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榊原研究室  作者: 青砥緑
第一章 春
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運動会をしよう-5

 続いて、在り合わせの道具をならべて障害物競走が始まった。

 今度は全員横一列に並んで一斉にスタートである。

 最初の障害フラフープくぐりは猿君が大いに苦戦した他は足の速い順に順当に通過していく。次の飛び箱では最後尾で走っていた犬丸が脱落。テニス用のネットを並べたネットくぐりでは、克也の小柄な体格が活かされ、あっという間に前にいた最上、大木、針生を抜き去った。克也はそのまま最後の障害、ハードルくぐりもするりと通過し、堂々の一位でゴールした。追いすがっていた大木がハードルに肩を強打したのを見てペースをぐっと落としていた最上と針生は克也がゴールしたところで走るのを止めてしまったし、猿君はフラフープに絡まったまま、犬丸は飛び箱に着席してしまったまま、ハードルに激突してのたうち回っていた大木は転がったまま、やはりそれ以上走らなかったので2位以下の順位は不明となった。


 最後に赤桐がどこからか綱引きの綱を引っ張り出してきた。

「じゃあ、克也チームは猿君と針生さん、最上先生チームは犬丸と大木ね。」

 適当に二組に分けられて綱を握る。

「いいか、克也。綱引きってのはな、こう両手で綱を握って腰を落としてだな、体を後ろに倒して足を踏ん張って目一杯綱を引っ張るんだ。」

 綱引き初心者の克也に猿君が要領を説明すると、克也は神妙に頷いた。

「さあ、準備はいい?よし、はっけよーい、残った!」

 赤桐の掛け声は完全に間違っているが構わず綱引きが開始される。

 一般的に綱引きとは、猿君の言う通り体を大きく倒して足を踏ん張り、引っ張り合う競技のはずだが、開始後すぐに最上チームは全員前のめりになってしまった。足を踏ん張る暇もなくずるずると引きずられる。

「ストーップ!ストップ、おしまい!克也チームの勝ち!」

 ぞっとするほどの圧勝である。猿君はきつねにつままれたようになっている克也を放り投げて喜びを表現した。一方、顔から引きずられんばかりに引かれた最上が座り込んだまま声を上げる。

「ちょっと待て。そっちは克也がいるってのに、この大差はどういうことだ。」

 同じくへたり込んでいた大木もじっとりと猿君を見上げる。

「この勝負は克也チームの勝ちでいいけど、番外編で力比べをしましょうよ。」

 引きずられそうになった時点で綱から手を離してしまっていた犬丸が遠くで「えー」と抗議の声をあげたが、同時「いいね」と叫んだ赤桐の声で打ち消された。


 明らかにラスボスの気配を漂わせている猿君を後回しにして、克也対犬丸から対戦を始めた。

「はい、はっけよーい、残った!」

 相変わらず、掛け声は間違っているが引き続き誰もそれは指摘しない。

 第一組の対戦はかろうじて大人の体面をたもって犬丸が勝利した。腕力と言うよりも、今日が初綱引きという克也に比べて、20年ぶりとはいってもこの競技への慣れがあったのが良かったのかもしれない。

 次の組で針生と犬丸が対戦し、これも意外といい勝負になった。しかし、2連戦になった犬丸の握力がもたずに針生が辛勝した。

「これ、連戦になる方が不利に決まってるじゃないですか。」

 まるまるとした頬をさらに膨らませて犬丸が文句を言ったが、赤桐の「勝ち抜き戦ってそういうもんじゃない?」という言葉であっさりと一蹴された。

 しかし、犬丸の指摘が正しいことを証明するように針生対大木では、大木が、大木対最上では最上が、最上対猿君では猿君が勝利した。

「なんとなく納得いかないな。」

 大木は腕組みをして、猿君をしばらく見つめた後で「じゃあ」とその他のメンバーを振り返った。

「念のため、猿君対みんなっていうのやってみましょうか。」

 5対1である。これなら猿君に勝てるかもしれない。大木はその可能性は少なくないと思った。

「なんか結果、見えてる気がするけどー?」

「とりあえずやってみましょうよ。」

 犬丸の重い腰を上げさせて猿君対その他みんなで綱引きをしてみる。

 結果は、大木の期待を裏切って危なげなく猿君が勝利した。決して本気で引いているようには見えないのにも関わらず、相変わらず全員を引きずりまわさんばかりの勢いであった。

「この太い腕は伊達じゃないわけね。」

 力比べに負けることがよほど悔しいのか、大木は非常に残念そうに猿君の棍棒のような二の腕を叩いたが、さすがにもう打つ手もなく渋々ながら最終種目、綱引きの終了に同意した。



 それぞれの意外だったり、意外じゃなかったりする特技を明らかにして第一回榊原研究室運動会のプログラムは無事終了した。

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