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愛の代償  作者: 若狭巴


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10/10

シレネの過ち


「第二皇女エリカ・ロエム・オルメタ殿下、マルベリー・ガランサス卿のご入場です」


侍従が二人の到着を大きな声で知らせると、今日の主役から一斉に視線は二人へと移った。


エリカはまるで自分が今日の主役だと主張する格好をしていた。


いや、それだけならまだいい。


エリカはマルベリー・ガランサスの瞳と同じ真っ赤なドレスを身に纏って登場したのだ。


マルベリーにエスコートされて。


「あの女!」


ロベリアの傍にいたシレネはこれ以上ない侮辱を受けたと言わんばかりに、睨みつけた。


今にも飛び掛かりそうな勢いだったが、ロベリアに腕を掴まれてそれは叶わなかった。


振り払おうと思えばできたが、あまりにも引き留める手が弱弱しくて、無理に引き離すことができなかった。


シレネは姉であるロベリアに「大丈夫か」と声をかけようとしてやめた。


いや、できなかったというほうが正しい。


ロベリアの目は真っ赤なドレスを着たあの女よりも、激しい怒りで燃えているかのような目をしていた。


ロベリアは愛する婚約者の隣で美しく優雅に、それでいて幸せだと言わんばかりの笑みを向けている女に腸が煮えくり返った。


その場所は本来、私のものなのよ!彼に、その汚らわしい手で触らないで!


できることならロベリアはそう叫んでやりたかった。


だが、そんなことができるわけもなく、ただ必死に耐えるしかなかった。


七年間、そうしてきたように。


圧倒的美を醸し出すエリカにロベリアはその顔をズタズタにしてやりたいと思いながら、近づいてくる二人に笑みを浮かべた。


ロベリアの唯一の救いは、マルベリーの服装が皇室近衛隊の礼服に身を包んでいるということだった。


それは彼女のパートナーではなく、専属騎士として隣に立っているという証拠だから。




「二十二歳のお誕生日おめでとうございます。お姉様。こちらは私からの贈り物です」


エリカは指で侍女に指示を出すと、三つの箱を持ってこさせた。


大きさは、大、中、小、とバラバラだ。


「この中から好きなものをお一つお選びください」


「なっ!」


あまりにも無礼な態度にシレネはとうとう怒りが爆発しそうになるが、マルベリーと目が合い、大人しく引きさがった。


いや、下がるしかなかった。


一度だけシレネはエリカが一人になっているときに、彼女に暴行したことがある。


シレネは当時、十四歳。エリカは十三歳だった。


若気の至りというには、あまりにもことが大きくなりすぎた。


そのせいで、シレネはロベリアに平手打ちを食らった。


「あなたのせいで、マルベリーが拷問部屋で罰を受けているわ!」


シレネは生まれて初めて姉に軽蔑の眼差しを向けられた。


理由を聞いたら、マルベリーが専属騎士でありながらその職務を全うすることができなかったからだと。


専属騎士でありながら、傍を離れたため職務怠慢として、大人でも耐えられない罰を受けている。


シレネは皇帝にマルベリーを解放するように頼んだが、それを受け入れてもらえなかった。


エリカを襲ったのは自分だから、マルベリーは皇族である俺の命令で動けなかっただけだ、と最後だけ嘘を言ったが、それ以外はすべて真実を言ったのに、皇帝は「嘘をついてまであの男を助けたいのか」と凍てつくほどの冷たい目でそう言い放った。


シレネは皇帝が何を言っているのか理解できなかった。


なぜ、本当のことを言ったのに嘘だと決めつけるのか。


これまで父親でありながら、その責務を果たしてこなかった男を理解できたこともしようと思ったこともないが、今回だけは本当に理解することができなかった。


(何を言っているんだ。こいつは)


まるで言葉が通じない獣だと、目の前の男に対してシレネは思った。


「エリカが言った。自分を襲ったのは知らない男だったとな」


「陛下!ちがっ……!」


「くどい!」


シレネはもう一度自分がやったと言いたかったが、皇帝の威圧的な言葉のせいで、それ以上は何も言えなくなった。

「話が以上なら出て行け。心配せずとも殺しはせぬ。


シレネは皇帝の言葉にホッとした。


だが、小さな声で言った言葉が聞こえた瞬間、ゾッとして振り返ってしまった。


「あれでも、公爵家の人間だからな、まぁ、この際に逆らわないように懐柔するのもいいかもな」


シレネにはそう言った皇帝のことも、隣で笑っている皇后のことも理解できなかった。


いや、理解したいともう思わなかった。


シレネは自分でも情けない顔で両陛下を見上げたとわかっていた。


言い返したくても、自分にそんな力もなく勇気もない。


シレネは敗者として、広間から出て行くことしかできなかった。


この怒りをどこにぶつければいいのか、そもそもなぜこんなことになったのか、そう頭を整理してある事実にシレネは気づいた。


あの女が全ての元凶だと。


第二皇女で、半分同じ手が流れている、忌々しい異母妹エリカ・ロエム・オルメタ。


あの女さえいなければ。


そう結論付けたシレネはエリカの部屋へと向かった。


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