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榊原研究室  作者: 青砥緑
第一章 春
19/121

江藤克也の独白

 おじいさんの家は学校から遠かった。だから学校に通っている間、僕は学校に住んだ。

 おじいさんの家には春と夏と冬のお休みにだけ帰る。おじいさんはいつも車で学校まで迎えに来てくれて、僕は学校での出来事を話しながら家まで帰った。おじいさんは毎回「お友達はできたか」と聞いたけど、僕にはどうしたら誰かとお友達になれるのか分からない。「できない」と答えるたびに、少し悲しそうに「そうか、次の学期はできるといいな」と言われた。でもおじいさんが生きている間にお友達はできなかった。教室に居る間は勉強をしているし、休み時間は特別教室への移動のために先生が迎えにきた。学校が終って寮に帰ったら、部屋には自分一人しかいない。どうしたら友達ができるのか、どういうのが友達なのか分からなかった。


 山城のお家に来たのは10歳の時だ。それからも1年だけ同じ学校に通った。今度は和おじさんや吉野さんが迎えに来てくれるようになった。和おじさんは「お友達はできたか」とは聞かなかった。僕の話を聞くより、和おじさんが話す方が多かった。いつも休みの間にどこに行こうかという話ばかりしていた。学校以外のほとんどの場所は和おじさんが連れて行ってくれるまで行ったことがなかった。動物園、水族館、大きな図書館、プラネタリウム、植物園、海。乙女さんと吉野さんはスーパーやデパートの買い物に僕を連れて行った。おじいさんと一緒に買い物にいったお店よりずっと大きなお店ばかりだった。

 ずっと通っていた学校を卒業して僕は高校に進むことになった。高校へは山城のお家から毎日車で通った。吉野さんが毎日お夕飯のおかずの話をしながら送ってくれた。これまでいた学校は大きな子供から小さな子供まで色んな子がいたけど、高校は大きな人しかいなかった。分からないことが沢山あって近くにいた人に聞いてみたけど、ちゃんとした答えはもらえなかった。何度か聞いてみて、答えてもらえないんだと分かったからその後はもう聞かなかった。聞かなくても、見ていてだいたい分かってきたし。たくさん人が周りにいて、ずっとザワザワしていることだけが、落ち着かなくて最後まで苦手だった。


 大学に入ると周りは皆大人だった。やっぱりザワザワしているけど、僕は好きなようにそこから逃げ出すことができた。席を変わっても怒られなかった。高校よりも毎日が楽だった。

 3年目になって研究室に入るのだと言われた。それが何だか良く分からないまま、教えてもらった部屋に入ったら大人の人が何人かいる普通の部屋だった。僕より後に今まで見た中で一番大きな人が入ってきた。それが猿君だった。初めて会った日に猿君は何でも聞いていいよと言ってくれたので、質問したら、本当になんでも分かるまで答えてくれた。猿君が困ってしまっても、そばにいる誰かが教えてくれた。研究室というところに来てやっと不思議に思うことを全部聞けるようになった。皆からも質問された。そうやって、いろんな話をしていたら友達のことを思い出したから友達の作り方も猿君に聞いてみた。

「俺と克也が仲良くなったみたいにすればいいんだよ」

 と言ったから、猿君と出会ったところから全部思い出してみたけど、出会ったらすぐにリンゴを差し出してくれる人なんて他にもいるのかと不思議に思った。


 おじいさんに、お友達ができたよって言ったらなんて返事をしただろう。

 猿君にも聞いてみたら、「良かったね」って言ったと思うと言っていた。

 僕もそう言ってくれると思う。今だったらいつもおじいさんが「お友達はできたか」って聞いたのも、僕ができなかったと言ったら悲しそうだったのも理由が分かる。

 お友達がいると毎日とても楽しい。


次話からちょっとシリアスめいてきます。

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