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榊原研究室  作者: 青砥緑
第一章 春
23/121

榊原探偵団の推理-1

大木と犬丸編。

「なるほど、分かった。」

 最上は冷静さを取り戻してから猿君から事情を聞いた。時折、横にいる克也にも内容を確認する。一番遅れて駆けつけてきた大木を含めて全員で話を聞き終り黙り込む。

 話が途切れるのを待って、山城乙女は一旦克也を連れて席を外した。家で待っている吉野や和男に克也の声を聞かせて安心させてあげなければならない。


 二人が出ていくと、学生たちは克也の前では言い出しにくかった推論を展開し始めた。

「今回のって、誘拐未遂ってことになるんでしょうか。猿君に阻止されなければ克也を連れ去っていた可能性が高いですよね。」

 大木は確かめるように口にする。

「犯人が克也の価値を正しく理解しているのなら、どうして今の克也を誘拐しようとする人間がいるのか分かりません。」

 最上は目で続きを促す。

「克也は確かに天才だと思います。あの驚異的な記憶力と実験における閃きっていうんですか?末恐ろしいと思いますけど、今の時点で完結した研究は高校時代の全て公開済みの基礎実験だけでしょう。今の克也を誘拐しても、これから必要な情報を与えて研究を完成させるまで克也を監禁しておくなんて無駄が多過ぎる気がしませんか。逃亡や誰かに嗅ぎつけられるリスクをとってまで誘拐しなくても、学校にいれば克也は放っておいても研究を続けるんだから、成果が出た後で成果だけを取りに来る方がずっと効率がいいと思いますけど。」

 最上は組んでいた両手を解くと、背後の壁に大きく寄りかかった。

「大木、そうするとお前はどっかの企業かなんかが研究をさせるために克也を誘拐しようとしたと思うんだな。」

 他に克也を誘拐する必要性のある人がいるとは思えないと大木は肯定した。原子レベルの研究成果は一般市民にすぐに利益をもたらすようなものではない。

「悪の秘密結社が天才研究者を監禁か。お前はスパイ映画の見過ぎだな。現実世界にそんなもんねえよ。」

 ピシャリと言い放たれて大木は悲しい顔をする。それを見ながら最上は本当に嫌そうな顔で続けて言う。

「と、言いたいところだが相手が克也だとありえるから性質が悪いな。」

「悪の秘密結社ですか。」

 針生が呆れたように口を挟む。

「そりゃ世の中にそういう名前の結社はねえよ。お前らなんで克也がうちの大学にいるのか不思議に思ったことない?」

 3人とも特にないという顔をしたので、最上はふうんと息を吐き出した。

「あいつの能力はどうみてもワールドレベルだろうが。大学っつったらアメリカ当たりから引き合いが来たはずだと思わねえの?」

 そう言われてみれば、辞書でもすぐに暗記できそうな克也の記憶力があれば言語の違いなど問題にならない。どの国の学校に進学しても良かったはずだ。

「あいつを日本から出さないのは国策なの。あの才能を最も求めてる人間から守るのに都合が良いから。」

「求めている人ってのが悪の秘密結社ですか」

 大木が問いかけると最上は頷いた。

「いい機会だから教えてやろうか。悪の秘密結社はな、現実世界では国防という名前を名乗っているんだよ。」

 なるほど、と一同は納得する。克也の能力を軍事目的に伸ばしたくなる人間は当然いるだろう。そういう人間にしてみれば、ちんたら大学など通わせておくのは時間の無駄に思えるかもしれない。


「でもさー。」

 犬丸が戸口付近に寄りかかりながら口を挟む。

「そんな大物が絡んでるにしては、この顛末は恐ろしくお粗末じゃないですか?」

 最上も苦笑いして頷いた。

「確かに克也を狙う人間のリストに悪の秘密結社の名前はあるが、今回はそこまでの大物は噛んでないだろうな。」

 大木の疑問はかろうじて説明可能な仮説が否定されたことで暗礁に乗り上げた。



 大木説が途切れた沈黙を破って犬丸が壁に寄りかかったまま声を上げた。

「克也が天才だから誘拐されそうになったっていう前提がそもそも間違いなんじゃないの。一応まだ子供だし、体も15歳にしては小柄だし普通の子供の誘拐だと思ったら、少しは意味がわかる気がするけど。」

 研究室に居る人間にしてみれば驚異の速度で新しいことを学び覚え、予想もつかなかった応用までこなす克也を日々見ているので克也自身の価値がクローズアップされてしまうが、克也は天才であると同時に子供だ。

「子供を誘拐って身代金目的か。それなら小学校に行った方がいいんじゃないのか。その目的で大学にくるのは納得行かないな。」

 針生が正論で反論する。

「まあねえ。でも克也ってそこそこ儲けてる会社の息子だし、なんせ有名な天才だし、身代金がっぽりって思えば悪いターゲットじゃないと思いますよ。」

 犬丸が身代金目的説を推すと、赤桐が驚いたような顔をする。

「克也って社長の息子なの?」

「あれ?これって秘密にしてた方が良かったかな。最上先生?」

 犬丸が問いかけると、最上は苦笑して首を横に振った。

「ちょっと検索かければネットでも分かる話しだ、別に構わん。」

「そっか、そうですよね。克也はねえ、山城酒店っていうソコソコな酒屋さんの社長さんの子供なの。さっきの乙女さんが社長さんね。その会社もまあまあいい商売してるんだけど、バックにもっと大きい造り酒屋がついてて、酒造業界では有名なお店だよ。当然大金持ち。」

 赤桐は「へえ」と言って知っていたか、というつもりで針生と大木の方をみる。針生は首を横に振って初耳だと示した。さすがにスパイ志望の大木はそのくらいの背景は知っていたようだ。

「そっち狙いなら、あえての克也狙いで、結構浅はかな人達が来ちゃったってのも分からなくはないかなあ。」

 悪の秘密結社よりは現実的で説得力がある仮説だが、これはこれでお金が欲しい誰もが容疑者になりえるので、それ以上先へは推理が進まず暗礁に乗り上げた。

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