったようだ。大木は早速立ちあがって日めくりの裏のモニターをのぞいて喜んでいる。

「あー、ちょっといじっちゃダメだよ。若い衆が飛んできちゃうよ。」

 犬丸が不穏なことを言いながら大木を押しのけて居間に帰ってきた。大徳寺家のセキュリティシステムは人手に頼っているらしい。その後ろから最上が入ってくる。暑い盛りなのでいつものスーツ姿ではなくアロハシャツにジーンズだ。学校では夏もスーツスタイルを貫いているので非常に新鮮味がある。

「先生、必要以上に若く見えますね。」

「そうか?いつも若いぞ。」

 最上は針生の感想に軽口を返すと、犬丸に呼ばれて2階へあがって行った。後ろ姿が和風の家から非常に浮いている。風来坊が帰宅してきたという感じだ。

 最上が少し頭を下げて鴨居をくぐるのをみて、これからやってくる猿君が、これから何回頭をぶつけるかと針生は少し心配になった。


大徳寺家別荘の応接間には木彫りの熊や、動物のはく製があります。

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