プロローグ コスプレイヤーの私
本日より新しいお話を投稿します。
お楽しみいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
「やったーーーとうとうカイト様としてのコミケデビューだ!!」
胸が弾む。
鏡の中にいるのは、もう”私”じゃない。
ずっと憧れて、研究して、細部までこだわりぬいたーーカイト様、その人だ。
私は、女子大に通いながらコスプレイヤーとして活動している。
小さいころから厳格な両親に育てられ、
失敗しないように、間違えないようにと、
石橋をたたいて渡る人生だった。
だからだろうか。
高校生の頃、初めてコスプレの世界を知った時ーー
心が爆発した。
好きなものを好きと言っていい。
なりたいものになっていい。
そんな当たり前のことが、
どうしようもなく嬉しかった。
それ以来、私は二人になった。
まじめで優等生の”私”と、
好きに生きるコスプレイヤーの”私”。
今日は、もう一人の私が、
今一番の推しのカイト様として舞台に立つ日だ。
寝不足なんて関係ない
この日のために、私の全部を注いできた。
衣装よし。メイクよし。小道具よし。
私は会場の一角に立つ。
視線を感じる。
けれど、もう怖くない。
私はカイト様だ。
ゆっくりと剣を構える。
その瞬間ーーー
閃光が、世界を塗りつぶした。
ピカッ!
遅れて、轟音がたたきつけられる。
違う。
これは遠くじゃない。
ーー近い。
ーーいや。
“私に落ちた”
そう思った瞬間、意識が途切れた。
◇
気がつくと、私は立っていた。
同じ場所に。
同じ衣装のまま。
「あれ・・・・?」
さっきまで、何していたんだっけ。
胸の奥がざわつく。
大事な何かを、丸ごと失ってしまったような感覚。
視線が痛い。
周りの人が、こちらを見ている。
ーーどうして?
ふと自分の格好が目に入る。
「なにこれ・・・・」
思わず顔が熱くなる。
こんな派手で、現実離れした衣装。
まるでーー中二病みたいで、恥ずかしい。
「私、どうしてこんなの着てるの・・・・・?」
記憶を探る。
けれど、分からない。
何か、大切な理由があったはずなのに。
どうしても思い出せない。
「・・・カイト様?」
口に出してみる。
けれど、その名前はーー
何も思い浮かばない。
感情も、思い出も。
ーー誰?
ぞくりと背筋が冷えた。
好きだったはずのものが、
全部、他人のものみたいに遠い。
ここにいるのに、
“私”だけが、どこかに置いていかれている。
怖い。
けれど、それが何なのかもわからない。
「・・・とりあえず、帰ろう」
これ以上ここにいるのが耐えられなくて、
私は逃げるように会場を後にした。
その日、私は――
“好きだったもの”を、すべて失った。
そしてそれが、
この先の運命の始まりだった。
本日あと2話投稿予定です。
もし、よろしかったら、「悪役令嬢に転生したので破滅回避していたら、冷徹な王太子に溺愛されて結婚しました」も合わせましてご覧ください。
こちらは、もう少しで完結になります。




