1-3 市井にいってみよう
今日もお読みいただきありがとうございます。
日間ランキングにも入ってきていて驚いています。
お礼も兼ねまして、本日も3話投稿します。
目標は決まった。
――痩せて、綺麗になる。
――でも、それは隠す。
――そして婚約破棄。
最終的には、ゆうゆうお気楽平民ライフ。
完璧。
目標が決まった私は、
運動するための服やコスプレをするときに必要な道具などを見るために、
市井に行ってみることにした。
私はすぐにメグに声をかけた。
「市井に行きたいの。」
案の定、即却下。
「危険です! お嬢様がそのような場所に……!」
まあ、そうなるわよね。
「じゃあ、私が貴族に見えなければいいんでしょう?」
にっこり笑って言うと、メグは固まった。
「平民の男の子の服、用意してくれる? サイズは私が着られるくらいで。」
しばらく悩んだ末、メグはしぶしぶ頷いた。
その間に――準備開始。
鏡の前に立つ。
「久しぶりね、この感覚。」
前世で何度もやった。
“別人になる”作業。
髪をまとめて、布の中に押し込む。
顔の輪郭を少し変え、陰影を入れる。
肌はくすませて、日に焼けたように。
目元はきつめにして、印象を引き締める。
――完成。
そこにいたのは、どこにでもいそうな太った少年だった。
「……うん、いける。」
タイミングよく戻ってきたメグが、目を見開く。
「お嬢様……? 本当に別人です……」
やった。
でもまだよ。
服を借りて着替えると、さらにそれらしくなる。
少し大きい服をだらしなく着る。
これも演出のうち。
「完璧。」
思わず小さく呟いた。
どうにかメグを説得し、
市井の入り口まで馬車で行き、すぐ戻る約束で外出許可をもらった。
――そして。
初めての市井。
空気が違う。
焼きたてのパンの匂い。
人の声。
ざわざわとした活気。
「……すごい。」
思わず見入る。
だけど――
「はぁ……っ」
少し歩いただけで、息が上がる。
この体、本当にどうにかしないと。
そう思った時だった。
人だかりが見えた。
びしょぬれになった男の人たちが大声で騒いでいる。
なんだろう?
気になった私は、人ごみをかき分け見えるところまで出てみた。
なんと、そこにはおぼれて息をしていない男の人が横たわっている。
え。死んじゃってる?
「大丈夫か?しっかりしろ。死なないでくれ!」
それなのに、周りの人はただ集まって大声で声をかけているだけ
――まずい。
「どいて!」
反射的に、一番近くにいた金髪の男を押しのける。
驚いた顔が一瞬見えたけど、構っていられない。
私は倒れている男のそばに膝をついた。
呼吸なし。
脈……分からないほど弱い。
やるしかない。
まずは、気道確保。
そして胸の上に手を重ねて――
腕を垂直にして何度も押す。
「……っ!」
反応がない。
もう一度。
押す。
押す。
押す。
・・・
周囲のざわめきが遠くなる。
額から汗が流れる。
――お願い。
戻って。
どのくらい続けただろうか?
腕がしびれてきた。
息が上がる。
「交代する。」
金髪の男が声をかけてきた。
場所を交代した。
私は呼吸を確認する。
そして――
「……っ、がはっ」
男がようやく息を吐き出した。
「……生きてる!」
どよめきが起こった。
空気が一気に変わる。
力が抜けた。
「……よかった」
小さく呟く。
でも、目立つのはまずい。
今はまだ、ただの“平民の少年”でいい。
みんなが喜びに沸いているそのすきに
そのまま立ち上がり――
私は、人混みに紛れてその場を離れた。
息を吹き返した友人を見届けみんなと喜び合ったあと、
金髪の男は、必死に周囲を見回していた。
「……どこだ」
確かに見た。
不自然なほど冷静で、
迷いなく動いた、あの少年。
だが――
どこにもいない。
「……いったい誰なんだ」
小さく呟く。
一方その頃、私は――
「つ、疲れた……」
屋敷に戻り、ぐったりしていた。
何も買えなかった。
でも――
「まずは体力ね……」
すべては、そこから。
そう決意した私を、
離れた場所から見ている視線に――
私はまだ、気づいていなかった。




